墓場の隠れ鬼
夏のホラー三作品をいっぺんに上げようと思ったら眠くて一作品しか上げられなかった。なんでこんなに眠いんだろう?これは二番目の話です。
も~いいか~い?
ま~だだよ~
も~いいか~い?
ま~だだよ~
墓場から子供達の声がする。
えっ?
待って待って‼️
私は足を止める。
今日もブラック(会社)で残業が続いて、帰るのが遅くなってしまった。
腕時計を見る。
12時を過ぎて1時に近い。
駅から5分の私のアパートの隣に大きな寺がある。
そのせいで家賃が安い。
建って間もない新築で2LDKだ。
事故物件を疑ったが、そうではないようだ。
駅の隣にコンビニもあり、商店街も近く、生活の便が良いのだが。
二階の真ん中にある私の部屋に向かう階段から隣の寺が見える。
かなり大きく由緒正しい寺だが灯りはない。
こんな時間だから通夜でもない限り寺に灯りが灯る事もない。
そう、ここが安いのは通夜の時、一晩中鐘を叩く音が聞こえる為だ。
防音がしっかりしているためドアを閉めれば聞こえないのだが。
神経質な人は直ぐに引っ越していく。
夕方の鐘やら除夜の鐘に文句を言うクレーマーが多いのだ。
此処に住んで3年になるが、何人かは直ぐに引っ越して行ったっけ。
私は熟睡するから全く気にならないタイプだから平気なのだが。
ああ……そうか。
もう夏休みに入っている。
小学生が肝試しとか、TouTubeに上げる為の動画を取っているのだろうか?
きっとそうだ。
時代は変わったわね。
私が子供の頃住んでいた家は田舎で、公園とかコンビニも無く。
小学校のグランドで日が暮れるまで【隠れ鬼】や【三角ベース】をしていた。
近頃の子供は親に携帯を持たせて貰っている。
なんて贅沢なのかしら。
家は貧乏だったから、親に携帯を持たせてもらったのは高校になってからだ。
でも、流石に夜中に子供が遊ぶのは危ないわね。
明日、日曜日だし、寺の住職に話して注意してもらおう。
私はアパートのドアを開けて部屋に入った。
シャワーを浴びてベッドに転がり込む。
眠りに落ちる前に
__ も~いいか~い ___
子供の声を聴いたような気がした。
~~~*~~~~*~~~~
「子供が夜中に墓場でかくれんぼをしているんですか?」
寺を掃除していた住職が、困惑した顔で私にそう訪ねた。
「ええ。昨日の夜中にお墓で声が聞こえました。何かあってはいけませんので、戸締りには気を付けて欲しいんです」
「変ですね。寺の門は夕方には閉められますし。あの……つかぬ事を訪ねますが、お子さんはおられますか?」
「子供? いいえ。私は独身です。従姉妹が今年男の子を出産しましたが。県外に住んでいます」
「お子さんはいらっしゃらない?」
「あの……何か?」
「ああ……いえね。昔、隣のアパートが一軒家だった時に住んでいたお子さんが、夜中にかくれんぼの声がすると騒いで熱を出した事がありましてね」
「私そのアパートに住んでいるんですが……その子は亡くなったんですか?」
「いえ、引っ越して元気にしています。その子と私の息子が仲良しなんで、良く知っているんですよ」
「あ~~。良かった。一瞬霊障だとか祟りだとか思っちゃったじゃないですか」
「ははは。この寺やここらの土地にそんな話は聞きませんね」
「そうですよね。そんな話聞きませんよね。じゃ、夜中にお墓で遊んでいる子供を見つけたら注意して下さいね」
私は住職に頭を下げて寺を出た。
「あなたまたなの?」
住職の妻が声を掛けた。
「ああ。まただ。夜中にお墓でかくれんぼをしている声を聴いたって。お子さんはいないみたいだが……」
「あれのせいかしら?」
この寺の隅に小さなしめ縄をした岩がある。
苔むしているが微かに読めるその文字には【隠れ鬼】と書かれている。
全く言われは伝わっていないし。
三代前からこの寺に住んでいるが、霊障も異変もない。
ただ近所に住む7歳の子供が「かくれんぼの声がする」と言い出して熱を出すのだ。
だが大人にはその声を聴いたものはいなかった。
「まあ。害は無いだろう」
「そうね。でも彼女顔色が悪いみたいだったけど大丈夫かしら?」
「社畜という奴だな。随分とこき使われているみたいだが。体を壊さなければいいが」
二人は若い娘の姿を心配そうに見送った。
~~~*~~~~*~~~~
商店街で買い物を済ませ、アパートに帰ろうとした帰り道。
___ も~いいか~い ___
子供の声がした。
女の子の声だ。
___ ま~だだよ~ ___
何処からか返事が返る。
男の子の声だ。
___ も~いいか~い ___
___ も~いいよ~ ___
あら今度は返事が返ってきた。
パタパタパタパタ
着物を着て狐のお面を付けた女の子がひょっこり現れた。
?
浴衣ではなく、七五三に着る豪華な着物だ。
___ み~つけた~~ ___
女の子は私の手を掴む。
「あらあら。私は隠れ鬼をしていないわよ」
私は優しく微笑むと少女の頭を撫でた。
この子達が墓場で隠れ鬼をしていたんだろうか?
少女が被っている狐のお面の耳がピクリと動いた。
‼
違う……狐のお面じゃない‼
この子は狐の顔をしているのだ‼
___ おや知らないのかい? ___
私は振り返り白い着物を着た少年を見る。
___ 昔はここらでは鬼神に若い娘を生贄に捧げていたんだよ ___
その少年の髪は銀髪で、額には二本の角が生えていた。
___ 昔はちゃんと生贄を捧げてくれていたが、今では自分で生贄を調達しないといけないなんて。神が堕ちると惨めなものだな ___
少年はいや、鬼神は肩をすくめた。
べきべきと少年の腕が膨れ上がり、鬼の腕になる。
私は悲鳴をあげて少女を振り払おうとしたが、狐の少女を振り払う事が出来ない。
「なんで……なんで……私なの……? 私が何をしたと言うの……」
___ 本当は7歳になる子供が、私の生贄として捧げられるんだ。捧げられた子供は私の眷属と入れ替わって人間として暮らしている。たまに私に生贄を捧げてくれるんだが。すっかり自分が人間だと思い込んで、使命を忘れてしまうんだ。 ___
困ったものだよと笑う。
「さ……騒ぎになるわよ‼ 人が居なくなるんだから‼」
私は金切り声を上げる。
「大丈夫。その体はその子が使うから。魂だけ貰うね」
鬼は無邪気に笑うと、私の頭を握り潰した。
~~~*~~~~*~~~~
「おはようございます」
若い女が住職に挨拶をする。
住職は道を掃いていた手を止める。
「おはようございます。おやこんな時間にお参りですか?」
「はい。ブラック企業を辞めて、商店街のお菓子屋さんで働くことにしたんです」
「それは良かったですね。あの時と比べて随分顔色が良い」
「社畜は辞めました」
娘は清々しい笑顔で答える。
若い娘は手を振って商店街の方に歩いて行った。
ふと住職は視線を感じて振り返るが、そこには苔むした岩があるだけだ。
住職には見えない。
岩の上に座っている、鬼神が。
鬼神が若い娘の肉を食らっているその姿が。
___ 完 ___
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2021/7/8 『小説家になろう』 どんC
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眠い眠い眠い。