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痛みと考え

少しでも心に留めていただくことが出来れば嬉しく思います。

 今回の期末試験も悲惨だったなぁと、試験後帰路についている彩芽(あやめ)は思った。

 試験内容について、ではない。

 試験中の出来事に、だ。


 彩芽の通う新開(しんかい)高校は試験の際、出席番号順に並び替えをする。

 彼女の苗字は渡辺の為、最後の席となる。

 今回問題だったのは、彼女の前の席の山田理香(りか)

 

 新開高校では、中間・期末と試験は月の最終週に行われた。

 理香は毎月最終週に月のモノがくるらしく、試験の最中にいつもお腹を抑えているのだ。

 見ているこちらも痛くなるような錯覚を覚えるほどに。

 理香の痛みを、彩芽が知ったのは1年生の始めての中間テストである。 


 理香にわざわざ鎮痛薬を薦めるほど、仲がいい訳ではない。

 会えば必ず挨拶を交わすし話もする。

 その程度で、ただのクラスメイトといったところだ。

 もとより、彩芽には友達が少ないと言えるのだが。

 

 試験の度に教師に「なんとかしてやれよ」と、思っちゃうの。

 そんなことを家に帰った彩芽は、遅い昼食の準備をしてくれている祖母に話した。

 お祖母ちゃんからは「ふぅん」と簡単な返事があっただけ。

「ご飯できたから、自分で持って行って。」

 そう言いながら祖母はダイニングにいる、私の前に座った。


 今日の昼食はサラダうどんならぬサラダ素麵の様。

 これからもっと暑い時期になるとはいえ、既にもう暑い。

 つるつるっと食べられる冷たい食事はとても嬉しい。


 私は以前、冷やし中華ではなく何故素麵を使うのかと、祖母に聞いてみたことがある。

「素麺って残っちゃうし、冷やし中華って素を使わないと麺が無いでしょう。」との事だった。

「普通にスーパーで売ってる中華麺を使ったら良いじゃない。

 ほら、我が家ではお鍋の締めに使うやつ。」 

 そう言った私に彼女は、青天の霹靂だわ!!と言った表情をした。

「天才がここにいるわ。」とまで付け加えて。

 

 

 料理が趣味という割には考えがポンコツだ。

 ポンコツでも私にとってお祖母ちゃんは良い相談相手であり、話し相手でもある。

 だから、今日の試験中の事を聞いてもらったのだ。


「そうねぇ。生理痛がひどい人は本当につらいからね。私も優人(ゆうと)を生むまで酷かったし。」

 優人とは私の父の事なのだが、父も祖母に似ていてちょっとだけ緩い性格をしている。

 本人曰く仕事はできるらしい。

 

「しかもお祖母ちゃんの時代は生理痛は病気じゃないからと言って、

保健室に言っても追い返されたから。」

 私はモグモグと食べながら祖母の話に耳を傾ける。

「じゃあ、痛みのほとんどない私はラッキーだったのかもね。」

「そうね。」とお祖母ちゃんは言いながら、お茶をすする。


「痛みと言えば、心痛はしちゃだめよ。心配はしていいけど。」

「なにそれ、お祖母ちゃん。それに、心痛めるほどの内容じゃないし。」

 私はごちそうさまをしながらお祖母ちゃんに言う。

「昔言われたのよ。類子が事故で手術してるときに。

 心は痛めちゃいかん。しかし心配、つまり心配りは良い。

 手術が終わったら、心を類子に配ればいいって。」

 

 父の妹にあたる、類子叔母さんは私が生まれてすぐに事故で手術をしている。

「今では叔母さんぴんぴんしてるからいいけど、その人酷くない? 」

「でしょでしょ。心痛めるなって言ったって、痛いに決まってるじゃない。

 心はここにあるんだって分かるくらいに。」

 祖母はそう言いながら、心臓のあたりに手を当てた。

 そこがひどく痛んだのだと分かった。


「お祖母ちゃんはね、その時この人は幸せな人なんだろうって思ったわ。」

「そんな酷いこと言う人なのに? 」

「だからよ。

 その時のお祖母ちゃんみたいに、

心を痛めるほどの事を体験していないって事でしょう。」

「なるほど、そんな人はどんな事があっても平気そうだし。

 それに本気で思っていたら、いろいろと楽だろうね。」 


「ま、そんな愚痴は良いとして。

 どうしても気になるなら、普段の会話の時に頭痛持ちだとか言って、

 鎮痛剤常に持ってるアピールでもしてみたらどう? 」

 確かにポーチに少しくらい絆創膏や頭痛薬でも入れておいてもいいかもしれない。

「持って行くなら、薬箱に入ってるはずだから。」

 お祖母ちゃんはそう言い、薬が入っている棚を指さした。


「鎮痛剤を使うかどうかは、その理香ちゃんって子が、

必要とするかは分かんないけどね。」

 そんなことを付け加た祖母に、

「いろんな考えがあるもんね。」と、私は話した。


 ダイニングから席をはずそうとした私に祖母は質問してきた。

「試験どうだったの。」

「ねぇ、お祖母ちゃん。

 試験に対しての出来もいろいろな考えがあるのです。」

 私は祖母に伝え走って逃げるように、自室に向かったのだった。

読んで頂きありがとうございました。

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