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彩芽への視線

読みづらいかったらごめんなさい。

 仕事から帰って来た父は、ただいまと言いながら、

上着を脱ぎダイニングの自分の席に座った。

 夕食の為に、私も祖母もダイニングテーブルを囲む。

 

 

 最近のお祖母ちゃんから、妙な食べ物が出てこなくてホッとしている。

 色と捲る感じが似てるからと言って、焼きそばにキャベツの代わりに白菜だったり。

 思い付きでいろいろ試すのはやめて欲しい。

 世界で始めて「妙な食事を見たショック」で死亡させられる! 

 そんな風に私が独りごちたのを、聞こえたからかもしれない。


 

 今日は蒸し鶏を載せた、深いボウルにたっぷりの生野菜が入ったサラダに、チキンカレー。

 サラダの上の蒸し鶏は必要ない気がすると、私が感想を呟く。

 感想を無視した祖母は、今日おいしそうだったからという理由で購入したプラムを

食後のデザートに出すと、父に告げていた。


「プラムってスモモなのよ知ってた? 彩芽にね、食べ方を調べてもらって始めて知ったの。」

 父に祖母が説明しているようだ。

「スモモ? あの、すもももももももものうち、の? 

 そんなことより、ルーとご飯の割合は半々だっていつも言ってるのに。」

 ぶつぶつ言いながら、かなりのスピードで父のカレーは減っていく。

「ごめん、お父さん。私の好みでルー多めにしちゃった。」

 しょんぼりしたフリの私は、

今日相談にしようと思っていたことを、祖母と父に話し出した。


「今日ね、尊君に一緒の大学に行こうって誘われたの。

 彼は京城の物理に行きたんだって。

 あそこならマンモス校だから、私が行きたい学部もあるかもって。」

 祖母は私の隣に座っている。

 だから父を見て、たまに横を見て話を進めた。

 彩芽は進学したくないかという、お祖母ちゃんから質問に「迷っている」と本音を語る。

 

 タケシ君って誰だと、父が前のめりで聞いてくるが私は無視した。

 だって、今はそんなことより進路の話したいから。

「でね、別にやりたいこともないし、皆が行くからっていう理由で進学するのは違う気がしてて。

 就職を中心に考えてたの。」

「私はてっきり大学に行きたがるとばかり思ってた。

 お父さんとも、そうだろうねって話してたし。」

 隣にいる祖母を見れば、父にそうよね。と促している。

 

 父はまだ、ねぇタケシ君って誰なの。

 僕の彩芽ちゃんは、まだ誰にも渡さーーーんと鼻息を荒くする。

「私の彼氏。あと、タケル。

 で、お父さんってどんな風に仕事選んだの? 」

 タケシタケシと言い過ぎてビートなの!? 

 なんて言い始めたので完結に教えた。

 父の話を聞いていて眉をしかめていた祖母は「あ、ビートたけしのことか。」と納得した様子だ。


 一人一人なら良き相談相手なのに、何故2人揃うと自分勝手に話し出すのだろう。

「また今度相談します……。」

 そう言うと、やっとまじめな態度をする素振りを見せ始めた、保護者2人。


 

 お父さんが検査技師なのを知ってるでしょ。と父が言うから、私はうんと頷いた。

「お父さんが就職を決める頃ってまだ国立病院は公務員だったの。

 今は財政改革で国立だろうが市立だろうが全部、民間になっちゃったけど。」

 まさかと思うが、楽に公務員になる方法を模索した結果では。

 言うと面倒そうだから、質問っぽいこと言っておいた。

「国立とかで働いてた医師や看護師さんも公務員だったってこと? 」

 そうそうと相槌を打つ父は、少しだけ残ったご飯を見てルーだけ追加してもらおうかなと、お皿を差し出す。

 お皿を受け取るために手を出そうとすると、祖母がまだ相談してていいからと、皿を受け取りお鍋の方へ行く。

 

 

 父にカレーが渡った後、キッチンの奥からは冷蔵庫を開ける音。

 ぷうんと、甘い香りが漂う。きっとプラムの香りだろう。

 

