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4. 吸血鬼はとても積極的ですのよ


「お父様、お母様。私アレックス様と是非婚約を結びたいのですけれど。アレックス様は私の番い(つがい)なのです。まさか人間が私の番いだとは思いもよりませんでしたわ」


 王都にあるシャトレ侯爵のタウンハウスに帰ったアドリエンヌは、早速両親へ興奮気味に言った。


「フルノー伯爵は随分と心根の良い人間らしい。ただ、伯爵領は豊かとは言えず領地経営は厳しいのだとか。まあはっきり言えば貧乏伯爵家だ。嫡男のアレックス殿は社交界にはほとんど顔を出さないから、どのような人柄か分からんな。ただ、アドリエンヌが彼を番だと感じたのであれば我々が反対する理由はない」


 侯爵は番いへの衝動が()()()()()()()()()()()抗えないことだと分かっているから、相手がどのような者であったとしてもアドリエンヌを支持すると言った。


「アドリエンヌ、相手の方はどんな方なの? 髪の色は? 瞳は? 容姿は?」

「よくぞ聞いてくれたわ、お母様。アレックス様はね濡羽色(黒色)の髪に、月のない闇夜のような瞳の色をしているの。お顔立ちは、そうねえ……切れ長の瞳は少しだけつり目がちで、スラリとしているのだけれど服の下は程よく逞しい筋肉がついていたわ。そして声は落ち着きがあって低めなの。何より匂いが芳しくてとても甘いのよ」


 アドリエンヌたち種族の特徴である優れた五感を駆使して得た情報を、侯爵夫人へと述べたアドリエンヌの表情はどこか恍惚としていた。


「まあ、それは素敵だわ。それでは早く本当の番いとなれるように頑張らないとね」

「はい、お母様。()()()()私が持つ能力を駆使して必ずやアレックス様を私の本当の番いとしてみせますわ」


 そう言ってアドリエンヌは胸の前できつく拳を握って自らの決心を示した。


「アドリエンヌ、我らは故国では珍しくない種族だがこのガンブラン王国で吸血鬼というのは人間にとって脅威でもある。アレックス殿もなかなかお前を受け入れることが出来ぬかもしれん」

「お父様、大丈夫ですわ。拒絶されようが逃げられようが私は諦めずに何度でもアタックしますから」

「そうか。ならば良い」


 故国ならまだしも、この人間の国で異種族の吸血鬼だというハンデを抱えながらでも必ずや番いであるアレックスを手に入れると息巻くアドリエンヌを、両親は励ましを込めた温かな眼差しで見つめていた。


「相手をモノにするには、まず情報収集が基本ですわね。お父様、お母様早速アレックス様の今日の反応を見て参ります」


 そう言ってアドリエンヌはその姿を蝙蝠(こうもり)へと変えた。


「行ってらっしゃーい」

「気をつけるんだぞ」


 空中を飛翔する蝙蝠は、そのまま開け放たれた窓からフルノー邸の方へ向けて羽ばたいていった。

 アドリエンヌはフルノー邸の場所を知らなかったが、番いの香りを辿ればすぐに見つけられる。


 そして暫く夜空を飛翔した蝙蝠は、フルノー伯爵家のタウンハウスを見つけた。

 そこは貴族の邸にしては小ぶりな建物で、庭園も華やかな景色というよりは野花やハーブも多く、素朴で可愛らしいものであった。


「まあ、素朴で自然な雰囲気がとても素敵なお庭ね。お邸は古いけれど丁寧に修繕されていているわ。物を大切になさるお家柄なのね。素晴らしいわ」


 アドリエンヌは灯りが点いている部屋を窓の外から一つ一つ覗いて行った。

 

「室内も豪華絢爛というよりは、古い家具や調度品を大切に手入れをして使っているという感じですわね。色味も暖かなものが多くて私好みだわ」


 邸はさほど大きい物ではなかったので、すぐに部屋で過ごすアレックスの自室の軒先へと到着し、その僅かな隙間から天井裏へと入り込んだ。


「とうとうアレックス様のお部屋に来てしまったわ。

ああ、胸のドキドキが止まらないですわね。しかも、もう眠ってしまうところのようだから早速降りてみましょう」


 天井裏の僅かな穴から室内のアレックスが寝台に上がるのが見える。

 やがてアレックスは静かな寝息を立て始めた。


 天井裏の穴から室内に降り立ったアドリエンヌは、蝙蝠の姿から令嬢の姿へと戻った。


 吸血鬼は一度変身して元の姿に戻った時には一糸纏わぬ姿となる為、アレックスの部屋にあった掛布を拝借して寝台で眠るアレックスの方へとアドリエンヌはそっと近づいた。


「ああ……。とても良い香りだわ。これは、アレックス様の血を吸いたいという衝動を堪えるのが大変ですわね」


 小さな声でそう言ってアドリエンヌはアレックスの首元に近寄り、クンクンと匂いを嗅いだ。


 その時アドリエンヌの銀糸の髪がハラリとアレックスの首筋に触れ、その瞬間パチリとアレックスの瞼が持ち上がり黒い瞳がキョロキョロと辺りを見回した。


「あら、お目覚めですか?」


 薄暗い室内に光る紅い双眸にアレックスは驚いて飛び起きた。


「な……ッ! 誰だ!」

「アレックス様、アドリエンヌでございます。どうしてもお会いしたくて、来てしまいましたわ」


 











 


 


 

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