まとも
私は、子供の頃からおかしかった。
具代的には、バッタの足を一本ずつ引きちぎったり、トンボを2匹捕まえて共食いさせたりしていた。
思い出すと、自己嫌悪で自分を殺したくなる。
小学生の頃、グロテスクな絵に惹かれるようになった。高学年になって、それが性的興奮なのだと知った。
中学生になると、絵から現実になった。スプラッター映画にもハマった。
同時に、常識も身に着けていった。自分がいかに最悪な人間かも分かってきた。
高校に進学すると同時に、私は悪趣味をキッパリ止めることにした。これからは善良な人間として生きると誓った。
そこに現れたのが、巴だった。
巴は、私の劣情を刺激してくる女だった。しかし善良に生きると決めた以上、邪険にできない人間でもあった。
まさか付き合うことになるとは思っていなかったが。
そんな私も、今では社会人である。彼氏や結婚の話などを出されると困ってしまうが、今のところ順調だ。
今日は飲み会に誘われて、参加していた。
上司の女、石井さんが話しかけてくる。
「橋田さんは彼氏とかいないの?」
「はい。興味ないんですよ」
そういう話の流れだったので存在を消しているつもりだったが、話を振られてしまった。
「あら〜若いのに」
「ははは」
「橋田さんはフリーなのか!メモしとこう」
他の人も会話に入ってくる。
私はほぼ愛想笑いでその会話をやり過ごした。
つまらない飲み会だ。私は接待料として、たらふく食べて帰った。
家に帰ると、一人だった。今日は巴は来ないらしい。
明日は休みなので、私はシャワーを浴びて寝た。家事などは全部明日にしよう。
酒を飲んでいたので、私は泥のように眠ってしまった。そのせいで、巴からの着信に気が付かなかった。
朝起きて、スマホを見た私は、すぐ巴に電話をかけた。
コールが長い。だが、私は彼女が出るまで待った。
「…」
「巴?おはよう。ごめん、夜気づかなくて」
「いいよ、あたしより飲み会が大事なんだもんね」
「スネないでよ。休日なんだし一緒にいよう」
「ふん、仕方ないなぁ」
「迎えに行こうか?」
「いい。今から行く」
「分かった。気をつけてね」
電話を終え、私は外に出る準備をした。
巴が私の家に着くと、やっぱりムスッとしていた。
そんな巴と、私はデートすることにした。
こういう時は、とにかく気にしないこと。あと、写真を撮ること。
「巴は顔がいい」
「顔だけ?」
「むくれてても可愛い」
「ぶー!」
カシャ、とシャッター音が鳴る。撮れた一枚を見せると、巴からダメ出しが入る。
「盛れてない。角度がダメ」
「どこからでも可愛いじゃん」
「見ててよ」
巴がスマホを出し、自撮りをする。それを見せてもらうと、確かに盛れている、ような気がする。
「うーん。盛れてるけど、いつも可愛いから変わらないよ」
「あたしのことめっちゃ好きじゃん」
「顔がね」
「それイコールあたしだし」
巴の機嫌が良くなってきたのが分かる。
その後は、カラオケに行った。
「まじらぶ♪きみだけ♪永遠フォーエバー♪」
「まじでなんなの?この曲」
巴は私のこの選曲が気に入らないらしい。
「流行ってたやつ」
「世間一般ってしょーもな」
「世間に溶け込むためには、こういう曲を覚えないとなの」
「ふーん。飲み会で歌うため?」
「まぁ。そういう感じ」
「さすがコミュ力抜群の梢さんだわ」
また巴がプリプリ怒り出した。
「嫉妬してくれてありがとう」
「あ…当たり前でしょ。梢しかいないもん」
巴は自分で言って、真っ赤になっている。私はそんな彼女に、キスをした。
頭に抱きつかれて、長い間キスをした。カラオケの曲は終わり、CMを流しだす。
楽しそうに喋る男女の声を聞きながら、私は巴と濃厚なキスをした。
キスなんて気持ち悪いと思っていたのに、巴とのキスは、気持ちよかった。頭がとろけるような感覚だ。
私は巴と混ざりあいたくて、彼女の体に触れた。服の上からではだめだ。直接肌に触れて、彼女を感じないと。
服に手を入れようとしたところで、巴に手首を掴まれる。
「帰ってからにしよ」
「分かった」
私は巴から体を離し、真正面から彼女を見る。
巴はやっぱり、可愛かった。
結局カラオケには一時間もいなかった。
家に帰った私たちは、一緒に風呂に入って、抱き合って、キスをした。
体も、お互いを拭きあった。私は、今日も左腕を消毒してあげた。
髪の毛も乾かし合ったし、保湿クリームも塗り合った。
ベッドに寝転んだら、絡み合うようにお互いを愛撫した。
巴はたまに、痛いことをしてきた。噛んだり、引っ掻いたり。おかげで終わる頃には、体のあちこちに傷ができていた。
私の首を撫でながら、巴は満足そうな笑顔を浮かべる。
「これで、誰のものか分かるでしょ」
「跡でも付けたの?」
首を何度も吸われていたような気はする。
「たくさんね」
「私も付けようかな」
だるい体を持ち上げ、巴の首に唇を寄せた。彼女はクスクスと笑う。
「付け方知ってるの?」
「吸うんでしょ?」
「あら、処女のくせに。エッチ」
「これじゃ一生処女かもね」
私は巴の柔らかい肌に吸い付いて、跡を付けた。
「付いた?」
「うん。なんか、意外とロマンチックじゃないね」
「あたしみたいに最中にしなきゃ」
「ふふ、そうだね」
私はベッドに倒れ込み、巴と目を合わせた。
「梢は、あたしでいいの?」
「なにを今更」
「いや、だって、あたしチンコないし」
「チンコと付き合うんじゃないしいいでしょ」
「ふ…あはは!チンコと付き合うとかいう日本語やばい」
「逆に巴は、私でいいの?私もチンコ無いけど」
どちらかと言えば、チン…男が恋しくなるのは巴の方ではないか。今まで男とも付き合ってきたのだから。
「あたしは梢がいいの。別にチンコなんて買えばいいじゃん?」
「あー、あるね。オモチャでしょ」
「梢〜。知ってるなんて、もぉ。本当にエッチなんだから」
そんなふうに言われて、私は顔が熱くなった。
私は必死に言い訳しながら、それでも、この時間を幸せに思った。
今まで、ずっと不安だった。自分がまともな恋愛などできないのではないかと。いつか人を殺してしまうのではないかと。
それでも、大丈夫だった。私は今、確かに巴自身に恋をしている。
だからこそ、ちゃんと彼女と向き合わなければならない。