「彩芽は幼稚園のとき『カンゴクさんになるー』って言ってただろ。」

 ニコニコと昔話をし始めた父に、そんな昔の話覚えてないからと冷たく当たる。

 実際知らいないし、そんな話。


「特に、やりたいことも無いんでしょう。なのに就職? 」

 お皿に盛ったプラムと3人分のフォークを持って、テーブルに戻って来た祖母に問われた。

「うん。

 何していいかわかんないなら、出来る仕事見つけてお金稼いだ方が良いかなって。」

 フォークを手にして、プラムの1カットを口に運ぶ。

 私の答えに祖母は、随分と即物的な考えねぇと持っている自分のフォークを軽く振った。


 彩芽ちゃんこの果物、皮付いてるよ。

 不満気にプラムを眺める父に、皮つきで食べられるんだってと答えてあげる。 

 ちゃんとグーグル先生が言ってましたから。と、付け加えて。

 父は訝しそうにしながらも口に運んだ。


「お父さんとしては彩芽が選んだなら応援するよ。でもね、」

 続けようとする父は、先にこの美味しいやつ全部食べちゃっていいかと聞きながら、どんどん食べていく。

 ふぅ、甘くて瑞々しかったと、お腹をさすり満足気である。

 最近お腹が出てきちゃったと、以前ぼやいていた場所をだ。


 一応聞くけどと、念を押し父が質問する。

 お金が心配だから、就職って思っている訳じゃないよね? と。

 父に尋ねられ、ううんと首を振る。

「じゃあさ、今は進学の方向で考えたらどうかな。

 仮に就職するにも勉強しておいて損は無い。」

 それにと父は続けていく。

「人生において悩むっていう時間は、とても大切なことだと思うんだ。」


 私は大人になったら悩めない訳じゃないでしょうと聞けば、父はそうだね。でもと、真剣な顔で続けた。

「仮に今お父さんが、今から仕事を変えようとするのと、

 今から彩芽が仕事を選ぶのとでは随分条件が違う。

 それは分かるよね? 」

 食事を終えた私たちのお皿をお盆に下げながら、

 お父さんは引き算で彩芽はメニューからって感じ。と、祖母が付け加える。

「お祖母ちゃんの説明は逆にわからん。」


 

 よし、やっぱり彩芽だけを例にとろう。

 そう父は言って、私の進路相談を改めてしてくれる2人。

 

 そうねと、祖母はお皿を下げた後に入れてくれた暖かいお茶の湯呑を眺め、どう切り出すか考えているようだ。

 

 彩芽は人の心が知りたいと言ったでしょう。

 例えば精神科医とか、心理カウンセラーなんかがいるじゃない。

 そう言った祖母は私を見た。

 そうだねと相槌を打つのを確認して、仮にずっと人の心に関わりたいと思ったとするでしょう。

 そこまで言ったお祖母ちゃんから、お父さんが勝手に話を引き継いだ。

「成績で現実的に医師が無理だとするよね。

 となると、それこそ看護師さんとか。」

 他にもいろいろあるよね。と言うから、私もうんと頷いた。

 

 医師になるには多分無理だし、かといって看護師になれる成績かも知らないけれど。

 

 つまりねと、お父さんが続ける。

 好きなこと興味のあることから、少しずつ何をしたいかを考えていけば自ずと答えは出ると思うんだ。

 僕良いこと言ったよねと、したり顔で得意気に。


「じゃあさ、悩む時間っていうのは? 」

 話を戻す私に、どう説明すればお父さんの言う事を間違えずに受け取ってもらえるかな。と父は呟くように言う。

 少し考えながら、先ほどのドヤ顔を緩め真面目モードに。

 

 未来のためにじっくり悩む時間って、人生の中であまり無いのよ。

 お父さんの代わりにお祖母ちゃんが説明を挟んだ。


 

 お父さんがさっき言っていた話、優人(お父さん)と彩芽では条件が違うっていう話。

 これに戻るんだけど、お父さんの年齢で未来の方向転換は既にメニューが少ないのよ。

 さっきも出ていたメニューが分からず、私は聞き返す。

「メニュー? 」

 そう、選択肢と言ってもいいかな。

 選択肢がメニュー表みたいに並んでいたとするでしょう。

 祖母の問いかけに、なんとなく創造してみた。

 このままの道、ステップアップの道、それとも全く違う道。

 その内容ってどう考えても彩芽より少ないでしょ。

 同意を求めてきたお祖母ちゃん。

「それって、お父さんの引退年齢の事だと思っていいのかな。」

 私の問いに、今はそんな感じに捉えれば良いかなとの事。


 彩芽の未来だから、きちんと沢山悩んで答えを出してもらいんだ僕もお祖母ちゃんも。

 父は目を細めた。

 もちろん簡単にいかないこともあるよね。

 さっき言った医師に、なれるかは分からないっていうのとかさ。


 沢山悩んだ答えが、どうしても自分とは合わなくなったらまた考えればいいんだよ。

「今言ってたお父さんの例と矛盾してない? 」

 私が聞けば、そうなんだけど、そんな先の事は今は分からないからと父は言う。

 分からない未来のために、先に沢山悩んでおくんだよ。

 あの時、こんなに簡単に決めなければよかった。

 適当に決めちゃったからと言って、責任を投げ出しちゃうかもしれない。

 時間をかけて選び取った未来なら、責任が伴うでしょ。

 そう思わないかと問われ、そうかもしれないと言うしかできなかった。


「それでも違うと思ったら、その時は仕方がないよ。

 今よりもメニューが変わって窮屈な中から選ばなきゃ、かもしれないけど。」

 父の言葉に、もしかしたらその時は手に職なんてついていて、選択肢が増えてるかもしれないけどね。

 祖母はこう付け加えて、ふふっと笑った。

 その姿を見て私もお父さんも、なんとなく笑顔になる。

 出来る限り悩んだ答えを、僕たちに聞かせてよと更に大きな笑顔を見せた2人の保護者。


「あ、でも夏休み前にもう一回進路希望出しちゃった。」

 私の台詞に、父は椅子から落ちるようなそぶりを見せ、

 僕の真面目返してよーと、普段の呑気な様子に戻っしまった。

お時間いただきありがとうございました。

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