表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メンヘラと変態の百合  作者: 紅輪
3/6

関係性

 週末の金曜日、巴が私の家に来る予定だった。

 私は巴のために、甘いお菓子を買ってきたりした。しかし帰ると、彼女の姿は無かった。

 スマホを見ても、巴からの連絡は無い。私は心配になって、電話をかけた。

 3回目のコールで、電話が繋がる。

 「巴?どうした、どこにいるの」

 「こずえ…」

 巴の声は、震えていた。泣いているのかもしれない。

 「今いるところ教えて。迎えに行くから」

 「いい。あたしが行く」

 「…ちゃんと来れる?」

 「うん。行く」

 「分かった」

 電話の向こうから、電車の音が聞こえた。巴が私の家まで来るには、電車を使わないといけないから、もう来ようとしていたということだ。

 自殺しようとしていたかもしれないが。

 「泣いてる?」

 「うん。てか泣いてた」

 「なんかあった?」

 「着いたら話す」

 「うん」

 巴が家に着くまで、私は電話を繋ぎっぱなしにした。そして家を出て、最寄り駅まで巴を迎えに行く。

 電話の向こうから、私の最寄り駅をアナウンスする音が聞こえた。こちらからも、電車が近づいてくるのが見える。

 改札を見ていると、巴を見つけた。私は電話を切って、彼女を迎える。

 「巴。こんばんは」

 「……」

 巴は黙って、私の腕に抱きついてくる。身長が同じくらいだから、顔が近い。

 「巴が好きなお菓子買っといたよ。早く帰って食べよう」

 「…あたしのこと、好き?」

 「好きだよ」

 「どのくらい?」

 「今のところ人類イチかな」

 「今のところとかやめて」

 巴が私の腕に爪を立ててくる。地味に痛い。

 「永遠にって言って」

 「分かった。永遠に巴だけ」

 「…言わせただけじゃん」

 「あはは。めんどくさ」

 冗談ぽく言ったが、巴は傷ついた顔をした。それにゾクっとしてしまう。

 「…今日は、冷たいこと言わないで」

 「いつも通りじゃん」

 「うん。でも嫌なの」

 「分かったよ。お姫さま」

 「……キモ」

 「めっちゃ冷たいじゃん」

 私が巴の顔を覗き込むと、彼女はぶっと吹き出して笑う。

 「あはは!まじウケる」

 「ひどいな」

 そう言いながらも、私はつられて一緒に笑った。

 家に着いたら、一緒にご飯を食べた。巴にせがまれて、お風呂も一緒に入った。

 巴の左腕には、新しい傷ができていた。

 興奮してしまうのを抑えるため、私はなるべく傷を見ないようにした。

 そうしてお風呂から出た後、その傷を消毒してやることにした。

 「巴、腕出して」

 消毒液とティッシュ、それからガーゼを用意して言った。

 「はい」

 巴は綺麗でツルツルな右腕を出してくる。私はそこに、消毒液を塗ってやった。

 「あははは!ちょっと。まさかなんだけど」

 「これがノリツッコミってやつ」

 「上手いわ」

 巴は右腕を引っ込めて、左腕を差し出してくる。私は改めて傷を見ることになった。

 カッターでつけたその傷は、痛々しいと言わざるを得ない。なのに、私は興奮していた。

 自分が嫌いだ。

 消毒液をティッシュに付けて、そっと傷口に当てる。

 「いだだだだ!」

 巴は目をぎゅっと瞑っている。その表情も良かった。

 消毒して、今度は薬を塗ったガーゼを傷口に当て、医療用のテープで固定した。

 「はい、終わり」

 「消毒痛すぎ」

 「深く切るからじゃん」

 「死ねなかったんだもん」

 「あのね、死のうとしないで」

 私は手当てした道具を片付けて、ついでに家の合鍵を持ってきた。

 「とりあえず、死のうとする前に、うちに来な」

 鍵を巴に手渡すと、巴は嬉しそうな表情になる。

 「え?まじ?めっちゃ嬉しいんですけど。恋人じゃん」

 「恋人でしょ」

 「死ぬときはここで死ぬわ。梢のこと犯人にして人生終わらせる」

 「ひど」

 「そしたら梢も自殺して、天国で幸せに暮らすの」

 「生きてる間も幸せになればいいじゃん」

 「……無理だもん」

 巴は鍵を握りしめて、泣き出した。

 私は、そんな巴を眺めていた。

 「あたし、精神病、治らない」

 「いいよ、無理して治さなくて」

 「何よ。ずっと辛いままでいろって?」

 「ばか。そんなこと言ってないでしょ」

 こうなったら巴は、とことんマイナス思考だ。どう慰めても無駄だし、どう優しい言葉をかけても、すべてマイナス思考に変換してしまう。

 だから私は、いつも通りに会話を続けるだけ。何も特別なことはしない。

 巴はしばらく泣き続けた。私はそんな彼女の前に座り、ただ見つめていた。

 時間も遅くなってきたので、私は巴をベッドまで誘導した。巴の隣に、私も寝転ぶ。

 巴は泣いていても、寝転んでいても、綺麗だった。こんな人に抱かれたなんて信じられない。

 そっと頬に手を当てると、彼女はトロンとした目でこちらを見てくる。

 「梢。どこにも行かないで」

 「行かないよ」

