始まり 愛香
ホラーサスペンスです。3部構成です。
タキシス
始まり
鉄筋の校舎にいつも以上に日差しが反射しているような気がする。滝川にとって、この村で過ごす二度目の夏がやってきた。新任として採用され、山間部の宮木中学の教師となった。担当教科は理科。大学に入った当初はサッカーに明け暮れていた。膝さえ痛めなければと今でも悔いは残っている。しかし、部活をやめてからは研究にも真面目に取り組んだのが、今につながっていると思えばしかたはない。大学に残る手もあったが、選手としては無理でも好きなサッカーの部活指導もできるし、教師も自分の性に合っていると感じることも多くなってきていた。
「先生。ちょっと来てもらいたいんですが。」
役場から声がかかったのは、夏休み中、8月1日のことだった。世間はどう思っているかわからないが教師にとって夏休みはロングバケーションではない。研修、部活の大会。でもまとまった休みがお盆の4~5日間ぐらいは、確かに部活が弱いから早めに休みが取れるのであまり自慢はできないが、それでもそれなりに忙しい。役場の田中が間に立ち、ダム管理センターの上村を紹介した。
「田中さん。一応勤務中なのですが。」
滝川がそう言うと、測ったかのタイミングで田中の背後から墨田教頭が顔を出し、
「今日は日直でもないし、地域に貢献してこい。」
どうやら、校長の許可は出ているらしい。
今年の渇水は例年以上にひどく、ダム湖の水は満水時のおよそ100分の1以下になっていた。湖底の家屋はその姿を現し、ダム湖に流れ込む水脈は朽ちた村落の中心に流れる小川になっている。先週の日曜日は、そんなダム湖の様子を見学しようという物好きな人たちやかってその湖底にあった集落にゆかりの方もきて交通量が増えていた。冬のスキーシーズンならともかく、この村に来てから初めて見る真夏の渋滞だった。道路脇に立って、ダム湖に向かって手をあわせていた老人はこの村落の出身者かもしれない。そんなことを考えている内に、ジープの頭が下がった。ダム湖の底に向かう昔の作業用道路に入る。振動で体が揺れる。
「そこです。」
車から降りると上村が指さした。指された先は小さな池程度になっているダム湖だ。一般客のいる場所からは対岸で視覚になっている。午前中、上村がダムの点検に入ろうとしたが、観光客が多かったので、反対側に回り、ダム湖周辺をチェックしに来たところ、それを見つけたという。役場の環境課連絡したが、環境課勤務の田中自身には生物や環境に関して、特別な知識もない。滝川のことを思い出し、学校に依頼しにきたということだ。
小さな池程度の中央一角の水が盛り上がっていた。どす黒い固まりが水しぶきをあげている。水面を持ち上げるかのように水しぶきを上げている黒い固まりの正体は生き物だった。魚類、水生生物、昆虫、ひょっとすれば微生物までもが同じ方向に進もうとしていた。その先は分厚いコンクリート壁である。異様なのは、そこに向かう生き物たちである。自分の前にいる生き物に喰らいついている。前のいる魚の体に食い込む水生生物、前の魚に食らい付く魚、小学校のころ、薄暗い図書室でみた本の挿絵にあった悪魔たちの姿がそこに重なった。何かから逃げているのか。生き物たちが逃げるのと正反対の方向には美しい山並み、雪のない真夏のスキー場、そこにあるリフト、そして太陽を背にした黒い鉄塔しかない。生き物たちをそのような状態に追い込んでいるものの姿はそこには見えなかった。でも、何かいつもと違う感じがする。そこで、初めて宏は気づいた聞こえてくる音の違いに、水音はするが蝉の声が、山の生き物の息吹が聞こえない。辺りを、無機質な静寂が包んでいた。目をそらすと青い空に高圧電線の鉄塔がやけにくっきりと陰を落としていた。
前兆
