始まりのキス
こんにちは!メンヘラ書きたいな〜と思っていましたので、ここで発散させていただきます〜!!
その日、賀月巴は、泣いていた。
地元にある年季の入ったカラオケボックスで、私こと橋田梢は、彼女と一緒にいた。
私は、カジュアルな服装だ。対して、巴はヒラヒラフリフリの、地雷系とか言うやつ。顔も可愛いし、インスタのフォロワーもすごい数いる。そんな彼女が、何をこんなに病んでいるのかと言うと。
「まじあり得ん。浮気とか。重いとか。死ねよ」
「まじらぶ♪きみだけ♪永遠フォーエバー♪」
やばい。選曲間違えてるなこれ。
案の定、巴は怒りだす。
「なによこの曲!」
「……」
私は気まずい顔をして、演奏停止のボタンを押す。
歌の歌詞を表示していた液晶は、広告を流しだした。
「なんか、もっと殺意高いやつにする」
「分かってんじゃん」
私は曲の検索画面に、「people = shit」と入力する。人々はうんこ、という意味だ。これで満足だろう。
私は人々はうんこ、を、激しく熱唱した。それが終わる頃、巴は泣き止んでいた。人々はうんこが効いたようだ。
「相変わらずどういう喉してんの?」
「慣れたら簡単だよ」
「こんなのばっか歌ってるから彼氏できないのよ」
「いいもん。別れが辛いだけだもん」
「………」
だめなところを突いてしまった。巴は黙って虚空を見つめ、そして、左腕の袖をまくった。
春の可愛らしいファッションの下から、刃物でつけた大量の傷跡が出てくる。私はそれを見てドキッとしつつも、知らん顔をした。
「…気持ち悪いって言われた」
「そりゃ最低だね」
「でしょ?」
「うん」
「最初は優しかったんだよ。これもさ、大丈夫って言ったのに」
巴の声に、涙が混ざる。
「ホントは気持ち悪いし重いし浮気とか!ほんと無理!もう男嫌い!」
「おー。だろ?彼氏なんかいらんだろ?」
私はわざと軽く、彼女の話を聞く。これがいつものやり方だ。
いつも巴の気が済むまで、私は彼女と一緒にいた。今日もそう。今日はどれだけ時間がかかるかな、なんて思っていた。
「もう彼氏はいらない。彼女が欲しい」
「やっと私の良さに気づいた?」
私はふざけ半分にかっこつけて見せた。長い黒髪を後ろに払いのけ、足を組み、ソファの背に腕を乗せる。
巴は思ったより笑ってくれない。
「梢さ、あたしのことどう思ってんの?」
「え?友達」
「一回キスしよ」
「え?どゆこと?まじ?」
「まじ」
私は姿勢を戻し、巴を見た。
可愛い顔で、数々の男を落とし、すぐにセックスをする尻軽。今回はフラれたが、飽きたとか言っていきなりブロックするところも見た。
無理だ。そんな人と付き合えない。
いや、待て。巴はキスすると言っただけだ。本当にキスをするだけかもしれない。女とキスしてみて、女と付き合えるか試したいだけなのかもしれない。
受け入れてみようではないか。
「分かった」
「じゃ、じゃあ、するよ」
言い出した巴が、何故か緊張している。それを見た私も、心臓がバクバク鳴りだした。
巴の綺麗な顔が近づいてくる。私はたまらず、ぎゅっと目を閉じる。
相手の吐息がかかったと思ったその一瞬後、自分の唇に、柔らかいものが触れた。それは2秒そこにあって、そして、離れていった。
目を開けると、巴がいた。それは当たり前なのだが、その友達が、いつもと違って見えた。
なんか、エロい。
私は頭に浮かんだそれを、慌てて振り払った。
巴はそれを見抜いたように、ニヤリと笑う。
「キスできるなら、付き合えるよね」
私は首をぶんぶんと横に振る。
「いや、無理!私、女は女でもメンヘラじゃない女がいい」
「ひどぉ!いいもん、okしてくれないならもう死ぬから」
「めっちゃメンヘラぁ」
「そういうところが好きなの」
巴が、キラキラした目でこちらを見てくる。私は驚いて、言う。
「もしかして本気?」
「うん。よく考えたら、梢のこと好きすぎて他の男と付き合ってたのかも」
「…どゆこと?」
「いやだからさ、梢のこと好きじゃん?」
「うん」
「でも、梢ってあたしのこと好きじゃないじゃん?」
「まぁ、性的には」
「それって辛くない?」
「うーん、分からん」
そもそも私、恋愛したことないし。
キスだって、今のが初めてだ。21歳にしてファーストキスを、友達の女に奪われるとは、思ってもいなかった。
巴は綺麗な顔に、満面の笑みを浮かべる。
「まぁつまり、男は梢の代替品だったってこと!」
「そんなひどいことある?」
巴とお付き合いした哀れな男たちよ、安らかに眠ってくれ。
「あるよぉ。だってあたし、メンヘラだもん」
「メンヘラを言い訳にすな」
私は巴の頭に、軽くチョップをかました。巴はえへへと笑い、自分の両手を、私の手に重ねてきた。
また傷跡が目に入り、胸がドキッと鳴る。痛いようなその感覚に、私はただ、罪悪感だけを覚えた。
巴は私を、上目遣いで見てくる。
「あたし、叱ってくれる人が好きなのかも」
「なんそれ」
「何度も死ぬなって叱ってね」
「いつも通りじゃん」
「あはは、確かに」
私は巴と向き合い、彼女の顔をまじまじと見つめた。
これからこの女と付き合うのか、なんて、考えながら。
ここまでお読みいただきありがとうございました!!!携帯小説っぽく書こうと思って、だめでした…諦めちゃいました。けっこう難しいんですね…。