〜結婚相手は自分で調達します。
私の名前はナズナ。
今はフルネームでナズナ・コーディリア・ローゼンライゲンという。「今は」というのはなんでも、私には所謂前世の記憶と言うものがある。
それも、何かのショックで思い出してしまった~とかではなく、物心ついた時からなんとなく古い記憶としてあった。なので、びっくりも衝撃もなく5歳になるまで育ったわけだ。回りからはちょっぴりおませな女の子にしか見えていなかった事だろう。加えて回りと比べられる機会がなかったものだから、私の特異性は見いだされることがなかったというところが妥当だ。
そして、前世の記憶は今生のこの世界とは似ても似つかないものだった、ということも関係しているのかも。あっちとこっちではそもそもの常識が違うのだ。あっちになくてこっちにあるもの、第一に魔法、第二に貴族や平民といった身分制度、第三に人間以外の生き物達がいること。
前世では、ファンタジーとか言われていたものが当たり前に今では存在している。でも此方に生まれた頃からはそれが当たり前だし、当たり前のこと過ぎてびっくりもワクワクも無かったわけだ。
まあ、こっちでは魔法という特殊能力があるわけだし、当然のように5才である子供の私も魔法が使えるのだった。
魔法はいとも簡単に使えた。当たり前のことなんだから当然かもしれない。それに私の今の生まれた家柄にも関係しているのかも知れないし、簡単に知識が手にはいる環境にいることが要因のひとつだったりする。父はローゼンライゲン侯爵、この国でも有力者の一人。母は王家の出、所謂元王女様というわけだ。そんな愛し合う両親の元、恵まれた環境に生まれた私は兎に角運が良かったということだろう。今回の父親は前回とはまるっきり違う。父親だけでない、母親も全く魂からの別人なんだろう。そのことを悲しいとも寂しいとも思わないのはやはり、前世の記憶をもっただけの、前世のナズナとは別人だからかもしれない。
柔らかい日差しが、窓のレース越しに全身へ降り注ぐ。少し眠くなってきた。
私はいつもの日課の読書に飽きて、子供の手には大きく分厚いそれを閉じる。本棚に戻すのが億劫であるが、戻さないとお父様に怒られる。この本はお父様の部屋の書斎から持ってきたものだった。
こうやって度々、今の父親の書斎から本を持ってきては知識を得ているわけだが、今回の本は古くさい魔法書であって有意義な知識が乗ってる訳ではなかった。持ってきただけの骨折り損だ。
座っていたソファから、浮いていた足を床に付けて、その重々しい魔法書を両腕で抱える。
ソファから飛び降りた反動ではらりと視界に桃色の毛先が踊る。
私の髪色は母親譲りの美しいプラチナブロンドに毛先にかけてピンクのグラデーションがかかっている。父親が赤髪なので両親の特徴をもらったというわけだろうか、兎に角お気に入りの髪色だ。幸い前世と違って姿形の違う今の私はこの些か派手な髪色もよく似合っている。
前世よりは整っていると言っても、決して美人という訳ではない。まあ、良く言って中の上といった所か。瞳が大きいのはチャームポイントではある。
ただ、少し大人っぽい私の親友は、「ナズナは自己評価が低すぎる!」といつも言うので、少しは良く見積もってもいいはずだと思いたい。
そうぼんやり親友の今の顔を思い浮かべていると、遠くから私を探す親友の声が聞こえていた。噂をすればなんとやら、である。
「ナズナ!新しいダンジョン見つけたから遊びにいかない!?」
やっと見つけたとドアを開け放つと同時に、彼女は仁王立ちでいい放った。真っ直ぐな銀髪を腰まで伸ばした猫目の美幼女だ。同じ年の大親友でこうして毎日のようにうちに入り浸っている。
この親友、実は前世からの付き合いだったりする。
名前をミシャ・ストレンジ。前世も名前がミシャだった。前世ではいつも遊ぶのは彼女で、確かに何をするのも一緒だった。唯一変な気を使わないし、全て言葉にしなくても互いの考えていることがわかったので説明ベタな私には本当に気楽だったのだ。
今もそれは変わらず。
「新しいダンジョン?いく!」
彼女の誘いはいつも二つ返事だ。
「OK、支度してて。私はナズナ父の許可とってくるから・・ついでにその本、持っててってあげるよ。」