 巴の頬はフニフニで柔らかい。

 「約束して。永遠に愛してるって」

 「うん。愛してる。永遠に」

 「あたしがジャガイモになっても?」

 「あはは、なにそれ。じゃあ私がコブダイになっても愛して」

 「こ、コブダイ…何そのチョイス」

 巴が笑い出した。

 彼女はさっきまで泣いていた顔で、嘘みたいに可愛く笑う。雨が降って花が咲くみたいに。

 「落ち着いたんなら、もう今日は寝な」

 「うん。ありがと、梢」

 「どいたま」

 どういたしましての略だ。

 「あたし、梢がいないと死ぬ」

 「分かる」

 「大好きよ」

 「うん」

 少し会話をして、巴は眠りについた。

 私は彼女の寝顔を見ながら、考えていた。

 私は本当に、巴を愛しているのだろうか。



 巴は、頻繁に私の家に来るようになった。もはや半同棲状態だ。

 「なんか、懐かしいね」

 私の言葉に、巴は首を傾げる。

 「なにが?」

 「高校生の時みたいじゃん」

 「あー。放課後、ほぼ毎日梢の家にいたもんね」

 「で、彼氏いる時だけ来ないんだよね」

 「そりゃね」

 「ちゃんとゴムしてヤってたの?」

 「もー!サイテー。死ね!」

 巴が床にいる私の上にのしかかってくる。私は彼女を受け止めながら、押し倒された。

 私は笑いながら、言う。

 「ごめんて。ちょっと下品だった」

 「ちょっとじゃない。すごい下品」

 「ごめんごめん」

 「ちなみにゴムはしてた」

 「そこはちゃんとしてるんだ」

 「本命がいたから」

 巴が、私の顔を覗き込んでくる。誰もが認める可愛い女の子が今、私だけを見ていた。

 私はどうなんだろう。産まれてこの方、顔を褒められた事なんてない。むしろ、高校生までは、自分の顔がコンプレックスだった。

 「梢、可愛いよ」

 心を読んだような巴の言葉に、私はドキッとする。

 「巴ほどじゃない」

 「あたしと梢じゃない人間はみんなブス」

 「あはは。巴ってたまにすごいこと言うよね」

 こうやって、楽しい会話ができる日もあれば、できない日もあった。

 家に帰ったら、部屋は真っ暗で、巴はいないのかと思いきや、風呂場にいたことがあった。

 いつもドアを開けて、換気して家を出るのに、その日はドアが閉まっていた。

 おかしいなと思い、中を確認すると、巴がいたのだ。

 「もう、びっくりするでしょ」

 巴は風呂桶に水を張って、そこに左腕を浸していた。彼女を引きずり出して、机の前に座らせて、温かいココアを用意してから、私はそう言った。

 「死にたかったらうちでって、言ったもん」

 巴は震えながら言った。

 そんなことを言った覚えはないが、彼女が言ったというなら、言ったんだろう。

 風呂を見に行くと、桶の中の水は、少し赤くなっていた。それに少し、生臭い匂いもする。これだけ血が抜けても、人間って死なないんだなと思った。

 風呂桶を掃除して巴の元に戻ると、彼女は大人しくココアを飲んでいた。

 「何か栄養のある食べ物買ってくるよ。ちょっと待ってて」

 「……うん」

 巴はこちらを見ず、返事だけを返してくる。心配だったが、私は彼女を残して家を出た。

 近くのコンビニで、鉄分が豊富な食べ物を買った。帰る時は、少し怖かった。巴が死んでいたら、どうしよう。

 家に着くと、私は心配で心臓がバクバクしながらドアを開けた。それは巴の姿を見るまで続いた。

 彼女は私が家を出た時と同じ様子で、そこに生きていた。

 ホッとして、私は買ってきたご飯をテーブルに置く。

 「はい。ご飯」

 「…食欲ない」

 「食べないと死んじゃうよ」

 「死にたい」

 「私は死んでほしくない」

 「………」

 巴が黙ってしまったので、私はコンビニ飯を開封していった。

 ホカホカの良い匂いがして、私のお腹が鳴る。

 「食べるよ巴。ほら、これだけでも」

 私は鉄分が採れるとパッケージに買いてある飲み物を差し出す。

 巴はそれを受け取った。

 私は自分用に買ってきたカレーを食べた。コンビニのカレー、けっこう美味しい。しかし、意外に辛かった。

 辛くて鼻水が止まらない私を、巴はじぃと見ていた。見ながら、渡した飲み物を飲んでいる。

 「…私、おかずじゃないんだけど?」

 私が言うと、巴は一瞬固まり、ジワジワと笑顔になっていった。

 「何よ、おかずって」

 「私のこと見ながら飲んでるから」

 「梢見ながら飲むと美味しい」

 「ノッてくんな」

 「梢も美味しいかも」

 飲み終わった巴が、ジリジリと近寄ってくる。私はカレーを飲み込んで、身構えた。

 巴が、動きを止める。

 「やっぱ、食べ終わってからにする」

 「ありがとう。巴も何か食べな」

 「……うん」

 それから、一緒にご飯を食べた。

 結局、巴は先に寝た。

 一人になった私は、精神病の治し方を調べた。

 いろいろ調べているうちに、他人のリスカの画像まで出てきた。巴のより酷いものもある。しかし全く、何も思わなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