第3話:決闘
俺の予想通り、クラス代表を決めるために闘技場での決闘が執り行われることとなった。
制服は動きやすい物なのでわざわざ体操服みたいなものを用意することもなく、俺たちは睨み合っている。
「これより、ヴィオレッタ・ムーアとクロエ・テイラー・テンペストの決闘を開始する!
立会人は担任教師であるこの私、アレキサンダー・クロフォードが努める!」
「質問、どれだけやっていいの?」
「私が治せる範囲、そうだな……手足の欠損、半殺し程度までなら許容しよう」
「りょーかい、じゃあ手加減しろってことね」
俺は準備体操をしながらアレキサンダーに確認を取り、どれだけの力で殺りあうかを決めた。
大体四方50メートルほどの武舞台を中心とした広場であり、校舎から100メートルほど離れたドーム状の施設。
その闘技場で俺とヴィオレッタは向かい合い、周囲には生徒たちが固唾を飲んで見守っている。
「杖は使っても構いませんわね?」
「問題ない、第三者の手を借りること以外は反則とは認めんのでな。
これ以上の質問はないな?……よし、では二人とも三歩程下がれ」
アレキサンダーはそう言って武舞台の端まで下がり、俺もヴィオレッタも一定の距離を取って止まる。
まぁ、魔術学校での決闘ってだけあってゼロ距離じゃ流石にマズいんだろうから距離を空けさせたんだろうな。
因みに勝敗を決める方法はアレキサンダーの裁量によるもののようだ。
「それでは、始めッ!」
手を挙げ、バッと振り下ろしてからアレキサンダーの言葉と共に決闘は始まった。
ヴィオレッタは片目を閉じて杖に手を翳して、ブツブツと魔術を詠唱し始めている。
奴の自己紹介とかどうでもよくて聞いてなかったけど、まぁこの距離なら多分見てからでも対応は間に合う。
「上級貴族を舐めてかかったこと、保健室のベッドの上で存分に悔やみなさい!アイシクル・ランス!」
「お」
ヴィオレッタは杖の先から氷の槍を生成し、俺に向けて真っ直ぐ飛ばして来た。
俺は拳に熱を灯し、熱した鉄のように赤く染め上げる。
「スーッ、フーッ……!ハァッ!」
バギャァン、とガラスが砕け散るような音と共にヴィオレッタの放った氷の槍は砕け散った。
俺の適正魔術は炎なんだから氷で出来た武器が飛んできたところで問題はない。
それに、詠唱なんて舌を噛みそうな真似なんかしなくたって魔術は使えるんだから。
「自信満々に放ったくせに、大したことねえなぁオイ!」
俺は走り出してからジャンプし、右手で爆発を巻き起こしてその勢いを加速させる。
次に左手で突風を起こして更に勢いをつけてヴィオレッタへと肉薄する。
一瞬の間に距離を詰められたヴィオレッタは目を見開いて何も出来ずにいたようだ。
「っ、あ……!」
次の魔術を詠唱しないと、とでも思ったのかヴィオレッタの奴は慌て始める。
「おせぇんだよ」
俺はグッと腰を落とし、左半身を前に出した状態から腰を捻る。
前世から喧嘩する時は大体一発目がコレだったな……なんて思い出しながら、俺は右拳を振り抜く。
鍛えられた形跡のない柔らかい腹に俺の硬い拳はめり込み、グニャァとした感触が伝わってくる。
殴る時に拳に炎を、肩を風で押したから威力はかなり出てるだろう。
「ッルァッ!」
「ぐえ――」
優雅にふるまう上級貴族らしくない声と共に、ヴィオレッタは数歩下がる。
大事にしていたであろう杖をカランと落としてうずくまる、実に間抜けな格好だ。
こんなので偉そうにふるまっているのを見ると、トサカに来るもんだぜ。
「オイ、何うずくまってんだよ。上級貴族なんだろ?だったら戦えよ」
俺はヴィオレッタの胸倉をつかんで立たせ、出来るだけ強く睨みつける。
父ちゃんは言っていた。『家柄に甘えてはいけない、偉そうに振舞うのならその態度に見合う強さや結果を自分で手に入れるんだ』と。