ミシャは長い銀髪をなびかせて、父の書斎の方へ向かった。私はクローゼットを開けて動きやすい服を選ぶ。今着ているようなクラシカルなワンピースでダンジョンには行けない。まず、汚したくないし。
5分ぐらいして、ノック音が聞こえてきた。
ミシャだ。
彼女は不思議なことに半日かけても出ない私の外出許可をもぎとってくる。つまり、うちの両親の信頼は絶大なのだった。
まあ、私の特異性が霞むのも彼女のポテンシャルの高さも関係しているのかも。
同じ5才児なのにこの違いはなんだ。
私だって普通の幼女よりはしっかりしてるはずだ、多分・・・いや、ちょっと自信はないけど。
「ミシャはなんでいつもOKくれるの?」
「え、普通にいつも行き先伝えてるだけだよ?」
この様子じゃお得意の例のスキルも使っていないようだ。ほんと謎だわ。
そうして、二人でダンジョンの入り口という洞穴前へ立つ。
「こんなとこにもダンジョンってあるんだねぇ」
と私がキョロキョロと観察する。
ここは市街地からそこまで離れてはいない、草原の真ん中だ。そもそもダンジョンは森林の奥地だったり、人気の無いところに出来やすいのだ。
なぜかって、ダンジョンっていうのはモンスターたちの住処だ。穴はモンスターが地表へ表出するときに出来るもの。例えモンスターといえども野性動物と行動原理は似ている。人間を警戒するのだ。だから人里近いこんな所に入り口を作るなんて少し違和感がある。
「答えは簡単だよ」
そんな疑問にミシャはいともたやすく答えてしまった。というか考えが顔に出てただろうか。
「増えすぎたんだよ。ナズナは向こうの世界で猪がよく人里に紛れ込む話を聞いただろ?あれは、人が彼らの住処を減らしたからなんだけどこの世界ではその心配はない。土地開発なんて無縁だからね。だから逆に住処を減らしてしまっているということは数が増えてきてしまっているということさ。」
ミシャは答えながらもダンジョンの奥へどんどん進む。すぐに出てきたゴブリンを刀で切断していくミシャは手慣れたものだ。
なるほど、それもあり得ない話ではないかもしれないが
「ミシャはどうしてモンスターが増えていることに確信をもてるの?」
その理由だけでは根拠として弱い。だから彼女にはなんらかの裏付けがあるのだろう。考え事をしながらもゴブリンみたいなモンスターを魔法で燃やしておく。
「流石、ナズナ。」
とミシャはニヤリと笑う。前世でもよくしていた悪い笑みだ。
「ミシャはいつも私を買いかぶり過ぎだと思うんだけど・・・」
するとミシャはあきれた顔をする。
「そこの認識だけは昔っから変わらないよね。こんな考察する5歳児がホイホイいてたまるかってはなし。」
「そりゃ、前世の記憶があるし」
「記憶はあっても別人だよ。私たちとは違う・・・勿論、私たちはその運命のもと巡りあったのかもしれないけどね。忘れがちだけど、この世界でも5歳は年相応、確かに成人年齢が16歳と低い分小さな子供といっても小さい大人みたいな扱いはされているけれど。」
ミシャは見透かすように「交遊関係は広く持たないとね」と付け加えた。くそう、年齢を理由に引きこもっていることがバレている。
「それで、モンスターが増えている確信ってなんなの?・・・あ、トカゲのやつきたよ」
誤魔化すように元の話題へふる。それも見透かされてるようでこの友人は怖い。友人いわくわかっていたとしても、突っ込んでこなければ気にしなくていいとは言われたがそれはそもそもそういう問題だろうか?
「私の気配探知のスキルとマッピングのスキルはマックスまで上げた話したよね?」
「へ?」
スキルとは一人一人が持っている固有の能力のことだ。ゲームのようなステータスが存在して見えるわけなんだけど、それが誰でも見える訳でもないらしい。だから自分の持っているスキルを知らない人間も多々いる。
そして私とミシャはそれが共通の認識で見ることが出来る。便利。
「あれ、言ってなかったっけ。便利だからナズナもあげときなよって」
「あー、ちょっとずつならあげてるけど」
マックスまで上げてるなんて聞いてないよ!?
正直気配探知、マッピングなんてスキルはあげにくいのだ。ひたすらダンジョンのマップを作って経験値を上げるぐらいしかない。というかレベルマックスまで上げるってできるの?
