表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おもちゃ箱 ~あき伽耶 童話と児童文学作品集~

おにいちゃん、やめます。

作者: あき伽耶

ひだまり童話館 お題「びりびりな話」参加作品

挿絵(By みてみん)



6がつ6にち


ボクのおうちにね、まっ(しろ)いベッドがやってきた。

でもボクがねるには、ちいさいなあ。

びょういんから、やっとかえってきたおかあさんが、だっこしていた(あか)ちゃんをまっ(しろ)いベッドにねかせたよ。


「たっくんはね、おにいちゃんになったんだもんね」と、おかあさん。


うん。

でも、おにいちゃんて、なにするのかな。


名前(なまえ)は、メリちゃんだぞ。ほら、かわいいだろ?」と、おとうさん。


メリちゃん? ようちえんのおともだちと、おんなじだ。


「かわいがってあげるんだぞ? よろしく、おにいちゃん」


ふーん、おにいちゃんて、カワイガッテあげるんだ。


「あらまあ、メリちゃんたら」と、おかあさんが、オムツのテープをびりびりして、(あか)ちゃんのおしりをきれいにした。


わ、なんかへんなにおい! 


おとうさんもおかあさんも、かわいいっていうけど。

(あか)いかおはまんまるだし。かみのけは、あんまりなくてはげてるし。ぼくがニコッとしてあげても、ちっともわらわないし。クサイし。

それにおともだちのメリちゃんは、もっとかわいいよ? おんなじメリだけど、ぜんぜんかわいくない。

おかおが(まる)いから、メリじゃなくて、マルのほうがぴったりだ。

 


 *



7がつ7にち


「かしこみかしこみ」


あのカンヌシさんがバサバサふってるやつ、やりたいな。おもしろそうだもん。

(あか)いかおのマルは、(しろ)くてひらひらしたぼうしにドレス。

おひめさまみたいで、ちょっとだけだけど、かわいいな。


きょうはあさから、じいじとばあばが()て、しゃしんやさんにいって、カンヌシさんのとこに()て。みんなに「おにいちゃんでしょ、しずかにしてね」っていわれて、つかれちゃった。

でも「えらいね」って。

えへへ。

おにいちゃんて、たいへんだなあ。


おうちにかえって、ベッドでマルがおひるね。

おとうさんもおかあさんも、じいじもばあばも、ベッドのまわりで「かわいいかわいい」って。


あのねボク、ようちえんの『のぼりぼう』、てっぺんまでできるようになったんだよ!

ベッドのぼうをカッコよくのぼってみせたら、「(のぼ)らないよ、おにいちゃんでしょ。メリが()きちゃうでしょ」っておこられた。


みんなして、マルばっかり。

おにいちゃんなんか、つまんない。



 *



8がつ8にち


おっぱいっておいしいのかなあ。マルはまいにちのんでるけど。

ボクものんでみたいな。

でもはずかしいから、おかあさんにはナイショだもん。 

マルはいっつも、おかあさんのだっこでおっぱい。

ボクがだいすきなおかあさんのだっこ。

おかあさん、かしてあげるね。

おとうさんも、かしてあげるね。

だってボク、おにいちゃんだもん。



 *



9がつ9にち 


かしてあげた、だっこ。

ぜんぜんかえってこない。

マル、はやくかえして。

おにいちゃんて、いっぱいガマンする。

やっぱりおにいちゃん、やだなあ。

おにいちゃんやめて、マルになりたい。

そしたら、ずっとだっこしてもらえるもん。

でもまいにちおっぱいは、やだな。

マルのかおをじいっとみてたら、マルがニコッてした。

へえ。マル、かわいい。



 *



10がつ10にち 


ボクね、マルのにおいがすきなんだ。

おかあさんにきいたら、おっぱいのにおいかもしれないねって。

マルのおむねのところをクンクンする。

あったかくて、なんか()ってるいいにおいなの。

クンクンしてたら、マルがボクのかみのけ、ぎゅーってひっぱった。


「いたいよ、マル、やめてよー」


おねがいしたのに、ぜんぜんやめないの。

いたくていたくて、なみだでた。


「マルはあかちゃんだから。たっくんごめんね。おにいちゃんだからがまんしてね」


がまん、きらい。

おにいちゃん、きらい。

ボクがかみのけぎゅーってしたら、おこられるのに、マルはおこられない。

ずるい。

マルのかみのけ、ちょっとだけひっぱったら、マルがふぎゃってないた。

マルだって、がまんしろ。



 *



11がつ11にち 

 

ボクのだいじな(くるま)のぬいぐるみ。おかおのついた(あか)(あお)のくるま、ジョウとトムっていうんだよ。

おへやのね、えほんやブロックのやまのうえ、ボクといっしょにブンブンビュ―ンってはしってね、はやいんだよ。すっごくたのしいんだ。


マルがえほんのとなりでごろごろしてる。

ごろごろしたあとクルンって、おなかをゆかにつけて、あたまをぴって()げるの。

マル、がんばって、できるようになったんだよ。

ボク、ごろごろのマルにぶつからないようにしてるけど、ちょっとジャマ。


おやつのあと、ジョウとトムであそぼうとしたら、マルがおくちでびしょびしょにしてた。

ボクのだいじなジョウとトムなのに……!

