12話
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「あぁ、ダメだ。これは死ぬ」
辺り一面に拡がる銀世界。
「生きろ、お前は強い子のはずだ」
幻想的な風景を相殺する圧倒的な低温。
「喋ってないで身体動かしてよ、本当に死ぬよ!?」
ザクッザクッと地面を掘る音も風の轟音にかき消される。
「祐樹さん、頑張って下さい!もう少しです!」
銀世界に有る4つの影はスコップ片手にせっせと地面を掘り進めて行く。
「頑張る、俺頑張るよ!!」
銀世界に縦に10メートルほど、横に10メートルほどの小さな部屋が出来た。
「いや、ダメだもう限界。動けねぇ」
地面から泣き言が聞こえる。
正確に表現するなら地面に伏した後藤祐樹が戯言をほざいている。
「お前殆どなんもしてないじゃん。殆どサヤさんの力じゃん」
後藤祐樹を見下している3人の中で見下している僕君ちゃんが後藤祐樹が役に立っていないという事実を伝える。
「そうだけども!俺が限界という事実は真実なんだよ!」
限界と言いながら声量を上げていくのだから怪しさが増すばかりだが実際疲労は溜まっているようで肩で息をしている。
「とりあえず4人とも生きてるんだし、まぁよかったよ」
1番働いた大河内サヤが1番疲労の色を見せない。
運動して多少紅潮した頬と流れる汗が色気を演出している。
「お疲れ様です、皆さん!」
ほかの三人と比べて一回り小さな女の子もまだまだ元気な様子だ。
「サキちゃんもこんなに元気なのになんでお前がへばってんの?」
「うるせぇー世間はもっとか弱い男の子に寛容になるべきだと思いまーす」
パンっ!
大河内サヤが手を叩いて音を鳴らす。
「とりあえず今日はここから動けなさそうだからご飯の用意しよっか」
大河内サヤは上を見上げながら言う。
未だに10メートル上空は人間の生活できる環境ではないようだ。
「手伝います!」
「ありがとう」
大河内サヤと十二宮サキがそそくさと晩御飯の用意を始める。
「僕も手伝うよ」
「君はじっとしてて」
「……はい」
殺気にも似た圧を放って大河内サヤは僕君ちゃんを威圧する。
僕君ちゃんが担当した初日の料理が忘れられないらしい。
もちろん悪い意味だが。
僕君ちゃんは大人しく待って置くことにして地に伏している後藤祐樹の傍に腰を下ろす。
「凄い発見があったんだけど聞きたい?」
「料理してる女子が最高って話なら前聞いたぞ」
「いや、それも大発見だったけど今回のはもっと凄いんだって。日本語の神秘に迫る感じでさぁ」
「へーー」
「引くって言葉あるじゃん?」
「明らかに興味のない『へーー』だっただろ!?興味ないって言ってんの!」
「いや、まじまじ。1回聞いとけ」
「……わかったよ。なんだっけお前のはへたれっぷりに引くって話だっけ」
「違ぇけどその引くの話だよ!」
「わめくなわめくな、それがどうしたって?」
「いやだからな、『引く』って嫌悪感を持った時に使うじゃん。じゃあ逆に好感を持った時に」
「あぁ推すってことか」
「おいぃ!決めゼリフだろうが、ドヤ顔で言うつもりだったのにぃぃ!!」
「うるせぇ引くわ。『押す』と『推す』を掛けたくだらねぇダジャレじゃねぇか」
「日本語の神秘の深淵だろうが大発見だろうが」
わぁー
わぁー
「何をわぁーわぁー言ってるのよ、ご飯用意できたよ」
男性陣、もとい男性と中性が喚いている間に晩御飯の用意が完了していた。
「このオカン力よ」
「なにか?」
「なんでもないでーす」
「おぉ美味そう」
「サヤさんの料理はいつ見ても凄いよな」
「本当になんでも出来て羨ましいです!」
「あはは、まぁ生きる術として必要だったからねぇ」
大河内サヤは目を細めて頭を押さえて赤面する。
豪華絢爛とはいかないがこんな環境で用意したとは思えないようなメニューが並んでいた。
米に魚に卵に野菜。
デザートのプリンまで付いている。
大河内サヤが異世界で身につけた魔法の力を存分に使って作った見た目以上に豪華なディナーだ。
「冷めないうちに召し上がれっ」
消灯後
「眠れないんですか?」
「サキちゃん……少し目が冴えちゃっただけだよ」
僕君ちゃんは笑顔を作るがそのの表情が暗いのは夜のせいではないだろう。
十二宮サキもそれには気付いているようである。
「元気出して下さい!明日はきっと見つかりますよ!」
「……君はこれでよかったのかい?僕達が上石美命を助けるって事は君のお姉さんはもう……」
生き返る事はない。
「いいんですよ。死んだ人間より生きている人間の方が大切ですから」
十二宮サキは笑顔で言うがその声からは負の感情を僅かに感じ取れる。
嫉妬や愛情、悲しみ。
誰もが正しいことを選び取れる訳では無い。
僕君ちゃん達の選択が正しいのか、誰にも判断できない。
はっきりと言えるのはその選択が十二宮十三と対立している事くらいだ。
まだ僕君ちゃんも迷っているのだ。
「僕は自信がないよ。先輩ならこんな時どうしていたんだろうっていつも考えてる」
「いいじゃないですか、考え続けたらいいんですよ。何が正しかったのかを判断するのは今の私達じゃなくて結果を観測している未来の私達ですから。私達に出来るのは未来の私達が過去の私達を誇れるように考え続けて動き続けることだけですよ」
「……そうかもね、もう少し考えてみるよ。未来の他人ならともかく未来の自分に笑われたくはないからね」
「えぇ!頑張りましょう!」
それから2人は軽く談笑して時間を過ごした。
「僕はそろそろ寝るけどサキちゃんは?」
「私はもう少しここで」
「そう……おやすみ」
「おやすみなさい」
静まり返った空間に少女は1人。
優秀すぎる出来すぎた姉と比較され続けてきた妹は凡人たる自分に概ね満足していた。
「考える暇もなく直感で正しいを判断できる妃ねぇは天才で完璧で自慢の姉だけどつまらない人生だなって思ってたんです。だけど考える自由を奪われているとも思う」
平凡だから出来る事も天才にしか出来ない事も存在する。
「考える事はバカの特権で私達に許された快楽なんだって思うと天才が少し惨めにも思ってたんだよ」
十二宮サキの口角が上がっていくのと同時に瞳には水分が集まってくる。
「妃ねぇの人生には余白がなくて自由にアレンジする隙間がないんだと思う」
雫が頬を濡らす。
十二宮サキの脳裏に浮かぶのはいつだって完璧だった姉の姿だ。
十二宮サキは十二宮妃の命を選ばなかった。
(十二宮妃ならばそう選択するだろうから)
「私は妃ねぇが本当に幸せだったのか天才が幸せなのか知りたかった。……もっとお話したかったよ……妃ねぇ」
4人パーティーで戦えるの女性陣だけじゃん