「そりゃ、引きこもってるからだよ。市井でも経験値は増える、因みにどちらもね」
「そうなの!?」
ならすぐにでも、家から飛び出すよ!
「私、ゲームが好きだったから色々ためしてるんだ。まあ、この世界はゲームと違って命は1つしかないから慎重にはなるけど。コツコツやるのはナズナしか得意だからすぐ私のアビリティ追い越すよ!」
そういやこの友人はモンスターをハントするゲームとかよくやってたなぁ、と思い出す。でも飽き性なんですぐ辞めてたと思うけど。他のゲームもナズナに薦めるだけ薦めといて、やっとミシャのレベルを追い越した頃には自分はさっさと飽きたと次のゲームにはまってるやつだった。
「でも、気配探知ってことはモンスターの気配を追ってたということ?」
「まっさかぁ、そんなん気配だらけで混乱するだけだわ。」
いいながらもミシャはスパスパモンスターを切り捨てていく。私も負けじと魔法でモンスターを凍らしたり燃やしたり。
「じゃあ、その気配探知でなにをしたの?」
「え、うーん。どう説明したらいいかわからんのやけど。」
ミシャは本気で悩んでいるのかイントネーションが訛ってきている。
「なんか、やばげな魔力もったジジイどものあつまりがこないだ王宮であってねぇ、それも極秘で」
「ふぅん」
ミシャの一家は王宮で王族の警護をしており、ミシャも王宮に出入り出来る。しかし、それは表向きは存在しないことになっている隠密のような存在だ。彼女いわく、ちょっと闘えるただの使用人らしい。でも王子さまと乳母兄弟って中々すごくない?
なんか、前世のミシャも先祖はちょっと戦えるだけの農民っていってなかったっけ?
なにそれこわい。
「隠密スキル使って盗聴したんだ」
なんかわかんないけど国家機密5歳児に漏れてるこの国大丈夫!?
「・・・それって、バレたら」
ミシャは死んだような目で自分の首を切るジェスチャーをする。
「ま、それはさておき」
いや、おくなよ。
「内容が勇者召喚の儀についてだったわけなんだけど」
「勇者召喚?」
思わずモンスターを燃やす火力を間違えてエリア一体を真っ黒に焦がしてしまった。ちょっとした勢いでしゃっくりしちゃったようなもんだ。
反射的にミシャがはったシールドによって二人とも無傷だ。
「もう、ナズナあぶないよー」
「ご、ごめんー。でもただごとじゃないよね?」
「うん、なんか魔王が侵略を開始するとかうんたらかんたら」
「え、魔王っているの?」
思わずミシャにつめよる。
「いや、いないっしょ」
て、いないんかーい。
「じゃあなにそれ?」
「なんか、神託てやつがあったらしいよ。ほら、なんか変な宗教みたいなのあるやん。それで魔王がこの世界に復活するから、異界から勇者を喚起しなくてはならない、ってなったらしい。」
「なんで、勇者は異世界から喚ばないといけないの?」
そもそも、なんで異世界から勇者ってよぶんだろうね。勇者の神格化のためかな?はた迷惑な話だ。いや、このご時世召喚巻き込まれされたら御の字だろうか?
