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天降る光の渦に  作者: 紫子
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「《ポータラカ号》は、最後の移民船である」

 セントラル・ステーションの所長は、無機質なスクリーンの中から、唐突に若者たちに告げた。それが、ネブラ・マクラ・アカデミーの設立を祝う言葉となった。

「諸君は、歴史を背負いこれからを生きる新世代となる。犠牲となった諸国を弔い、残される人々の英雄となるべき……」

 銀河系には、約五十ほどの安全圏にコロニーが点在している。二一〇〇年代になって、科学者たちの提言を受けた各国の首脳は、人類の未来を切り拓くため、連邦の名のもとに手を携えた。そして開発と移民の歴史は、偶然にも、宇宙を翔ける小さな星がもたらした災害によって幕を開ける。――否、それは仕組まれた運命だったというのだ。連邦政府に反発する国家に対して、話し合いの手間も暇も割くのが惜しいほど、その頃にはもう、瑠璃色の星は病んでいたのだった。

 コロニー建設の安全圏強奪を目的とした、小国家によるテロが多発。第四次大戦も不可避と見られた矢先、突如として小惑星の衝突に見舞われたことは、幸運とも悲劇とも語られる。非連邦地域を中心とする大陸の部分消失、そして海水の蒸発とを引き換えに、歯車は回り始めたのだった。

「小惑星の軌道は、当初問題ないはずだった。それを、計画的に変更した。全て、現在に至るまで、この時から、歴史は仕組まれたものとなった。その全てを知るのは、我々、セントラル・ステーションの科学者、連邦政府、そしてその未来を担う第一世代に選ばれた諸君だけである」

 透明のシールドを隔てて、隣席の、十三、四歳ほどに見える少女が、静かに涙していた。後方から、声をあげて泣く声が響いていた。

 五次に及ぶ難関のテストを突破し、入門した試験的なプログラムは、星間パイロットと科学者を育成するものだった。皆それぞれ、新しい安全圏を開拓するための片道切符かもしれないことを知って、自発的な捨身ともいうべき志を持っていた。夢とロマンに生きる者、天涯孤独の者……。彼らの持つ背景は様々で、それゆえに、互いに語り合うことも少なかったが。それでも、行われたのは最後の移民として受け入れるべき命の選別だったのだと、そう告げられた衝撃は、とても言葉に言い尽くせるものではなかった。

(《ポータラカ号》か、……。補陀落、伝説の浄土)

 海水と共に蒸発した、元非連邦地域からの亡命の民を先祖に持つタユタの一族にとって、宇宙への一歩は悲願だ。たとえそれが、再び還らぬ旅路であったとしても。母親は泣くだろうが、そうでなければ拭えない、見えない鎖がある。彼らはかつてのテロリストだと、敵国の民だったのだと。偏見を一切斬り払うため、誰かが空に昇らねばならない。《ポータラカ号》という名を、タユタは、自分にはこれほどうってつけのものはないだろうと思った。

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