第4話:風呂
ヴィオレッタが起きるまで暇だったので、保健室の先生と世間話をしていた。
なんでもこの学園では怪我の治療や病気になった時の治療などは全て無料で受けられるらしく、本当に至れり尽くせりな場所だな。
ただ、当然だがお金がかかることもある。
例えば、食事代。食堂があり、そこでご飯を食べることもできるのだが有料なのだそうだ。
他にも、授業を受けるために必要な教材費などもかかるとのこと。
まぁ、リッチな生活してるような貴族が過半数を占めるようなガッコってだけはあるな。
俺もサンドラも父ちゃん母ちゃんからの仕送りで何とかしているが……平民や下級貴族ながらもここに入学した奴らは自分で働いて稼いだ金でやりくりしているらしいし、少しは見習わないとな。
そんな話をしているうちに、ヴィオレッタが起きたようで目をこすりながら上半身を起こす。
「ここは……」
「おはよう、よく眠れたか?」
「…………ッ、は、あ……ぅっ、良かった……」
ヴィオレッタは起きたと思うと体のあちこちを触り、最後に髪を触ってからホッと胸を撫でおろした。
股の部分がちょっと焦げてることに関しては知らんぷりしておこう。
「私、負けたましたのよね……。貴女に」
「そうだな。完膚なきまでに俺がお前を叩きのめしたな」
「……悔しいですわ、とても」
「そっか」
「でも不思議。清々しい気持ちで、なんだか晴れ晴れとした気分なの」
「へー……そりゃよかったな」
意外にも、彼女はすっきりしたような顔をしていた。
俺としてはもっと恨み言の一つくらい言われるかと思っていたんだが。
「貴方と決闘をしたおかげで、目が覚めた気がしますわ」
「俺のおかげじゃなくて自分のせいだろうに」
「ふふ、そうかもしれませんわね」
「なんにせよ、これで終わりだろ?もう喧嘩売ってくんなよ」
俺は呆れたようにため息を吐きつつ、ベッドから離れる。
すると、ヴィオレッタは何かを思い出したかのようにハッとして慌ててベッドから出て立ち上がる。
そして、スカートの裾を摘まんで優雅に一礼する。
「改めて、私の負けを認めます!私、ヴィオレッタ・ムーア!これからは、心を入れ替えて勉学に励みます!」
「……え?あ、あぁ、頑張れ」
急に態度が変わったことに驚きつつも、俺は適当に返事をするのだった。
「さて、目を覚ましたと言うのならば寮に帰りたまえ、私も仕事がない方が嬉しいのでね」
保険室の先生はそう言って机の方に向かい始めたので、俺はサンドラと一緒に保健室を出る。
ヴィオレッタはそれに続くように歩いて来たが、寮までの道は一緒なのだから気にすることはない。
「ねぇ、クロエさん」
「なんだよ」
「私、此度は確かに敗北致しました。ですが、いずれリベンジさせて頂きますわ。
貴女のその恐ろしい程の強さ、いつか覆してみせたいのですわ」
「だから、何度来ても無駄だって……」
「その時は何度でも挑ませていただきます。貴女の実力もそうして身についたものでしょうし、私もそれに習わせていただきますわ」
「は、はぁ!?」
こいつは何を言っているんだろうか、全く意味がわかんないぞ。
俺が困惑している間に、ヴィオレッタはそのままスタスタと歩き去って行ってしまった。
「……一体どういうことだよ、サンドラ」
「どうも何も、そのままの意味なのではないでしょうか。
貴族と言うのはプライドが高い方が多い物ですが、決して馬鹿ではありません。
故に一度の敗北で折れるような人ではないでしょうし、きっと本気でお嬢様を打倒するつもりですよ」
「マジかよ……」
はぁ、と溜息をつきながら頭を掻く。
面倒なことにならないといいんだけどな。
「……お嬢様、頭を搔きむしるのは淑女としてどうかと」
「うるせ、こちとら面倒なことになりまくってんだぞ」
冷静に考えなくても、カレンの馬鹿のせいで俺はクラス代表なんて物に添えられた。
クラス代表と言えば、そう……前の世界で言う所の委員長みたいなものだ。
そんなのに推薦されたり、俺もノリノリだったとは言えど決闘なんてしちゃったし。
「あーあ、父ちゃん母ちゃんが聞いたらめっちゃ怒るなコレ」
「謝る時は私もご一緒します、だからそう落ち込まないでください」
サンドラの言葉に俺はほろりと涙が出そうになるがどうにか堪える。
ここでボロボロ泣いてたら女々しさの塊……いや、確かに俺の体は女だ。
でも、心の中は男のままなんだし、泣いてはいたくないな。
そう思い直したところで、俺とサンドラは寮へとついていた。
「えーと、俺とカレンとサンドラで同室なんだっけな」
「確かそのようでしたね」
「部屋割りとかは聞いてなかったけど、まぁいいや。とりあえず入ろうぜ」
俺達は部屋の扉を開ける。
すると、そこには見慣れた顔が二つあった。……いやまぁ片方は俺なんですけれども。
「あ!やっと帰って来ましたね!」
「よ、カレン。よくも俺を推薦しやがったなこの女郎」
「それについては若干ながら申し訳ないとは思っていますが、この前私の護衛騎士の髪の毛に火をつけていた貴女には一度責任と言うものについて深く知る必要と思っていますので、後悔はしていませんよ?」