「しらん」
「ミシャさんでも知らないことがあんのね」
ミシャには何を今更という顔をされる。
ま、この世界での人生5年、私たちの知識は殆どが前世のものだ。
兎に角、モンスターの増加は魔王復活の予兆ということらしい。なんだその予言の書とか黙示録とか終末論みたいなの。あれかな、前世の記憶でいう地震とかいつくるかわからない災害のような感覚なのだろうか。
「さて、ナズナさん。このダンジョンも攻略終了した訳だし埋めるよ」
「ああ、うん移転するから私につかまって」
ドオオオオン
移転後、適当に魔法で崩落させる。地響きをあげながらダンジョンは崩壊した。このまま放っておいてもまたモンスターが住み着くだけだ。 それにダンジョンなんて蟻の巣みたいにどんどんできるもんだし。特にこんな初心者レベルなんて数ヶ月あれば完成する。
「うーん、不完全燃焼だー」
と青い空のしたにでて背伸びをするとミシャもうんうん頷いていた。
「もっと深層階まで成長したダンジョンにいきたいよねぇ。100年ものとか」
こないだ50年ものダンジョンを踏破してあまりの手応えのなさに二人してがっかりしたものだ。
「でも、そんな遺産レベルなかなか近くにないよね」
「いや、あるにはあるけどナズナの父の許可が降りない。父だけじゃなくて王宮も許可しなさそうだしね」
え、そうだったの。ダンジョンって入るのに王宮も許可いるんだね。知らなかった。
「お嬢様って結構めんどくさーい」
私が項垂れているとミシャはポンポン肩を叩いてくる。
「だって、未来の王妃様(候補)だしね」
まあ、それでなくても父は親バカだし、とミシャは付け加える。
「へ?あ、え?」
「そんで、ダンジョン探索に王宮の許可はいらないよー。そんな立場の人間が簡単に危険地帯へいけないよねー。」
変な声出た。
「どういうこと?ミシャ!」
思わずガシッとミシャの頭を掴むと、ミシャは可愛そうなものを見る目だ。
「だって、ローゼンライゲン侯爵家でしょ。王子の嫁第一候補と王宮公認まったなし。今のところ外交的結婚も必要ないし、ローゼンライゲン家は軍事力も一流の名家で、宰相閣下との勢力争いで有力な家門だからねぇ。」
「まって、私なにも聞いてない!」
そりゃそうだとミシャはいう。
「あの父が娘にそんな話すると思う?」
そうか、それで王宮の許可もいるっていうのか。というか未来の王妃候補だってふざけるんじゃない。そんなものなってたまるか。お姫様になれるんだ、わーい!は本当の5歳児の頭だけにしてくれ。
「王子さまと結婚なんていーやーだあああああああ!!!」
私の叫びは草原に木霊した。
「お父様!」
「おかえり、マイスイートフェアリー」
「なんだ、そのキモい呼び名は」
両手広げて出迎えてきた父親を魔法で防御する。そのシールドにぶつかってヘブシッと倒れる残念なイケメン25歳。
25歳って私らの前世では独身謳歌してたなぁとふと思い返す。
「おねえさま、おかえりなさい」
にっこりと迎えてくれる弟のルイスに挨拶する。
「ただいま、ルイス。」
「おかえりなさい、ナズナ」
「ただいま、お母様・・・それで、ミシャから聞いたんだけど、私、王妃候補なの?」
娘が冷たい、とシクシク泣くふりをしていた父はピシリと固まる。母はあらあらと困ったように笑っている。
「あらあら、そーなのよぉ。ナズナちゃんはまだ5歳だから10歳の誕生日で御披露目予定だったのだけど・・・」
「私、絶対嫌だからね」
すると父親が復活した。
「だよねー!ナズナは王子なんかと結婚いやだよね!」
大丈夫か、この父、不敬罪でつかまらないか?
「いや、王妃になりたくないだけだから」
普通に考えてそんな責務の大きい存在に耐えられる気がしない。私は気儘に生きたいんだ。
「でもねぇ、年頃丁度でそこそこの家柄で魔力も申し分なしとなれば第一候補には上がってしまうのよ。だからその可能性ゼロとしてその候補から外すのはどうかしら?」
母親も意外に私を尊重してくれるらしく、それっぽい意見をくれた。てか、そんな簡単に婚約者候補外れるもんなの?テトテトと後ろからついてきた足音に振り替えるとミシャが得意気に笑っていた。
「こんにちは、おじさん、おばさん、ルイス・・・ああ、婚約者の話ね。そんなにナズナが嫌なら話は潰してくるけど?ただ、対外的には何かしら分かりやすい理由が欲しいところだ」
やっぱり、そうなるよね。
そうだ!と母が思い付いたとばかりに手を叩く。
「10歳になるまでに婚約者を見つければいいのよ!」
「は?」
なにいってんだ、こいつ。
ミシャもうんうん頷いていた。
「それが一番だね。そうと決まればナズナ、冒険者ギルドへ行こうか」
「え、そこお見合い的なかんじじゃないの?」
「子供が登録してる結婚相談所があってたまるか。出来るだけ外にでて、出会いを探すんだよ。ギルドは子供でも登録してるし、将来有望なら尚更登録者に限るしね」
なるほど。とミシャに納得していると、
母はまたにっこり笑っていう。
「ただし、ギルド登録したからって危ない依頼は禁止よ?」
「はーい、じゃあ早速いってきます」
とミシャは私の腕を引っ張ると引きずりながら走り出した。
え、ちょっとまって、今から行くの!?