だから、俺は”元傭兵”である父ちゃんに、ちっちぇちっちぇガキの頃から手解きを受けて来た。
手にマメが出来て、体中にアザが出来て、ボロボロになった体でも戦えるように体を鍛えて来た。
だって、自由に喧嘩の出来る世界ってのは俺にとって前世の中でも楽しい物だったのだから。
「はぁ、はぁ……な、舐めないでくださいまし……!私は、上級、きぞ……くっ!」
ヴィオレッタは俺の手を精いっぱいの力で押しのけて、焦げた腹を押さえながら俺を睨みつける。
確かにコイツは普通に貴族らしい戦い方ってのを守っていたら強いんだろうな。
今までもこういう決闘をしても負けたことがなかったんだろう、だから俺に勝てると思って諦めないんだろう。
でも、こっちは優雅さだとか貴族らしさなんて捨てたような傭兵の戦い方を習ってきたんだ。
「貴方のような、下の者に負けるわけにはいきませんのよぉっ!」
「そうかよ、だったら鍛え直せよ」
フラフラとした足取りで殴りかかって来るヴィオレッタの腕を取って投げ飛ばす。
こんなことは前世での俺はロクな格闘技もやっていなかったので出来なかったが、今世では父ちゃんから死ぬほど叩き込まれた。
拳は基本、蹴り、投げ、関節、寝技……様々な武術や武器の使い方を習った俺はフツーに喧嘩するのなら強い方だろう。
と言っても、本場の傭兵相手にはまだロクに戦えないんだけどな。
「ほら、とっとと諦めろよ。それともまだやるか?」
「っ、うあぁぁ!」
ヴィオレッタは痛みを忘れたように跳び起きると、俺に向けて拳を振るってくる。
俺はそれを手のひらで受け止め、手のひらに熱を灯してヴィオレッタの拳を軽く焼く。
手足の欠損は許容範囲内と言っていたが、流石にそこまでいたぶるつもりはない。
ブッ飛ばして負かすつもりではいるけれど、一撃で丁度良く終わらせられるほど俺も手加減上手じゃない。
「あっ、ぎぃぃぃ!あぁぁっ!」
「降参するか?俺は弱い者いじめを趣味にする奴じゃないから、降参してくれてた方が助かるんだけどな」
これからのガッコ生活でもなるべく波風立てて暴れたくはない、ので。
俺はヴィオレッタの手を離して突き飛ばし、右手に火の玉、左手に小さな竜巻を作り出して見せつける。
「さーて、髪の毛を俺とお揃いのこんがりした黒にするか、それともショートヘアーにするか選べよ。あ、俺は優しいから降参も選択肢に入れてやるぞ?」
「っ、……はぁっ、っ、あ……」
満面の笑みでそんなことを言っているのにビビったのか、ヴィオレッタは声も出ずにガチガチと震え始めた。
貴族同士の決闘ってのは、存外生温いものばっかだったんだろうなぁ……まぁ、どうでもいいけど。
やるなら徹底的に、これは前世から学んだことだけど、今世でもちゃんとやっていくつもりだ。
「ほーら、早く答えないとフルコースで試してやるぞ~?真っ黒ショートヘアーで降参するか今降参するか選べって、はーやーくー」
「っぁ、あ、あ、あぁぁっ……!こ、こここここっ、こうっ……」
「んー?聞こえないからもっと大きめに、皆に聞こえるくらいの声で」
小さな声で発音に詰まっているので、俺は右手の火の玉を消してから胸倉をつかんで声にドスを利かせる。
「こ、っ、こ……!あ、ひぃ……」
「だから、聞こえねえって言って……あ」
ヴィオレッタは心が折れたのか、他にも別の要因が重なったのか白目を剥いて気絶してしまっていた。
しかも、制服のスカートはぐっしょりと濡れていて、俺の靴まで水が触れている。
まさかとは思ったが、俺は臭いを嗅いで、人差し指をつけてその生暖かさを感じ取った。
「……漏らすなよ」
凄い小さな声でそう呟いて、俺は最大火力の火を一点集中させてヴィオレッタの恥ずかしいソレを蒸発させてやった。
インナーが若干焦げたけど、まぁ漏らしたことがバレるよりかはいいだろ。多分バレてないっぽいし。
