13. どこか具合でも悪いのですか
あれから毎日のようにアドリエンヌはフルノー侯爵家のタウンハウスへと足を運んでいる。
「アレックス様、今日は何をお手伝いいたしましょう?」
アドリエンヌはアレックスの手伝いをする為に作業用の簡素なワンピースを仕立てた。
リネンの白いワンピースは、初めて手伝いをした日にアレックスが身につけていたシャツと同じような素材で、少しでもアレックスと同じでありたいと願うアドリエンヌの気持ちを表しているかのようだった。
「今日はまず野菜とハーブの収穫を。それにしても、アドリエンヌ嬢のような令嬢が毎日のように畑仕事をして疲れないのですか?」
アレックスは飽きもせず毎日訪れては手伝いを申し出るアドリエンヌに、初めて会った時よりは少しだけ態度を軟化させていた。
「私たち吸血鬼は体力もありますし、力もあるのです。ただの御令嬢ならいざ知らず、私は全く平気ですわ。ご心配ありがとう存じます。アレックス様に心配していただけるなど、嬉しいですわ」
「別に心配している訳ではありません。毎日飽きもせずよく来るなと思っているだけです」
そんな突っ慳貪なアレックスの態度に隠された優しさにアドリエンヌは気づいていたから、明るい表情で嬉しい気持ちを隠せなかった。
「アレックス様、畑の手入れはアレックス様の役割なのですか?」
アドリエンヌが訪れた時、いつも庭で畑仕事をしているのはアレックスであった。
「別に決まっている訳ではありません。ただ、僕は野菜を作ったり花の手入れをすることが好きなのです。ですから好んでしているだけですよ」
「そうなのですね。私もこちらで初めてこのようなことをさせていただきましたが、とてもやりがいがあって楽しいことだと知りましたわ。これからも是非一緒にお手伝いさせてくださいませね」
そう言ってニコニコと笑うアドリエンヌを、アレックスは今までとは違って僅かにではあるが柔らかな視線を向けた。
「貴女は変わり者です。どんなに突き放しても面倒な事を頼んでも前向きで、笑顔なのですから」
アレックスの言葉にアドリエンヌは暫し瞠目したが、やがて花が綻ぶような華やかな笑顔を浮かべて首を傾げた。
「だって、私はアレックス様のことをとてもお慕いしているのですもの。こうして傍に置いていただけるだけで幸せなのですわ」
アドリエンヌの銀の髪がサラサラと揺れて、ルビーのような美しい紅い瞳はアレックスを見つめて煌めいた。
そんなアドリエンヌに、束の間アレックスは見惚れたのである。
「貴女のその楽観的な性格を僕も見習いたいですよ。……そうすればもっと気楽に吸血鬼の貴女を受け入れることが出来るのかもしれない」
アレックスは少し離れた場所に居たアドリエンヌには聞こえないほどのごく小さな声で呟いた。
「……アレックス様」
しかし、優れた五感を持つアドリエンヌにはしっかりと聞こえていたのだ。
アドリエンヌは頬を朱に染め、熱くなった顔を両手で扇いだ。
しかしそれでも身体の熱は逃げないようで、そのうち苦し気な呼吸へと変化した。
「はあ……ハア……っ……はあ……」
突然苦悶の表情で胸を押さえ、しゃがみ込んだアドリエンヌに驚いてアレックスは走り寄った。




