表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習い死霊使いと死んでる勇者  作者: あかしー
第2章
24/28

【幕間】フランドリアの独り言

 私は今、カビ臭いベッドの上でスウェットのパーカーを目深に被り、膝を抱えて座り込んでいる。


 ここから見える景色と言えば、ビールやチューハイの空き缶、雑誌、新聞紙、コンビニ弁当の残骸、脱ぎ散らかした服、二ヶ月くらい使ってない美顔器、化粧品や鏡は辛うじて家具調コタツのテーブル上に散乱しているが、ボールペンや安全ピンや綿棒なんかと混ざり合い、それら全てが埃を被っている。


 見れば見るほど無気力が増幅していく絶望的な光景だ。


 あの日本人の男、今はフラド君と言ったか。


 本当はこんなゴミ溜めのような部屋でもてなすつもりでは無かったんだ。


 もっとちゃんと、荘厳で美しい女神感を出していけば良かった…


 例えば、こんな感じ。


 基礎工事が心配になるような雲の上に建つ白亜の神殿風地上3階地下2階、14sLDKで床面積は最低でも300坪以上は欲しいところだ。きっと各部屋に目に見えないエアコンも完備されているはずで、常に室温が23℃ぐらいにに保たれている。

 間違っても糞など落としてこない、色鮮やかな小鳥が勝手に侵入してきて、頼んでもいない美しいさえずりを無料で聴かせてくれて、なぜか庭ではなく室内に噴水があって、澄み切って清らかで飲みやすい軟水が流れている。


 光源は見当たらないのに部屋は光で満たされていて、恐らく凄い技術の間接照明でライトアップしてるに違いない。


 私は広間の奥、ちょっと小高い段差の上に置いてある、石を掘って磨いた身長より大きな椅子に座って、足を組んで座っている。スリットから覗かせた長い足は白くて艶かしく、俗にまみれた人間の劣情を激しく刺激することだろう。しかしこの椅子は石造りなので、本当は硬くて冷たくて、椅子としてはとても評価できる物ではなく、ずっと座っているとお尻と腰が痛くなってくる。


 そんなテンプレートの女神様で勇者様をお出迎えすれば良かったんだろうか。


 ガッカリしたんだろうな、フラド君。


 それに言うに任せて、あんなキッツい人格否定まで…絶対怒ってたよなぁ。


 ああ、勇者に八つ当たりするなんて。


 私はなんというダメな女神なんだ。


 でもでもだって、仕方ないじゃないか、神殿も小鳥も噴水も大広間も玉座も、どうしても出来なかったんだから。


 今いるこの部屋だって、私の心象風景を可視化したような物だ。全ては私の気持ち一つで何でも顕現させる事ができる。


 だって神様だもん、やる気にさえなれば出来ましたとも。


 それが出来なかった私の心は今、つまりゴミ溜めのようにやさぐれてしまっている。



 人間が、人間が、人間が、どうして、こんな!



 私はフードの上から頭を抱えて掻きむしる。


 私は人にとっての女神、人からの信仰によって存在する事ができる。彼らを守護し、彼らを愛し、彼らを導く。私も人も、それを望み望まれていた。


 ただそれだけで良かったはずなんだ。


 でも人というのは、想像以上に脆弱で臆病な生物だった。


 見た目が違う、言葉が違う、食べる物が違う、頭の良さが違う、そんな取るに足らない理由だけで他者を恐れ、そして攻撃した。


 人間と違って翼があって空を飛べるから?

 人間と違って頭が悪くて大きな体をしてるから?

 人間と違って腐った肉でも平気で食べてしまうから?

 人間と違って目や腕や足や頭の数が違うから?

 人間と違って人に分からない言葉や周波数で会話をするから?


 だから私に、彼らが消えることを願うの?


 彼らを殺すための「勇者」という私の加護を望んだの?


 フラド君を巻き込んでしまったのは、本当に悪いと思っている。


  …とは言え、私は人の神であり、人がいなくては存在できない。彼らが求めるのならば、それに応えてやらなくてはならない。


 それでも勝手な事を言わせてもらえば、フラド君だけは、私のように不自由な生き方をして欲しくなかった。


 これは本当の気持ち。


 身勝手な人間と情けない私自身に対する、ほんのささやかな仕返しだ。


 私を信仰する可愛い可愛い愛し子達は、今頃必死になって転生した勇者を探している事だろう。


 この世界の隅々まで探すと良い、見つけられる物なら。


 私は膝を抱えたまま、カビ臭いベッドに横に転がる。


「ガンドゥン…私はどうしたらいい?」


 私の独り言はゴミ溜めのような部屋では響かずに、言った端から消えて無くなってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] そのガンドゥンちゃんが勇者の魂と混合してセカンドライフしている(´・ω・`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