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メンヘラと変態の百合  作者: 紅輪
2/6

逃避

 巴との出会いは、高校生の時だ。

 一年生の時。リスカはもうしていた。まだ薄くて少なかったけれど、すぐ目に入るくらいには目立っていた。

 面倒くさい子なんだろうな、と思っていた。実際、面倒くさかった。隣の席になって、喋るようになってから、彼女はどこへ行くのも一緒についてきた。

 巴は、自分のこともよく喋った。家庭環境が悪いだとか、祖母が躁鬱で遺伝したのだとか。

 私はいつも大人しく聞いていたわけではない。巴に対して、ハッキリ言うこともあった。彼女はびっくりしたような、傷ついたような顔をして、それでも私から離れなかった。

 男と付き合うようになったのは、2年生になってからだ。最初は先輩、その次は同学年の別クラスの子。その後は先輩とよりを戻して、すぐ別れて、とか。そんな感じ。

 高校では、巴は尻軽ビッチなんて言われて、女の子たちからハブられていた。

 私はなんとなく仲良くしていたけれど、卒業したら連絡とらないんだろうな、なんて思っていた。

 それが、私は高卒で就職して、巴は四年生大学に進学した後も、関係は続いた。

 そして今度は恋人どうしだ。

 「ねぇ(こずえ)。セックスしよ」

 一人暮らしの私の家に来て、私のベッドに座って、私の恋人の巴はそんなことを言い出した。

 私は巴を見て、言う。

 「私、セックス興味ない」

 「でもセックスしなきゃ、友達と一緒じゃん」

 「そんなことない」

 「恋人ならするの」

 「しないカップルもいる」

 「ならあたし、他の男としちゃうかも」

 「したら別れるよ」

 「………」

 巴の険しい顔が破顔し、フニャフニャの笑顔になる。

 「なによ。あたしのこと好きじゃん」

 「好きだってば」

 本当だ。

 「ムラムラしてきた」

 「勘弁して」

 「ねぇ今日さ、一緒にお風呂入ろ」

 「ん、いいよ」

 「やったー」

 私の住むアパートは、1Kの風呂トイレ別だ。ユニットバスだけは嫌だったのだ。

 夜は本当に、一緒に風呂に入った。

 巴は、細い体つきに、胸は大きかった。顔も可愛いのにこの体。男が途切れないわけだ。

 「あたしのおっぱい見たでしょ?いいのよ、揉んでも」

 そう言いながら、彼女は私の手を掴み、自分の胸に押し当ててくる。

 「揉んでほしいの間違いでしょ」

 そんなことを言いながら、私は巴の胸を揉んだ。柔らかくて、重量感があるなぁ、なんて感想を持った。

 「あん、すっごいムラムラしてきた」

 私はぱっと手を離す。

 「入ろう」

 ブーブー言ってくる巴を無視して、私は体を洗った。その後に巴も自分の体を洗って、一緒に湯船に浸かる。

 湯船は一人用なので、普通に狭い。

 巴は、私に背を向けて、足の上に座ってきた。湯があるので重くは無かった。

 「梢さー。男と付き合ってもこんな感じなの?」

 「いや、付き合ったことないし。そっちは?」

 「んー。もうちょいぶりっ子してる」

 「想像つくわ」

 「あたし、自然体でいるの梢の前だけなんだからね」

 「うん」

 話しながら、巴の左腕に目をやる。大量の切り傷の跡。

 私は、この傷跡が好きだった。

 滑らかな肌に浮く、醜いケロイド状の線が、どうしても好きだった。

 それだけではない。切ってすぐの、血が滲む傷そのものも、好きだ。

 私は、巴の左腕に、自分の手を添えた。ボコボコの感触に、心が震えた。それは素晴らしい芸術作品を見て打ち震えるのと同じ。

 「もっといろいろ触っていいのに」

 巴の言葉に、私は従うことにした。そうすることで、傷跡を愛でていたことを隠そうとした。

 私は、巴のお腹を触った。お腹は私のと変わらない。

 「くすぐったいんだけど?」

 「我慢して」

 「しないよばか」

 お腹の手を払われる。

 私は左腕を撫でながら、右腕も掴んだ。

 「巴ってさ、どこ触られるのが好きなの?」

 「んー。髪かな」

 「じゃあ、お風呂あがったら乾かしてあげる」

 傷跡を触らせてくれたお礼だ。

 「ふふっ。ありがとう」

 嬉しそうな巴の声に、私は胸が痛んだ。

 普通にこの子を愛してあげられたら良かったのに。

 しばらく他愛無い会話を続けたあと、私たちは風呂から出た。

 髪を乾かして、歯も磨いて、寝る準備を整えた。私はそのつもりだったのだが、巴は違うようだ。

 大きいベッドで寝たくて買った、ダブルのベッドも、二人で入ると狭い。

 壁際で、壁の方を向いて寝転んでいる私に、巴は後ろから抱きついてきた。そうやって寝るのかな、なんて思っていると、服の上から胸を揉まれた。

 私の胸なんて、巴のに比べたら大したことはない。でも、小さい方が感度が良いなんて言う。あれは本当なのかもしれない。

 「………」

 私は何も言えず、巴の手を受け入れる。

 巴は少しずつ探るように動きをエスカレートさせていった。

 気がつけば、上半身の服はめくられ、肌を直で愛撫されていた。

 「梢、コッチだったんだ」

 嬉しそうな巴の声。

 「なに言って…っひぅ…」

 思わず言い返すと、自分のものとは思えない声が出た。

 「やば」

 巴が身を起こし、覆い被さってくる。

 その後はずっと巴にされるがままだった。巴だって女を相手にしたことなんかないはずなのに、自分でするより気持ちよかった。

 どれだけの時間そうしていたのかは分からないが、とにかく長かった。

 私がもう無理だと言っても巴は聞かなかったし、無理やりやめさせることもできなかった。

 疲れた。終わってすぐの感想は、それだった。

 「梢、好き」

 巴は元気そうだが、私はもはや放心状態だ。

 「気持ちよかった?」

 「……疲れた」

 素直に答えると、巴は嬉しそうにする。

 「疲れるくらい気持ちよかった?」

 「うん」

 「えへへー。明日もしようね」

 「つぎの日仕事の日はむり」

 「じゃあ昼のうちにしとこ」

 「性欲モンスター…」

 「メンヘラだもん」

 「かんけーないし…」

 ここらへんから、記憶がない。

 朝起きると、巴はまだ寝ていた。

 私はこっそり、彼女の傷跡に指を添わせた。その感触をなぞっていると、昨晩巴が私に触れていた箇所がうずいた。

 嫌だった。

 傷跡に性的に興奮しているなんて、認めたくなかった。

 しかし、認めざるを得なくなった。

 「最悪だばか」

 私はぽつりと、呟いた。

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