人魚。
「では、神木さんは人魚を御存知でしょうか?」
近藤は穏やかな顔で問うた。
『人魚ですか…。上半身が人、下半身が魚の…。あの人魚の事ですか?』
神木は返す。
「えぇ、そうです。人と魚の混じる生物の事です。」
近藤の表情は、穏やかな儘だ。
『それが何か?』
「詳細を御存知でしょうか?」
ビシャッ。何処からか水の跳ねる音がした。
神木は淡々と会話をする。
『船に乗った旅人に歌いかけて、その美声で川底に沈めてしまうと言い伝えられていますよね。』
「矢張り、知識がおありの様ですね。」
近藤は微かに喜びの表情を覗かせる。
ピシャッ。また水が跳ねる音が聞こえる。
ピシャッ。神木は音のする方へと眼を向けた。
【壁の奥?】
眼を凝らし、耳をすませる。
ビシャッ…。矢張り、壁の奥から聞こえている様だ。
近藤は神木の行動を無視するかの様に続けていく。
「神木さんが仰った人魚は西洋に伝わる人魚ですね。でも私が、知りたいのは東洋…。取り分け中国や日本に言い伝えのある人魚の事なのです。」
中国や日本?神木は記憶を辿る。
被せる様に近藤は言葉を乗せた。
「やおびくに…。」
『あぁ。ソレで先程、私に八百比丘尼の伝説を聞かせたのですね。人魚の肉を食べて永遠の若さと命を手に入れてしまった少女、八百比丘尼の事を…。』
近藤は満足そうな笑顔を浮かべ…。
私が知りたいのは、不老不死を齎す人魚の事です。と言った。