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メンヘラと変態の百合  作者: 紅輪
4/6

まとも

 私は、子供の頃からおかしかった。

 具代的には、バッタの足を一本ずつ引きちぎったり、トンボを2匹捕まえて共食いさせたりしていた。

 思い出すと、自己嫌悪で自分を殺したくなる。

 小学生の頃、グロテスクな絵に惹かれるようになった。高学年になって、それが性的興奮なのだと知った。

 中学生になると、絵から現実になった。スプラッター映画にもハマった。

 同時に、常識も身に着けていった。自分がいかに最悪な人間かも分かってきた。

 高校に進学すると同時に、私は悪趣味をキッパリ止めることにした。これからは善良な人間として生きると誓った。

 そこに現れたのが、巴だった。

 巴は、私の劣情を刺激してくる女だった。しかし善良に生きると決めた以上、邪険にできない人間でもあった。

 まさか付き合うことになるとは思っていなかったが。

 そんな私も、今では社会人である。彼氏や結婚の話などを出されると困ってしまうが、今のところ順調だ。

 今日は飲み会に誘われて、参加していた。

 上司の女、石井さんが話しかけてくる。

 「橋田さんは彼氏とかいないの?」

 「はい。興味ないんですよ」

 そういう話の流れだったので存在を消しているつもりだったが、話を振られてしまった。

 「あら〜若いのに」

 「ははは」

 「橋田さんはフリーなのか!メモしとこう」

 他の人も会話に入ってくる。

 私はほぼ愛想笑いでその会話をやり過ごした。

 つまらない飲み会だ。私は接待料として、たらふく食べて帰った。

 家に帰ると、一人だった。今日は巴は来ないらしい。

 明日は休みなので、私はシャワーを浴びて寝た。家事などは全部明日にしよう。

 酒を飲んでいたので、私は泥のように眠ってしまった。そのせいで、巴からの着信に気が付かなかった。

 朝起きて、スマホを見た私は、すぐ巴に電話をかけた。

 コールが長い。だが、私は彼女が出るまで待った。

 「…」

 「巴?おはよう。ごめん、夜気づかなくて」

 「いいよ、あたしより飲み会が大事なんだもんね」

 「スネないでよ。休日なんだし一緒にいよう」

 「ふん、仕方ないなぁ」

 「迎えに行こうか?」

 「いい。今から行く」

 「分かった。気をつけてね」

 電話を終え、私は外に出る準備をした。

 巴が私の家に着くと、やっぱりムスッとしていた。

 そんな巴と、私はデートすることにした。

 こういう時は、とにかく気にしないこと。あと、写真を撮ること。

 「巴は顔がいい」

 「顔だけ?」

 「むくれてても可愛い」

 「ぶー!」

 カシャ、とシャッター音が鳴る。撮れた一枚を見せると、巴からダメ出しが入る。

 「盛れてない。角度がダメ」

 「どこからでも可愛いじゃん」

 「見ててよ」

 巴がスマホを出し、自撮りをする。それを見せてもらうと、確かに盛れている、ような気がする。

 「うーん。盛れてるけど、いつも可愛いから変わらないよ」

 「あたしのことめっちゃ好きじゃん」

 「顔がね」

 「それイコールあたしだし」

 巴の機嫌が良くなってきたのが分かる。

 その後は、カラオケに行った。

 「まじらぶ♪きみだけ♪永遠フォーエバー♪」

 「まじでなんなの?この曲」

 巴は私のこの選曲が気に入らないらしい。

 「流行ってたやつ」

 「世間一般ってしょーもな」

 「世間に溶け込むためには、こういう曲を覚えないとなの」

 「ふーん。飲み会で歌うため?」

 「まぁ。そういう感じ」

 「さすがコミュ力抜群の梢さんだわ」

 また巴がプリプリ怒り出した。

 「嫉妬してくれてありがとう」

 「あ…当たり前でしょ。梢しかいないもん」

 巴は自分で言って、真っ赤になっている。私はそんな彼女に、キスをした。

 頭に抱きつかれて、長い間キスをした。カラオケの曲は終わり、CMを流しだす。

 楽しそうに喋る男女の声を聞きながら、私は巴と濃厚なキスをした。

 キスなんて気持ち悪いと思っていたのに、巴とのキスは、気持ちよかった。頭がとろけるような感覚だ。

 私は巴と混ざりあいたくて、彼女の体に触れた。服の上からではだめだ。直接肌に触れて、彼女を感じないと。

 服に手を入れようとしたところで、巴に手首を掴まれる。

 「帰ってからにしよ」

 「分かった」

 私は巴から体を離し、真正面から彼女を見る。

 巴はやっぱり、可愛かった。

 結局カラオケには一時間もいなかった。

 家に帰った私たちは、一緒に風呂に入って、抱き合って、キスをした。

 体も、お互いを拭きあった。私は、今日も左腕を消毒してあげた。

 髪の毛も乾かし合ったし、保湿クリームも塗り合った。

 ベッドに寝転んだら、絡み合うようにお互いを愛撫した。

 巴はたまに、痛いことをしてきた。噛んだり、引っ掻いたり。おかげで終わる頃には、体のあちこちに傷ができていた。

 私の首を撫でながら、巴は満足そうな笑顔を浮かべる。

 「これで、誰のものか分かるでしょ」

 「跡でも付けたの?」

 首を何度も吸われていたような気はする。

 「たくさんね」

 「私も付けようかな」

 だるい体を持ち上げ、巴の首に唇を寄せた。彼女はクスクスと笑う。

 「付け方知ってるの?」

 「吸うんでしょ?」

 「あら、処女のくせに。エッチ」

 「これじゃ一生処女かもね」

 私は巴の柔らかい肌に吸い付いて、跡を付けた。

 「付いた?」

 「うん。なんか、意外とロマンチックじゃないね」

 「あたしみたいに最中にしなきゃ」

 「ふふ、そうだね」

 私はベッドに倒れ込み、巴と目を合わせた。

 「梢は、あたしでいいの?」

 「なにを今更」

 「いや、だって、あたしチンコないし」

 「チンコと付き合うんじゃないしいいでしょ」

 「ふ…あはは!チンコと付き合うとかいう日本語やばい」

 「逆に巴は、私でいいの?私もチンコ無いけど」

 どちらかと言えば、チン…男が恋しくなるのは巴の方ではないか。今まで男とも付き合ってきたのだから。

 「あたしは梢がいいの。別にチンコなんて買えばいいじゃん?」

 「あー、あるね。オモチャでしょ」

 「梢〜。知ってるなんて、もぉ。本当にエッチなんだから」

 そんなふうに言われて、私は顔が熱くなった。

 私は必死に言い訳しながら、それでも、この時間を幸せに思った。

 今まで、ずっと不安だった。自分がまともな恋愛などできないのではないかと。いつか人を殺してしまうのではないかと。

 それでも、大丈夫だった。私は今、確かに巴自身に恋をしている。

 だからこそ、ちゃんと彼女と向き合わなければならない。

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