「勝者、クロエ・テイラー・テンペスト」
「どーも」
で、気絶したヴィオレッタを他所にアレキサンダー先生は俺を勝者としてジャッジしたようだった。
……コレ、どうすんの?と言った目線を送ったら『貴様でどうにかしろ』って目線が突き刺さった。
ので、俺は無言でヴィオレッタを担いでから見取り図を基に保健室まで歩き出すことにした。
「お嬢様、お供します」
「お、サンキューサンドラ」
サンドラは特に何をするわけでもないが、俺の隣にてくてくと歩いて来てくれた。
一人じゃちょっと心細かったので、サンドラがいてくれると助かるな。
で、ヴィオレッタの取り巻きの方の貴族は特について来ることもないので、まぁいいかと思って俺は足を止めずに歩きだした。
……この後、何をするのかはカレンに聞いておかないとなぁ。
そう思いながら、俺は保健室と札の書かれた部屋の前についたので、サンドラにヴィオレッタを一度預ける。
「もしもーし」
扉を三回ほどノックして叩き、『どうぞ』と答えが返って来たところで扉をガチャッと開ける。
するとそこにはベッドやら救急箱やら氷嚢がしまってあるであろう箱やら薬品を詰めた棚と懐かしき保健室グッズがあった。
そして、保険医と思われるであろう女の先生が丸い椅子に座りながらこちらを振り向いていた。
白衣を身に着け、赤ぶちのメガネをかけてロングな金髪にして青い瞳の美人な人だった。
「失礼します。新しく入学した1年生のクロエ・テイラー・テンペストです」
「ここに人が来るのはよくあることだけど、まさか入学早々気絶した子を抱えて来る1年生がいるとはねぇ」
「はは、よくあることかと思ってました」
クラス代表を決めるのにこんな決闘をするなんて思いもしなかったっての。
と言っても、貴族は勝負が好きだからこうして決闘とかがあるのなら俺と似たような事する奴もいていいはずなんだが。
流石に1年生で入学早々に誰かを気絶させるなんて言うことはまだないのか。増えろよ、俺が目立つから。
「にしてもまぁ、テイラー・テンペストの子かぁ」
「ん?もしかして以前ご迷惑とかおかけした事ありました?」
「いやいやいや、私は平民だしここでも雇われただけの保険医だからねぇ」
こんなザ・貴族って顔立ちなのに元は平民なのか。
と言うか、王族並みの偉い人たちが集まるような名門校なのに平民とか雇えるのか。
それとも、この先生が肩書を気にしないほどの凄い腕の人なのか。
「ま、こんな立ち話でもしてちゃあその子に悪いし、早くベッドに寝かせてあげ給え」
「はいはいっと」
俺は気絶しっぱなしのヴィオレッタをベッドに寝かせ、手を軽く払う。
にしても……黙って気絶してる姿を見ると、割と美人だな。ヴィオレッタの奴。
一回腹割って話してみれば、なんかしら分かり合えるかもなぁ。
なんて思いながら、心の中で軽く『ごめん』と謝ってから手を合わせる。
「なんだい、突然手なんて合わせて」
「いや、まぁ……コイツにはムカついたけど、やりすぎたなって思ったので。俺なりに謝ってます」
「そういうのは、ちゃんとお茶会とかに招待して誠意を示さないとね」
「お茶会……かぁ」
俺はサンドラの方を振り返り、スッとまた手を合わせてみる。
サンドラは一瞬驚いた表情こそしたが、『仕方ないですねお嬢様は』と言った目で頷く。
うん、目配せしただけで頷いてくれるなんて実に素晴らしいメイドじゃないかサンドラくん。
俺はそのサンドラの優秀さに感謝しながら、ヴィオレッタが目覚めるまで待つのだった。
この後の予定はただ過ごす部屋とか施設や設備を案内されるだけだったらしいので、保健室で待っているのも悪くはなかったみたいだ。
……と言っても、ちょっとサボってる気分がして罪悪感的なのは芽生えたけどな。
隔週投稿すら出来ていませんでした。本当にごめんなさい。




