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2. 真実の愛を見つけたのはお互い様ですわ


 ガンブラン王国国王の生誕記念パーティーは今年も国中の貴族たちに招待状が配られ、多くの貴族たちが王城の大広間へと集まっていた。


 そのような晴れの舞台に、今日の主役国王の息子である王太子は声を張り上げた。


「皆の者! 聞け! 私ユベール・レ・ガンブランはアドリエンヌ・ド・シャトレ侯爵令嬢との婚約破棄をこの場で宣言する!」


 まだパーティーは始まったばかりで国王の挨拶が終わり、やっと宴の始まりという時に突然の王太子の発言に、会場の貴族たちは大きくどよめいた。


「な! 何を言っておるのだ! 王太子、ユベール! やめんか!」


 痩せぎすの国王は玉座から転げ落ちんばかりに狼狽えたようで、王太子に向けて声を荒らげた。


「父上、私はやっと見つけたのです。真実の愛を! 皆の者、聞いてくれ! 私はこれからはネリー・ド・ブリアリ拍爵令嬢と婚約を結ぶことにした! ここにこれを宣言し、皆の者の拍手にて認められたものとする! さあ! 拍手を!」


 王太子の隣にはいつの間にか一人の令嬢が寄り添うように立っていた。

 その赤髪をクルクルと恥じらうようにして自らの手で弄び、頬を染めるその令嬢こそネリー・ド・ブリアリであった。


――パチ……パチ…………


 そのうち、線香花火程度のささやかな拍手が聞こえた。


「これで私のネリー・ド・ブリアリ伯爵令嬢との婚約を認められたものとする! 皆の者、祝福をありがとう!」


 王太子は隣に寄り添う令嬢と一緒に広間の貴族たちへ手を振りながら至極上機嫌な様子であった。


「まあ、陛下おめでたいですわね。ユベールも真実の愛を見つけたのですって。ネリー・ド・ブリアリは私の遠縁ですし、()()()()のアドリエンヌ・ド・シャトレよりもよっぽど可愛らしい令嬢よ」

「……何ということだ。……ハッ! アドリエンヌ、アドリエンヌ嬢はどこに?」


 国王は玉座から大広間を見渡し、その姿を探した。




「あらあら、王太子殿下。やらかしてくれましたわね。ここまで愚かだと国王陛下がお気の毒だわ」


 その頃アドリエンヌは王太子からのエスコートがなかった為に、父であるシャトレ侯爵とともに広間の隅からこの惨劇……もとい喜劇を楽しんでいた。


「アドリエンヌ、あのような王太子と婚約破棄できて良かったではないか。気の毒な国王陛下の顔を立てて我慢してきたがあのようにあちら側から婚約破棄を宣言してくれたことは僥倖だな」


 やり手の商会長でもある侯爵は、思わぬ幸運に口元を緩めている。


「国王陛下にはお気の毒ですが、私としては今日一番の最高に嬉しいお知らせですわ」


 ふふっと笑ったアドリエンヌは、この喜劇のキーパーソンである令嬢をチラチラと盗み見る貴族たちの中に目を向けた。


「……あら? お父様、とても芳しく甘い香りがしますわ。何だか抗えないような魅力的な香りが……」

「アドリエンヌ。もしや(つがい)が近くにいるのか?」

「ああ、そうですのね。番の香りとはこのように魅力的な香りなのですわね。あちらの方から香ってきますわ」


 香りに誘われてアドリエンヌは大広間を進んでいく。

 そのうち一人の令息が目の前に現れた。


「貴方は……」


 先ほどの騒ぎのキーパーソンである令嬢が目の前にフラフラと現れたことで驚いたのか、件の令息は訝しげな表情でアドリエンヌを見た。

 そのうちアドリエンヌを追いかけてきた侯爵が横に立ち、令息を品定めするような目つきでじっくりと値踏みしている。


「アドリエンヌ、こちらはフルノー伯爵とその令息だ」

「お初にお目にかかります。私はシャトレ侯爵が長女アドリエンヌ・ド・シャトレと申します。お名前を伺っても?」


 渾身のカーテシーを行えば、フルノー伯爵とその令息は瞠目して身を固くし動かなかった。




 


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