不老不死。
「人魚について貴方の考えをお伺いしたいのです。私は貴方の書く記事が好きでしてね。」
近藤は、此処では無い、何処か別の空間を見ている。
ー何故、私なのだろう?
自然と、そう思った。人魚について訊きたい事があるのなら、人魚の研究をしている者の方が適切なのではないか?
神木の中で好奇心が芽生えてきた。思考が起動する。
『聞きたいことは何なのですか?』
ピシャッ…。水の跳ねる音がする。
「人魚の肉を食べれば、永遠の若さと命を手に入れる事が出来ると様々な文献に出て来ますが、人魚自体は永遠の若さと命を持っているのでしょうか?」
『そうだと思いますよ。老女の人魚は余り文献には出て来ないですし…。』
「やはり…。そうですよね…。」
近藤は、肩を落としているかの様に見える。
『何故、その様な事をお聞きになるのですか?』
神木の内で、ある感覚が膨れる。
【彼は人魚が存在している事を前提に、この話しているのではないのだろうか?】
「人魚は永遠の若さと命を持っている事になりますよね…。だとしたら…。」
そう言葉を吐き、その後、言葉を詰まらせた。
そして…意を決した表情で
「だとしたら…。妻は人魚ではない。と云う事になるのでしょうか?」
と告げた。
ーえっ?神木は、混乱をする。
『近藤さん、それは…どういう意味で…。』
ピシャッ…。ピシャッ…ピシャッ…。
また水の跳ねる音が聴こえる。
近藤は日常的な会話をする様に
【妻が人魚になって帰ってきたのです。】
と言った。