5話
読んでくれてありがとうございます!
貴方の事が大好きです!
「貴方を人間に堕としましょう」
どうやって彼女を人間にするのだろうか、不謹慎なのかも知れないけれどこの時ぼくは興奮しながら様子を見ていた。
「人間が神になったり神が人間になるなんてよくある事よ。それに彼女は既に神としての性質を殆ど失っているようだし」
十二宮さんは見えていないはずであるが正確にお姉さんを見る。
「半神半人で産まれた時からこの世に居るのだから人としての性質が強く出てきているわ」
ぼくとお姉さんは息を飲んで次の言葉を待つ。
「貴方の中にある神を殺すわ」
全く気付かなかった、十二宮さんが神々しい剣を握っている事に、その剣が死神のお姉さんを穿いている事に。
「ああっ!!」
ぼくが声をあげるのは当然の事だろう目の前で人が刺されているのだから。
だが直ぐに違和感に気付く、お姉さんの確かに苦悶の表情を浮かべてはいるけれど決して致命傷を受けた時の様な反応ではない。
「ぐうぅぅ」
お姉さんから声が漏れるけれどやはり断末魔と言うには些細なものだろう。
「この剣の銘は天羽々斬、かつて神を斬った剣。これは欠けていたのを私好みに打ち直したものだから少し違うのだけれどそんな事はどうでといいわよね」
お姉さんが苦しんでいる間に十二宮さんは剣の説明を始めた。
「この剣は神に対してのみ殺傷能力を発揮するわ、まぁ私がそうなるように打ち直したのだけど」
十二宮さんが剣を引き抜くのと同時にお姉さんが膝から崩れ落ちる。
ぼくはすぐさまお姉さんに駆け寄る。
すると直ぐに気付いた、お姉さんに触る事が出来る事に。
「お姉さん!」
ぼくは嬉しくなって声をかける。
「……う、私……人間になれたの?」
「触れるよ!お姉さん!」
「……良かった」
お姉さんは力尽きたのかその場に倒れてしまった。
「お姉さん!」
悲鳴にも似た声をあげるが、すぐさま彼女が眠ってしまっているだけだと気付いた。
幸せそうな寝顔だった。
「後は私に任せなさい、1週間後ここで会いましょう」
そう言って十二宮さんはお姉さんを背負って帰ってしまった。
7歳が大人を背負っているのにまるで重さを感じさせない足どりで十二宮さんは去っていく。
1週間後、ぼくは少しそわそわしながら例の公園で待っていた。
「ごきげんよう」
1時間程待った後に2人の少女がやって来た。
1人は見間違えるはずもない、あの十二宮さんだが1人は見た事のない少女で、十二宮さんより少し年上のように見える。
正確には面影はあったし、既視感もあったのだが。
「その子は誰なんですか?」
ぼくは半ば分かっていながら質問してしまう。
十二宮さんがここに連れて来た理由もそう考えれば納得出来るのだから。
「わ……私の名前は黒井 玄……です」
愛らしさのあるたどたどしい自己紹介だった。
「気付いてると思うけどこの子があの死神よ」
やはりそうだった、死神のお姉さんだった。
「神の力を失って人間の部分だけが残ったのだから10歳の少女になるのはまぁ当然の事よね。神として与えられた知識も権能も、無くしてもう彼女は完璧な人間よ」
「彼女……黒井さんはこれからどうなるんでしょうか?」
「心配しないで、彼女は家のメイドとして雇ったから」
「えっ?」
「戸籍も作ったし、学校にも通い始めているわ」
「学校?」
「ええ、10歳だから4年生よ」
驚いて声も出なくなった。
1週間前まで感情が死んでいて、人間の魂を集めていた死神が小学校に通いながらメイドになっていた。
凄いというか凄まじいというか、噂に違わぬ完璧な仕事ぶりだった。
十二宮さんが人を救う所をまじかで見れて感動しているし、感謝している。
孤独の辛さをぼくは知っていたから。
彼女を孤独から解き放った十二宮さんに感謝している。
「いいのよ、ちょうどメイドが欲しかったところだから」
十二宮さんはぼくの思考を模写して心の声に相槌を打つ。
「玄に会いたくなったら何時でも家にいらっしゃい。歓迎するわ」長い付き合いになるみたいね
「ありがとうございます」
ぼくは深々と頭を下げた、それに呼応して黒井さんもお辞儀をする、メイドとしての指導を受けたのか綺麗なお辞儀だ。
そんな感じの事が昔あったのだ、10年前にあったのだった。これが十二宮さんに作った初めての借りで長い付き合いの始まりだった。
今思い出した、この思い出の最大の疑問点を。
「なんで僕生きてるんだ?」
はい、死神さん編完結ですね。
綺麗に終わりましたね。
指摘、批判、感想、なんでもまってます!
次回南極大陸探偵最強決戦編(少し嘘)