すごい勢いでついたのは、ザ、普通のギルドだ。1階はバーカウンターのある酒場、2階が依頼の受付等やっているカウンターがあるらしい。
「はい、これ着てね」
ミシャに渡されたのは私の体がすっぽり覆われるサイズのローブだ。パステルピンクでかわいい。ミシャはその色違いでパステルパープルだ。一応私たちは貴族の娘ということで、できるだけ顔は隠した方がいいだろう。私も目立ちたくないけど、このローブかわいいけど目立つから意味ないんじゃないかなぁ?デザイン的には口と鼻は隠れているけど。
一階部分に足を踏み入れると、一斉に視線が集まる。そりゃ、幼女サイズだもん、目立つよねぇ。
薄暗くてアダルティな世界だなぁ。
バーのカウンター手前でいた数人の男女から声がかかる。
「おい、チビちゃん。来るとこ間違ってるぜ」
「ここはあぶねぇぞぉ、さっさとかえんな」
それにミシャが淡々と答える。
「ギルドに登録しにきたので、問題ありません」
ざわつく店内。
私は少し引け腰になりながらもミシャについていく。
やっと奥の階段まで来たときだ。
ドン、
足が飛び出してきた。私はビクッと肩を揺らすがミシャは無反応だ。これは壁ドンの足ドンってやつだろうか。
「おい、ホントにガキの遊びじゃねーんだ。怪我すんぞ、帰れ」
「いやです!」
思わず口から飛び出した言葉に慌てて手で口を押さえる。だってギルド登録できない=王妃候補直行コースだ。それだけは阻止せねばならん。
言ってから足ドンお兄さんがこわもてなのを見て私はカタカタ震えはじめた。ダメだ、コミュ症幼女にはハードルの高すぎる相手だった。
さっと、視界が遮られたかと思うとミシャが私を庇うように立っていた。
「おじさん、あたしら普通の冒険者くらいにはつよいよ?」
背中しか見えていないが、声から想像するにミシャは満面の笑みだ。因みにスキルはまだ発動していない。
「お、おじ!俺はまだ19だ!」
足ドンお兄さんは眉間のシワを深くする。ああ、更に強面だよぉ。
「十分おじさんだよねー。だってあたしら16歳になったら30歳でしょ?」
と私に同意を求められても、私は怖くて声がでない。
「げ、おまえらちいせぇとおもったが5歳かよ!?」
指を折って数えていた男が目を見開く。
「そーだよー、5歳児にコレ取られたおじさん、超間抜けってこと」
ミシャはクルクルとさっきまで持ってなかったはずのキーホルダーのような金属のタグを持っていた。
「あ、てめ!?俺の、いつのまに?」
「はい、かえすね」
チャリ、と音を立てて足ドンお兄さんの手のひらにそれを返すとヒラヒラと手を降りながら階段を上るミシャ。まじかっけーよあんた。
私は慌ててあとを追う。
「あ、ちょいまてよ!」
足ドンお兄さんが慌てるが無視だ。
2階に上がりきるとカウンターのような所に綺麗なおねーさんが立っていた。二人いる。
私とミシャは近くのおねーさんの方へ向かった。
「すみません、登録お願いします。」
「えっと、ご依頼でしょうか?」
「違います、ギルドメンバー登録です。」
ちょっとイラッとしながらミシャがいう。ちょっと怒んないでよー?
「あ、はい、ではこちらの用紙に・・・」
どうやら書類だけでいいそうだ。
簡単な手続きで認証タグを貰って登録は完了した。さっき足ドンお兄さんからミシャが奪ったキーホルダーって認証タグってやつだったんだね。
んで、認証タグってなんのためにあんの?免許証てきなかんじかな。
「免許証がわりになるのもたしかだけどね、モンスターに殺されたりして判別不明の死体になったとき、これが目印になるってわけ」
ミシャがそれを首につけているので私も真似する。
「米兵のドッグタグみたいだね」
「そうそう、えーと、ランクサクッと上げたいよね。依頼書張ってるのはー」
依頼書は確か掲示板にあった。私は掲示板を指差す。
「あっちだよ」
「ナズナ、採集系の依頼書あつめて」
「持ってる素材でいけるやつ集めてさっさとランク上げるってわけだね」
私がポンと手を叩くと、ミシャも得意気だ。
「そう!私の考えてることいつも分かってるのはナズナだけだよ」
そんで、採集系のもの集めてたんだけど・・・貼ってるの全部持ち合わせで事足りるね。あ、でもランク足りなくて受けれないやつは無効かなぁ?
