15話
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V豚の真咲です
「死んだ先輩も蘇生を望んでなくて、お前も人を殺す事を認めてない。両方叶えればいいじゃねぇか、お前がその女の子を守ればいいだろ!」
「僕が上石美命を守る……」
それは僕君ちゃんが考えもしなかって解決策だった。
否、僕君ちゃんはそれが不可能であると悟っていた。
「おう、それでハッピーエンドだろ?」
「無理だ……僕の力は戦闘向きじゃないし」
僕君ちゃんの能力、過去の物語、完結した物語を理解する能力。
過去を観る能力では現在進行形の上石美命の心臓を巡る戦いには何の効力もない。
「お前は色んな人間を観てきたんだろ、その中に誰か助けてくれそうな人はいないのか?」
「助けてくれそうな人……」
僕君ちゃんが観てきた、観察してきた大勢の人間。
死神、探偵、殺し屋、殺人鬼、ヒーロー、魔法使い、怪人、そして……
「……1人、心当たりがある」
「えっ……まじ?」
「まじ。頼めるか?」
「まぁいいけど、上手くいくかはわかんねぇぞ。あいつとはずっと話して無かったし……」
「頑張ってくれ、あの人が味方になってくれたら勝機はある。それに……あの人は優しいからきっと協力してくれるはずだ」
「わかったよ……じゃあとりあえず会って話してみるよ」
「あぁ、頼む!……十二宮十三と話す!」
22時、十二宮十三との約束の時間。
保健室は静まりかえってまるで時間が止まっているように感じられる。
保健室の扉が開き、物語が進み始める。
2人の男が保健室へと足を踏み入れる。
1人は当然十二宮十三である。
十二宮十三は穏やかな表情で問いかける。
「結論はでたかい?」
僕君ちゃんがどういった結論を出すのかあるいは既に理解しているようでもある。
そして僕君ちゃんの意思は十二宮十三にとって大した意味を持たない。
既に彼の中で娘の蘇生は確定事項であって覆ることはない。
娘の蘇生が確定しているのだから、慌てる必要も焦る必要もない。
ただ穏やかにその歓喜の瞬間を待ち望んでいる。
そんな十二宮十三の背後には険しい顔をした初老の男が立っていた。
僕君ちゃんは彼を見た事があったが、名前も知らない。
僕君ちゃんは彼に興味を持ったことがなかった。
故に彼、北星高校三学年主任、小山小次郎の物語を観ていない。
僕君ちゃんは彼を無視して十二宮十三と対峙してしまった。
「すいません十二宮さん……僕は上石美命を殺せない」
「そうかい、そうだろうね、君は人殺しではないのだから当然だろう。だが安心してくれ、私達が必ず妃を生き返らせると約束しよう」
僕君ちゃんの想定通り十二宮十三は僕君ちゃんが行こうが行かまいが上石美命を殺す。
そして十二宮妃を蘇生させる。
十二宮十三にとって見ず知らずの少女の命は実の娘の命よりも格段に小さい。
そしてそれは世界にとっても同様である。
十二宮妃を失うことは世界にとって、人類にとって損失であるが、上石美命が世界、人類に影響を与えることはない。
上石美命を殺すことは長い目で見れば正しく正義なのだ。
しかし、正義は上石美命を救わない。
そんなものを僕君ちゃんは認められない。十二宮妃がそれを許さない事を知っている。
だから僕君ちゃんはその決意を固めた。
後藤祐樹に示された道は険しく長い。
(関係ないっ!)
世界を救わない。
(関係ないっ!)
十二宮妃へ胸を張って語ることの出来る唯一の道。
それを僕君ちゃんは進む。
「……十二宮先輩は死にました」
「そうだね……だが生き返る」
「先輩はそんなことは望んでいないっ!誰かを犠牲にして自分が助かる道を先輩は選んだりなんかしないっ!」
「……私達の邪魔をすると?」
「上石美命を僕が護ります」
「それは世界への敵対行為だ、許されることじゃない」
「僕は世界よりも先輩の意志を護りたいっ!」
「……やれやれ。そんな気はしていた、していたよ……直感でね」
言い終わると同時、十二宮十三は軽く手を挙げる。
それを合図に後ろに控えていた初老の男、小山小次郎が僕君ちゃんの首掴み絞めて持ち上げる。
「ぐぅっ!!」
僕君ちゃんは自身の首を掴む腕に爪をたて必死に抵抗するが首を絞める力が弱くなることはない。
「そんな気がしたんだ、君は私達の邪魔をすると。だから迎撃する準備を整えてからここに来た。彼はうちの教師陣の中でも相当の実力者だし、彼女と相性がいいからね」
「うっうう」
初めは大きく抵抗していた僕君ちゃんの動きが徐々に弱々くなる。
(い……意識がっ…)
「来るっ!!」
突如十二宮十三の怒号にも似た声が飛ぶ。
一瞬遅れて保健室内に衝撃波と爆音が響く。
衝撃で僕君ちゃんの首から小山小次郎の腕が離れて僕君ちゃんはそのまま地面に倒れる。
「こんばんは小山先生。生徒を鷲掴みにするなんて酷いじゃないですか……今どきは色々厳しいんですよ」
「いえいえ私は三学年担当ですから。彼は私の生徒ではありませんよ。それに彼は世界の敵ですから、これは慈善活動ですよ。聖職者として当たり前の」
「……小山先生がそんなに仕事熱心だなんて知りませんでしたよ。私にも指導してくれます?」
「ええ、もちろん。聖職者を吹き飛ばすような輩にはキツめの罰を与えましょう……大河内」
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