びしょびしょ、やめてよ!

かえしてよ!って、ジョウとトムをとったら、マルがギャーッてないた。

おかあさんが、びっくりしてこっちにきた。


「たっくん、どうしたの?」


ボクのだいじなジョウとトムだもん。

マルがおくちにいれるの、やなんだもん。

でもおにいちゃんなんだもん。

でもびしょびしょ、やなんだもん!

ボク、マルみたいに、まっかになった。


びりびり。

びりびりびり。


ボクのおむね、ようちえんの「しんぶんしびりびり」みたいだった。


やだ!

やだやだ!

もう、いやだ!

マルなんかきらいだもん!

おにいちゃん、いいことないもん!

おにいちゃんなんて、いやなんだもん!


「ボク、おにいちゃん、やめる!!」



 *



12がつ12にち


おとうさんとおかあさんが、こまってる。

でも、おにいちゃん、やめた。

がまん、やめた。

すきなこと、いっぱいするんだ。

すきなことしたら、たのしいはずなのにね、……なんかへんなの。

びりびりのおむねに、いらいら(むし)がくっついちゃった。


ジョウとトムといっしょに、ブンブンビューンって、すっごく(はや)くはしったよ。

マルはそばのベッドでおひるね。

でも、しるもんか。

びりびり、ブンブン、いらいら、ビューン!

びりびり、ブンブン、いらいら、ビューン!

しまった、ベッドにしょうめんしょうとつ!!


ドッカンごっちーん!!!!


あたまがびりびりいたくて、トムがびりびりやぶけて、()きたマルが、わあんてないちゃって……

だから、ボクも。


うわあああん、うわあああん。


おかあさんがはしってきて、ボクのことキュッて、だっこしてくれた。

いたいあたまも、なでなでしてくれた。トムもなおしてくれるって。

 

「ねえたっくん、おにいちゃんだからって、がまんさせてばかりで、きがつかなくて、ごめんね。おにいちゃん、がんばらなくていいよ。だっこだって、いっぱいしてあげるね」


おかあさんがだっこしてくれてたら、いらいら(むし)となみだがね、だんだんとちいさくなった。

おめめのさめたマルは、ベッドのはしっこで、ごろごろクルンをやろうとしてた。


わあマル、だめ! そこでクルンしたら、ベッドにぶつかっちゃう!

マルあぶない!


ごっちんしないように、ボク、いそいでベッドのぼうをにぎった。

おててのクッション、まにあった!


マルはそんなこと、ぜんぜんきにしないで、じょうずにごろごろクルンをして、ニコッてした。

ボクのかおみてね、うれしいねって、ニコッてした。


「ただいま」と、(かえ)ってきたおとうさんが、ボクをキュッてだっこしてくれた。


ねえおとうさん、マル、あぶなかったの。

ぜんぜんわかってないの。

やっぱり、マル、あかちゃんだもんね。

それでね、マルがニコッてしたおかお、なんかね、メリちゃんに()てたんだよ。



おかあさん、かしてあげるね。

おとうさんも、かしてあげるね。

でもときどき、おにいちゃんにかえしてね。

やくそくだよ?

よろしくね。

メリ。





お読みいただきまして、どうもありがとうございました(^^)


【物語にちょっと役立つ0歳児の発達豆知識】

3か月……人の顔に対して笑いかける「社会的微笑」がはじまります(個別認識はまだです)。

5か月……自分で仰向けから腹ばい姿勢へ変えられる「寝返り」がはじまります。

6か月……知っている顔とそうでない顏の区別がはじまります。


新生児のお世話に、二人の子どもの子育てにと、お父さんお母さんもご自身が精一杯の大変な時期だと思います。今回はお兄ちゃん視点でしたが、いつか、お父さんお母さん視点のお話も書いてみたいと思います。

追記 「おねえちゃん、やめます。というおはなし。」子育て支援エッセイを書きました。最近聞いた新米おねえちゃんになったお子さんのお話です。ご関心ある方は下のバナーからどうぞ。


物語が少しでもよかったなと思われましたら、ブックマーク、★、感想で応援いただけましたら、嬉しく思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
素敵なお話でした。 ありがとうございました。 そういえば、もうずっと昔のことですが うちのお姉ちゃんも、下の子が生まれてきた時 頭なでなでしながら 「かわいい。かわいい。」 そのうちだんだん、ぐりぐ…
[良い点] 素直でまっすぐな気持ちが最後までたっぷりで、可愛いのにウルリとしてしまいました。 少しずつ出来る事が増えていくメリちゃん。 色んなガマンや葛藤を経てお兄ちゃんになっていくたっくん。 二人…
[良い点] お兄ちゃんって大変ですね。 「お兄ちゃんでしょ」という言葉がとても理不尽に感じました。 でもメリちゃんは0歳児ですから仕方がないですね。 でも最後は和解したようで良かったです。 たっくんは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