とりあえず、ミシャに渡そう。
ミシャの集めたのと私の集めた依頼書を合わせてカウンターへ持っていく。
「おねーさん、私たちこの持ち合わせあるから依頼完了確認してください!」
「ええっと、この依頼書は剥がしちゃだめよ?」
紙の束を渡すとおねーさんは明らかにいたずらをする子供をたしなめるような、そんな口調で言った。
「でも、完了しちゃうからもう貼る必要ないよね?」
こてんと首をかしげながら鞄をあさり、1枚目の依頼の品、回復ゆりの球根を10個取り出す。
ちょん、とミシャが次の依頼書の、ドードー鳥の卵をカウンターへ置いた。
「ちゃんと本物か鑑定してみてね!」
木のカウンターに並ぶ依頼品の品々に少しずつおねーさんたちの顔色が変わる。
「これは銀水晶の洞窟にしか咲かない銀水晶のティアローズ・・・」
「こ、これってクイーンタイガーの牙じゃない?まさか、拾ったのよね・・・?」
依頼書は40枚ぐらいだろうか、納品だけで済む依頼は全て完了した。で、肝心の儲けはというと・・・金貨3枚と銀貨4枚といった所だ。
ううーん、価値がわからんなぁ。
「ねぇ、ミシャ」
「金貨1枚は約十万円、金貨三枚は王国騎士1ヶ月分の給料に相当、ただし、物価等差異があるため前世との価値換算は簡単ではない・・・かな。」
流石ミシャ、すぐほしい答えが帰ってくる。
「歩くガイドブックだねぇ」
「いや、正確な知識と量はナズナのメモリーライブラリには敵わないから」
メモリーライブラリとは私のスキルの1つで読んだ本を自分の内世界の図書館へ復元できる能力だ。読んだ本を全部持ち歩いてるって感じだ。決して覚えている訳ではない。
私は生きた知識ではミシャには敵わないと思うなぁ。
「で、儲けたお金はどうするの?」
正直5歳児お金はあまり必要としていません。
しかし、お金のことはちゃんとしておかなくちやいけません。これ大事。
「共同口座にしようと思う」
この世界には銀行はない。銀行はないが王立の貸金庫がある、そこの口座を作るつもりか?
「そんな警護ガバガバなとこで大丈夫?」
「あのね、ナズナ、ここ400年破られてない金庫はガバガバとは言わないの。この世界基準では世界一の王立金庫なんだから。・・・で、実際は王立金庫は使わないけど。私とナズナの共有空間あったでしょ?あそこに貯めていくの。有事に備えてね、で私たちの取り分はそこから1人月銀貨5枚。それは自分で保管するも使うもよし・・・お小遣いってことね。で、共有財産は二人で同意して使うことにする、OK?」
「OK!」
有事ってのは何を差してるのかわけらないけど、共有財産ってのはOKだ。しかも月銀貨5枚ならお小遣い十分だ。今のところ使うとこないし。老後の資金にでもしようかな。
「では、頑張ってクエストに出て、将来有望な男を探すぞ!」
「おーーー!」
二人で気合いを入れているところに受付嬢から声がかかった。
「あの、ランクなのですが、討伐は中級、採集は上一級まで解放されました。」
よしゃ!じゃあ高価なクエストやりまくって稼ぐぞー!・・・違った将来有望な男子を狩りに来たんだったわ危ない目的見失いそう。
クエストのランクは
下級、中級、上級に分けられている。上級のみ三段階に別れており、上三級、上二級、上一級というわけだ。つまり採集は全てのクエストに参加できることになったのだ。討伐はコツコツやっていくしかないなぁ。
「早速、何かたおしに行こうよ!」
私はワクワクしながら掲示板を見ていると、ミシャも吟味している。
「中級かぁ、私らで倒せるやつで・・・あ、これとかどお?」
「鏡の洞窟から涌き出てきたワーム10体の討伐・・・畑を荒らすので困っています。か」
まあ、実力的には大丈夫だろうけどワームって虫だよね。やだなぁ。
「あ、ワームってキモいけどナズナ無理だよね」
「出来れば虫以外がいいな」
「じゃあ、レッド・ベルベットドレイクの討伐で」
「よしOK」
報酬は金貨1枚か、まあ、こんなもんだもね。
わいわい言いながらギルドの出口まで行くと後ろから呼び止める声がした。