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今と未来 

少しでも気に入っていただけると嬉しいです。

私がお昼を一緒に食べるのは、クラスの中で最も仲の良い桃花ちゃん。

 嬉しいことに彼女は私の前の席だ。

 彼女はお昼になると机ごとぐるりと私の方向を向く。

 毎回同じようにして一緒にお昼ご飯を食べているだ。

 

 今日の話題は、進路について。

 今朝のホームルームの事。

 担任の内山田氏から「週末までに進路希望を提出をするように」とプリントを配られたせいだ。


「週初めとは言え週末までにって、なんだか急だよね。」

 今朝コンビニで買ってきたというサンドイッチを頬張りながら話し始めた彼女。

 細身なのにたっぷり食べるんだよね。桃花ちゃんって。

 

 サイドメニューのサラダをつつき始めた彼女に、私は尋ねた。

「桃花ちゃんはどうするのよ。国文科とか、やっぱりそっち系の大学に進むつもり? 」

 いつも小説を読みふけっている彼女に私は尋ねた。

「うーん、授業として文学を聞いてみたい気もするけど、そういうのって()()()が利かない気がして。」

「桃花さん、卒業後の事までお考えなんですね。」

 私はお弁当を食べる箸まで置いて、マイクを持っているふりをして手を差し出した。

「ま、そうなっちゃうよね。でも、つぶしとか考えちゃう当たり私って小賢しいよね。」

 全く小賢しいと思っていなさそうな態度だったけど。


 箸を改めて持って、祖母が用意してくれたお弁当を私は食べながら思う。

 大学に入るべきか就職をしてしまうべきか、はたまた専門学校という手もあるんだなと。

 卵焼きを食べようと口に持って行っていたら桃花ちゃんから、

「彩芽のお祖母ちゃんってお料理上手だよね。

その卵焼きとかいつもすんごく美味しいし。」

「……欲しいの?」

と聞きつつ、彼女の口に入れてあげる。

「でも、この前お祖母ちゃんコーラでご飯炊いてたよ。」

「そんなことって「あり得えるんです。」

 彼女の言いたそうなことを勝手に引き継いで私は話始めた。

「なんかねテレビでやってたんだって。

 緊急時にお水の代わりにコーラで炊いても美味しいよ。」って。

「お祖母ちゃんファンキー過ぎる。」

 そういって桃花はクスリとした。

「ファンキーって言葉が既にファンキーですよ、桃花さん。」


 桃花は私に比べて少しだけ、古めかしい単語をよく使う。

 彼女曰く「太宰とかが好きだからかも? 」らしい。

 SNSやDMなんかも、ちょっと私とは違った言い回しなんかもあって楽しい。

「彩芽は話すとき方言が多いから、面白いのよね。」と桃花は言う。

「祖母と暮らしてるからかなぁ。」

「あ、お祖母ちゃんのお薦めの乱歩、面白かったって言っといて。」

「うん、喜ぶと思う。」

 私は彼女に質問しながら、食べ終わったお弁当箱を風呂敷に包んだ。


 桃花は桃花で食べ終わりゴミを一つにまとめて、小さなパックジュースにストローを入れている。


 そうそうとジュースを飲みながら、彼女は話しを始める。

「前さ、彩芽のお祖母ちゃんにアガサクリスティー借りたのね。

 そん時、一緒に手紙が入ってたんだよね。

 「最近は新しい単語を見ても年齢のせいかなかなか覚えられない。

  だからあなたはもっとたくさん言葉を覚えて使うことをお薦めするわ。」って。

 うちの婆さん、私の友人にそんなこと愚痴ってたのか。


 私は去年1年生だった頃に学校をよく休んでいた。

 保健室に行くことも多かったし。

 1年の時もクラスメイトで、クラス委員だった桃花は保健室に時々、様子を見に来てくれていた。

 それがきっかけで少しずつ仲良くなり、友人と呼べる仲になったのだ。

 

 我が家は高校から少し離れている。

 私が学校を休んだ時、友人として桃花がノートを持ってきてくれたことがあった。

 その時に家の本棚を見て、桃花と祖母も仲良くなったらしい。

 むしろ、2人の方が趣味も会うし仲がいいかもしれないほどだ。

 お陰で私は、彼女たちの連絡係として小説やら雑誌やらの貸し借りのお手伝いをする羽目になる。


「桃ちゃんもミステリー好きだったんだね。

 というか、小説書いてみたいとか思ったりするの?」

 進路の話が出たとき「桃花ちゃんは小説家になりたいのかな」という疑問を持ったからだ。

「それは無理。だって書きたいことがないもん。」

「書きたいこと?」

「小説家って書きたいことがあるから小説を書くの。

 小説家になりたいから小説を書くんじゃないのよ。」

 彼女はそう言って、飲んでいたジュースでじゅるじゅると音を立て始める。

 どうやら飲み切ったようだ。

 

 私も持ってきていた水筒からお茶を入れて一口飲んで質問をした。

「書きたいことね。

 少なくとも私は特に言いたいことなんて無いかな。

 でも桃ちゃんはなにも考えていない訳じゃないじゃん。」

「それとこれは別かな。

 そのもやもやした部分を言葉にできなきゃ小説になんてできないよ。

 っていかう、彩芽なんも考えてないんだ。

 だから人間生活に向いてないのか。」

 そんな風に私に毒を吐いて、ケラケラと桃花は笑った。


「でもさ、最近はWEB小説とかでストーリーを楽しむだけっていうのかな。

 そういうのもあるじゃん?」

「あぁ、タイトル長いやつ?」

「そう。」と軽く合図を打つ私。

「あれはあれで好きだよ。

 ただ私が好きなのは例えば『そして誰もいなくなった』みたいに、タイトルも小説の中の一部である小説なの。

 文芸作品って言えばいいのかな。

 ライトノベルを馬鹿にしてるとか下に見てるとかじゃなくて好みの問題。」 

 桃花はそう早口で言って次の言葉を少し考えるようにした後、話を続ける。

「ファンタジーも好きだけど、あんまり読んだことないし。

 それにタイトル長いのって、タイトルがあらすじじゃん。

 WEB小説だからっていうのもあるんだろうけど。」

 ここまでを改めて一気に話した桃花は、「それに」と更に話を続ける。


「仮に私が今参入してももう遅いよ。」

 彼女の遅いという意味が分からず、私は「どういうこと」かと聞いてみた。

「もうそういうのは飽和状態だし、なにより最高潮の時って本当はもう次を考えなくちゃいけないのよ。」

 飽和状態と言いうことは分かるけど、何故次を考えなくちゃいけないのかイマイチ分からないな。

 そんな風に考えていたのが顔に出たみたいだが、既に余礼がなり始めた時間だ。


「彩芽ちゃん。このお話はまだまだ長くなるわよ。だから、もっと聞きたいなら放課後にしましょう。」

 そう言って桃花は、軽く微笑んで机を正しい方向に向け授業の用意を始める。

 その姿を私は後ろの自分の席から眺めていた。

 

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