「あぁ?アレはお前ンとこのボンクラ騎士が俺に向かって『暴れるだけのじゃじゃ馬娘が、よくもまぁお嬢様と対等だなんて思い上がりやがって』とかふざけたこと言ったからじゃねえか。
それとも、燃やされたいのはお前の頭だったか?」
「ほう、火の魔術で私と張り合う気ですか?この間も私よりも放出速度と精度が遥かに劣っていたことを忘れたとは言わせませんよ?」
「んだと?」
俺はもう一戦交えるのも悪くないな、と思いながら拳の骨をバキリバキリと鳴らす。
カレンもどうやらそれには乗る気みたいで、制服の袖を捲ってやる気みたいだ。
だったら先手必勝、俺は右手に風、左手に炎を灯して――
「……お二人とも、このような室内での喧嘩はおやめください!」
「いでっ」
「ひぶっ」
流石に怒ったサンドラのチョップが俺とカレンの頭にぶち込まれた。
結構痛かったので、思わずその場にしゃがみ込んでしまう。
「全くもう、お嬢様はどうしてすぐに手が出るのでしょうか。
もう少し淑女の嗜みと言うものをですね……」
「うぅ、だってこいつが……」
「いえ、今のは完全に私が悪かったです……」
「わかればいいんですよ。さてと、私は荷物を整理してきますので、お二人はお風呂に入っておいてください。
お嬢様、くれぐれもお一人で入るなどということはなさらないようにお願い致します」
それだけ言って、サンドラは部屋を出て行った。
……そう言えば部屋の中は何があるのか見ていなかったな。
と、俺は寮の部屋には何があるのやらと見てみることにした。
「貴族が満足する寮ってだけあって広いな……」
「そうですか?私の部屋よりかは少々手狭ですし、三人で使うには不便ではあると思うのですが」
「生まれつきのリッチにゃわかんねえ広さだろうな、コレ」
確かにこの世界での俺の部屋よりも狭い、でも元の世界のことを考えると十分広い部屋だ。
それに、備え付けられているベッドはそこそこのサイズな上に三個もあるので繋げて寝れば面白そうだ。
加えて他に見てみると冷蔵庫と思しき物があるし、テーブルもあるのでここで何か食べることも出来そうだ。
勉強机と思しきものもあるし、他にも面白そうな本やらなんやらあるし退屈はしなさそうだ。
で、寮だから一部屋なのかと思えば別の部屋に繋がるドアもあり、トイレや風呂はここにあるみたいだな。
「こっちは……トイレか」
貴族でもクソ垂れるくらいのことはあるので、トイレは寮の中にあるみたいだ。
臭いとか大丈夫なんだろうか……と思ったら、どういう仕組みなのかこの中は無臭のようだ。
よく見ると壁に魔法陣が描いてあり、これにちょっとした秘密がありそうだな。
「んで、こっちが風呂か」
三人でまとめて入れそうなくらいの広さがある風呂で、デカい湯船に石鹸などがある。
加えて脱衣所までついてるわけだから、ちょっと目を回しそうだ。
前の世界で修学旅行に行った時のホテルとかの比じゃねえな……
「……じゃあ、入ろうぜ。カレン」
「そうですね、お風呂を共にすると言うのは初めてですが……まぁ、これから何度もしていくものなのでしょうね」
そんなこんなで服を脱ぎ、浴室へと足を踏み入れる。
水を入れるための装置に魔力を流し、湯船に水を入れる。
次に、温めるための装置に手を突っ込んで魔力を流して水を温めてお湯にする。
で、温まったお湯を桶で掬って浴びてから体を洗い始めるのだが……これがまた大変だったりするのだ。
まず、シャンプーがない。リンスもない。ボディーソープも当然ない。
一応タオルと石鹸はあるのでそれでゴシゴシ擦って泡立てて洗うしかない。
「痒いな、これ」
「仕方ありませんよ。お風呂に入るとはそういうものですから」
「畜生」
「ほらほら、私も手伝ってあげますよ。感謝してくださいね」
「うおっ!?」
カレンが俺の後ろに回り込んできて、背中をごしごしと強く擦ってくる。
俺はその勢いに負けて倒れそうになるが、なんとか踏ん張った。
「ちょっ、お前っ!力強すぎっ!」
「ふふんっ、貴女が軟弱なだけなのですよ、クロエ!」
「ぐぬぅっ……テメェ、覚悟しやがれ!」
悔しかったので今度は逆に後ろへ回ってやり返してやる。
すると、案外簡単にひっくり返ってくれたのでそのまま背中を強く擦ってやった。
「ひゃうっ!くっ、クロエ……!ちょっと、そこは……!」
「うるせえ、やられたら徹底的にフルスロットルでやり返すのが俺の心情だ!」
「っ、ぅぅつ、だ、だったら私もやり返すまでです……!」
「のわっ!テメッ、ちょ、待てコラ……!」
と、そんなこんなで俺とクロエはもみ合いになりながら泡だらけになり――
結果的に体は洗えたのだが、風呂に入って体を癒すはずが風呂に入る前よりも疲れることになった。
……湯船に入ってからは、何もなかったのが幸いと言うべきか。
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