8話
やる気はあるけど本当に時間がない、おのれ単位め
安藤永莉がその死体を見た時、思い出した話があった。
それを聞いた時は特に興味を持たなかったので気にも止めてなかったようだが、あの芸術品を見た時にある確信にいたっていた。
決してニュースになる事のない殺人鬼、デスアゴニー齋藤の話を安藤永莉は思い出していた。
組織で聞いた単なる噂、都市伝説の類いと思っていたその殺人鬼。
ある巨大な組織がバックに付いており、あらゆる殺人が許容される異常者の話。
齋藤の特徴はその死体の有様だった、一目で元が人間だということはわかるのにシルエットが人間とかけ離れた死体。
そんな殺人鬼の話を安藤永莉は思い出していた。
安藤永莉は眼前の芸術品をもう一度見る。
安藤永莉が再び頬濡らしていると携帯が鳴った。
「高倉はまだ始末出来ないのか?」
電話の相手はボスだ。
普段仕事を速攻でこなす安藤が未だに報告をあげてこないことに違和感を感じたのだろう。
もし殺し合いの最中だったらとか考えなかったのだろうか。
それとも戦闘になった瞬間に安藤の死亡が確定しているという信頼からなのか、ボスは安藤に電話をかけていた。
「……私が殺しに入った時既に高倉は殺されていました」
「自殺か?」
「……いえ、殺されてます」
「先を越されたのか、まぁいい。待機させている処理班に任せてお前は戻れ」
「分かりました」
安藤は元気なく返事して、ゆっくりと引き返して組織の寮へと向かう。
安藤の自室にはほとんど物が置かれておらず、ある一室を除いて殺風景なものだった。
そこには壁、天井をびっしりと覆い尽くす程の男女の写真が貼られていた。
彼らは安藤の弟と妹だ。
殺しの腕が鈍るという理由から弟妹との接触を許可されていなかった。
毎週日曜日に送られてくる弟妹の写真だけが彼女が生きていくモチベーションであり、安藤の仕事の報酬は弟妹の生活費へと当てられていた。
そして安藤自身が生きるために、安藤は殺し屋をやっている。
きっと彼女達の両親がまともで虐待なんてしていなければこんな事になっていなかったのだろうし、死体もかなり減っていたと思う。
それか、善良なる大人に彼女達が拾われていればと思うがもう過ぎてしまったことだ。
帰宅してから安藤は何かをすることもなく、眠りにつこうとする。
寝室こそ弟妹に囲まれた部屋であり、自身の生を感じられる唯一の部屋でもある。
しかし、普段眠りにつくまでが早い安藤でもこの日の夜は高倉仁平太の死体が気になってなかなか眠りにつくことが出来ない。
まるで最高の映画を観た後のように余韻が何時まで経っても消えない。
彼女は映画など見た事ないだろうが。
人生において安藤は始めて感動していたのだ。
頬が紅潮し、鼓動の加速は治まらない。
安藤が焦がれているのはあの死体ではなくその製作者なのだが安藤は何も理解出来ていないのだろう。
なんとかゆっくりと呼吸をし息を整える。
安藤はボスとの地獄の3年間を思い出す。
そうすることで自然と顔の紅潮も治まっていつもの感情を持たない人殺しのための道具に戻る事が出来た。
そうして安藤は眠りについた。
そして翌日、回収された高倉仁平太の死体が消えてしまったことがさらなる事件へと発展する。
安藤永莉と齋藤柔木の出会いへと。
まじで会話ないし、会話下手くそなんだよなー