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生と死

死、葬儀の描写があります

胸糞です

のんびりしたい方は、必ず避けて下さい。

 彩芽は家に帰る電車から、ふと窓の外を眺めた。

 電車内から見える街路樹は、紅葉の盛りに終わりを告げようとしている。

 

 ここ最近の放課後は、遅い時間まで図書館にいた。

 先日の祖母と父への相談で、もう少し未来への決断を先延ばしすることにしたからだ。

 つまり、来年受験生となる。

 勉強のために図書館に通い始めたのだ。 

 家でも問題ないのだが、恋人である尊と共に過ごす時間にも当てている。

 彼への気持ちにきちんと気づいてからは、特に場所を選ぶようにしている。

 二人きりでいると、過ぎていく時間にうっかり気付かないこともしばしばあったから。


 今日はクラスメイトで友人の桃花に、一緒に帰ろうと誘われていたのだ。

 最近出来た焼き芋専門店へ、行こうと言って。

 高校の最寄りの駅から2駅にあった。

 本当に焼き芋しかない上お店自体も、とてもこじんまりしている。

 店の前にある小さな二人用のテーブルで食べられるようになっていた。

 

 席に座り選んだ焼き芋を見れば、これでもかというほどの滴り落ちそうな蜜。

 私にとっては過剰だと思うも、味わうために口に入れれば見た目以上の甘さだ。

 思っていたのと違うなと、目の前の友人を見れば、嬉し気にもぐもぐと口を動かしている。

 彼女と同様、甘味は好きだ。

 同じように、ただ焼かれた芋だというのに、受け取る側が違えばこうも違うのか。

 2人でご馳走様をした後、席が少ないからとすぐに席を立ち解散をした。


 最近のコースと違うからだろう。

 いつもより早い帰宅となったため、家の鍵を出してマンションに入る。

 しかし家の鍵は開いてた。

 父も祖母も家にいて、私はとにかく驚いた。

 

 筆耕の仕事をしている祖母は、お歳暮時期の近い今は2~3日に1度は出勤している。

 祖母の帰宅は、図書館に通っている時の私より遅い。

 今日に関して言えば、父はまだ帰宅時間では無いはずだ。

 一体どういう事だろう。


 頭の中に疑問しかない私に、おかえりと言いながらパタパタと廊下から祖母が迎えに来た。

「真紀子さんが他界したそうなの。

 だから函館に行く準備を早くしなさい。」

 

 真紀子とは私の母の事だ。

 私が中学の時に縁が切れた人。

「え、私行かなきゃなんないの?」

 祖母に問えば、当たり前でしょう。お父さんも一緒に行ってくれるから。と言う。

「お祖母ちゃん今の時期忙しいもんね。

 私、剣崎の家に行きたくないよ。しかも寒いじゃん。」

 そういう問題じゃなくてと私に答え、持って行く必要のある物を父に指示もしていた。

 剣崎とは、彼女が生まれた時の苗字だ。



「お父さんも私みたいに一週間くらい仕事休むの?」

 昨日の帰宅後、函館へ行く用意を促され面倒だなと思いながら支度を済ませた。

 あちらに行くための飛行機やホテルなどの手配は、全て父に任せておいて。

 

「有給まだ残っていたし、土日含めて10日間休むことにしたよ。」

 フライトアテンダントさんが入れてくれた飲み物をほくほくしながら飲む父が答える。

「最低限の事済ませたら、観光でもする?」

「んー。私はすぐ帰って家でゆっくりしたいかな。お父さんが観光したいならしようか。っていうか、お父さん大丈夫?」

 私は父に心は大丈夫か聞いた事は、理解していたはずだ。

 しかし気付かなかったようなフリをして、

普段お金一杯稼いでるからお金の事なら心配いらないよ。なんて言っている。

 

 

 私は彼女、母が苦手だった。

 自らを古風だと言った彼女。

 古風な割に、父も私も知らない男性のために家を出て行った元母。

 古風を越えて前衛的だなと思ったのと同時に、当時は父を思った。

 両親だったころの2人は、とても仲が良いように見えたし

実際父は彼女を大切にしていた。

 だからこそ、私は父を心配しているのだ。


「葬儀が終わったら、彩芽の言うようにすぐ帰ろう。

 僕は、お父さんは大丈夫だよ。」

 

 

 知っている風習との違いに、驚き戸惑った。

 しかも、寒い。

 きちんと天気予報を確認しておけば良かったと、後悔した。


 

 葬儀だけ参加しようと、家にいるときに決めていた。

 その時に彼女に会えるだろうと思っていたから。

 風習の違いにより、会えなかったが。

 あちらは荼毘に付してから、葬儀を行うのが一般的なのだそうだ。

 

 葬儀が終わり、彼女の両親が式場で弔問客を見送りをしている。

 

 帰る前に手洗いに行ってくると、父は席を外して行った。

「彼女に対して心痛、つまり心を痛めはしないで下さい。

 代わりに残された方々へ、心をお配り下さい。」

 私は彼女の父に伝えた。

 何を言い出したんだという表情をする彼に、

当然のように続ける私。

「こうなる前にあの人にも、心を配っておけばよかったですよ。

 良い子と言う名の、あなたにとっての”都合の良い子”とするのではなくて。

 きちんと、人として接しておけば良かったと思いますよ。」

 子供のくせに、ですか?

 彼女が家を出た時に私に対し、もう子供ではないからと仰ったのはどなたでしたでしょうか。

 全部ね、ブーメランなんです。

 流石に、私のように正直者が馬鹿を見るような世の中ではいけない、と言う方の娘です。

 自らを古風と言いながら、出奔したのですから。 


「彼女とも、あなた方とも縁が切れて本当によかったです。」

 私は心の底のヘドロを、吐き出した。

 本当は母に言わなければ、ならなかったことをだ。


 

 とにかく家に帰ってきてホッとした。

 自分の部屋のベッドに崩れるように横たわる。

 まるで自らの体が、鉛で出来ていたようにすら思えた。

今回を後に上手く活かせられない自信しかありません。

お時間を頂戴し読んで下さりありがとうございました。

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