16話
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3時間カラオケに行って80点以上が1曲だけの真咲です。
その日、夜の学校という言葉から想像されるような静けさ、暗さは一切なかった。
静けさどころか校舎が破壊される度に爆音が弾け、絶え間ない閃光が辺り一面を覆う。
教師と生徒のいざこざと言えばそうなのであるが、その規模は一個人同士の争いというには些か被害が大きすぎる。
大河内サヤと小山小次郎が衝突する度に北星高校はその原型を失う。
戦いの余波によって無感情に校舎は崩れ落ちていく。
「気が利きますね、隠蔽か人払いの魔法ですか」
「先生は少し遠慮してください……学校壊しすぎです!」
戦闘が始まって数十分、戦況は膠着している。
小山小次郎は右腕から校舎を破壊する程の熱量を持った魔力の帯を無尽蔵に放出し、大河内サヤがそれを防御する。
小山小次郎の怒涛の攻撃に大河内サヤは反撃の隙間を得られない。
一見すると大河内サヤは防戦一方で圧されているようにも感じられるが、実際は数十分の間小山小次郎の攻撃を直撃することなく捌き続けている。
校舎の損壊具合から決して小山小次郎の攻撃力が低くないことは明らかであるが大河内サヤの防御力はそれを大きく上回っている。
しかし小山小次郎も無尽蔵に攻撃を放ち続けている。
いつ大河内サヤの防御を破り校舎ではなく彼女の肉体が崩れ落ちてもおかしくはない。
更に降り注ぐ破壊の雨を大河内サヤはそれでも全て防いだ。
その数分後。
「先生ビームなんて撃てたんですね」
「ええっ……あなたには効果はないっ……ようですがっ」
小山小次郎は既に限界に達していた。
動きを止めて呼吸を整えようとしているがいっこうに呼吸の乱れは治まらない。
常に攻撃し続ける小山小次郎が大河内サヤよりも先に体力が尽きるのは必然だっただろうか。
否、恐ろしいのは大河内サヤの力だ。
彼女は最初から余裕だった。
戦いのさなか周辺地域に戦闘を目撃されないように隠蔽の魔法を使いながら、一撃一撃が強大な威力を持った砲撃を数十分に渡って防ぎ続けた。
大抵の特別な人間にも出来ることではない。
彼女の特別度合いは現状の十二宮妃を超えていると言って過言ではない。
十二宮妃が生きていればこの世界を将来的に必ず救うだろう。
そして人類という種そのものが大きく進歩する。
それだけの事を成し遂げられるのが十二宮妃であり、彼女は間違いなく特別の中の特別な人間である。
では大河内サヤは十二宮妃と比べて劣っているだろうか。
大河内サヤは既に世界を救っている。
召還された異世界を大河内サヤは救っている。
それもただ世界を救っただけではない。
大河内サヤは異世界に恒久的な平和をもたらしたのだ。
人間と魔族の戦争を誰1人の犠牲も出さずに終戦に導き、世の中を変えてしまったのが大河内サヤである。
十二宮妃がこれから成すことを既に大河内サヤは既に終えている。
それもおそらく十二宮妃以上のレベルで世界を救っている。
異世界を救った勇者と人類の頂点。
どちらが優れているとは一概に言えないが、大河内サヤが十二宮妃に劣っていることは絶対にありえない。
そんな大河内サヤが初老の教師に遅れをとるはずが無かった。
「先生降参してください。貴方のビームじゃ私の防御は突破できません」
「……確かに……ですが貴方は私には勝てませんよ」
突如機械音が小山小次郎の右腕から発っせられ、大量の蒸気を放出する。
小山小次郎の右腕の皮膚が溶け、その中身、銀色の腕が顕れる。
「義手っ!?」
「えぇ……ここからが本気です」
小山小次郎の表情、姿勢からは完全に疲労の色が消え去っていた。
「対魔力銀腕展開」
一瞬で小山小次郎の銀色の腕が大きく変形し、人間の腕の形を失っていく。
遂には小山小次郎の体格を銀色の腕が超え、銀色の腕こそが本体であり、小山小次郎はそれを動かす為の1つのパーツにすぎないようである。
「全武装解放」
「まじですか……先生っ!」
無数の魔力の帯が大河内サヤを一斉に襲う。
「くっ!?」
ギリギリの所で防御は間に合ったが大河内サヤの身体が宙を舞う。
「まだ耐えますか!?……ですが、攻撃をしなければ貴方に勝ちはありませんよ!」
宙に浮かされた大河内サヤに追撃が放たれる。
「きゃあああっ!」
大河内サヤの身体を覆う魔力の層を突破し、肉体へ直接ダメージが通る。
激痛が大河内サヤを襲い、そのまま地面へと叩き付けられる。
「うぅぅぅぐっぅ」
大河内サヤの視界が点滅するように消えかけ、意識が薄れていく。
「この程度で世界を救ったとは……貴方の召喚された世界はよほどぬるかったんですね」
「その……義手……異世界っの……」
「流石に気付きますよね、貴方だけが帰還者ではないということです。その身体ではしばらく動けないでしょう、私は世界の敵を殺しに行きますので、反省して待っていなさい」
「ま……ま……待てっ!!!」
「……っ!?凄いですね、その傷でどうして立てるんですか?」
大河内サヤは立っていた。身体の一部が焼け焦げ、大量の血液を失いながらもその両足は地面を捉え、直立している。
「痛みを消す魔法も身体を動かす魔法も使えますから」
「なるほどなるほど、肉体を魔力で制御して動かしている訳ですか、それが貴方の身体能力の秘密という訳ですね。ですが……見たところ限界のようですね魔力の残りも僅かでしょう、何故立ち上がったのですか?」
「先生……争いが無くなるにはどうしたらいいと思いますか?」
「?……人類が1人になればいいと思いますね」
「違いますよ、人と人の理解が深まればいいんですよ、分かり合うことが重要なんです」
「人と人が完全に分かり合うことは出来ませんよ、何故貴方が立ち上がるのか、何故彼が十二宮妃の蘇生を邪魔するのか、理解できません」
「……確かに人と人が分かり合うのは難しいと思います。だけど……私と人なら簡単に分かり合う方法があるんですよ」
「……さっきから一体なんの話しをしてるんですか、脳に損傷でも負いましたか?」
「本当は使いたくなかった……また暴走したらって思うと恐くて……もう二度と使わないって思ってた……だけどっ……戦いを終わらせます!……聖剣……表出っ!」
掛け声と共に大河内サヤの胸から剣の柄が生え出す。そして剣の柄を掴み一気に引き抜く。
神々しさを纏った剣、大河内サヤが異世界を救えた要因。
その聖なる剣は人と人を真なる意味で繋ぐことの出来る聖具。
聖剣エクスコネクター。
大河内サヤは切っ先を小山小次郎に向けて高らかに宣言する。
「理解の時間です……小山先生!」
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