グラウンドで砂埃がまっている。運動部のほとんどは対外試合にでている。夏休みといえど、中学校の日中のグラウンドがこんな静けさに包まれているのは、数日あるかないかだ。校門を母親と生徒が肩を寄せ合うように出て行く。さっきまで、面談していた親子である。個人プロフィール帳に目を落としながら、清水瑞穂は問題の深さを感じていた。不登校にはいろいろなパターンがある。怠学や反社会的な所謂非行傾向の不登校から、心的ストレスによる不登校、ひどいものになれば精神科の治療を要するものまで様々である。今回のケースは後者の心的ストレスに分類できるが、原因が複雑に絡まっており、複合型だと考えられる。特に、生徒のエネルギーが枯渇しているのが問題である。生きる力が湧いてこない。深刻化すればリストカットなどにつながりかねない。家族の協力が必要だが、清水にはあの子の父親の姿がどうしてもイメージできなかった。まだ、学校に足を運べるだけ、今のところは救いがあるが、それもいつまで続くか。
学校カウンセラーとして、複数校にまたがって、勤務しているが、不登校の生徒はなかなか減少することはない。学校にもよるが、担任教師が清水に任せっきりのところもある。勤務し始めた当初は、あなた担任でしょと何度言いたくなったか分からないが、非行傾向の生徒への対応、授業、部活等、教師がじっくりと一人の生徒にかかわる時間がないのがだんだん分かってきた。カウンセリング、教育相談は、片手間にできる仕事ではない。
清水は、K校の個人プロフィールを見ながら、数日前の出来事のことを考えていた。
「先生。昭さんがみんなに。」
扉が突然開き、保健委員会で隣接する相談室の整備を気軽に手伝ってくれる瀬山さんの叫び声が響いた。相談室からほんの少し離れた廊下の突き当たりに十数人の生徒の固まりがあった。その固まりの隙間から杉山昭の顔が一瞬見えた。その光景は、集団による一人の生徒への暴行である。しかし、瑞穂は、見た瞬間、違和感を覚えた。確かに杉山は蹴られているのだが、その後列の生徒は前列の生徒の足を背中を蹴ったりなぐったりしている。その後列の生徒はその前列の生徒に同様のことをしている。制服の背に見る間に白く靴の蹟が残されていく。しかし、前列の生徒は決して後ろを振り向かないのだ。
「やめなさい。」
瑞穂の声が聞こえた途端、生徒の動きが止まった。そして、何もなかったかのごとく、彼らは瑞穂の横を通り過ぎた。蹴られていたはずの昭でさえ、とまどいや苦悶の表情を見せずに。
「昭君、何があったの。」
瑞穂の声に昭は何も答えなかった。ただ無表情にこちらを一瞥しただけで階段をあがっていった。職員室で担任にそのことを伝えたが、その結果は瑞穂の耳に入ってこなかった。担任もは「けが人がでなかった。本人の訴えがない」ということは、何もなかったということにしたかったのかもしれない。継続性がないので、いじめとは違うと捉えたかったのかもしれない。ましてや杉山はいじめの被害者に該当するような生徒ではない。生徒指導部の会議でもそのことを話題にしたが、生徒指導主事は「何かのゲームだったんじゃないか」という意見だった。結局、いじめのおそれもあるので今後も杉山を全体で見守っていくということでそれ以上話が深まらなかった。万引き、器物破損、対教師暴力、虐待、性被害、生徒指導部が早急に対応しなければならないことが多すぎる。
しかし、瑞穂はあの感情の表出しない暴力が理解しがたかった。集団意識による暴力とは異質の光景だった。最近の生徒は確かに集団で暴力事件を起こす。あるベテランの先生の言葉だが、昔と違いは、今の一人一人は普通のよい子だということだ。昔の非行少年は、一人でも非行少年であった。でも、今は一人にするとすぐに謝る。考えがないというのか。そういう子が多いそうだ。のりでやってしまう。やらないといけない。自我が未熟な子供が増えている。確かにそうなのだが、あの光景はそれとは何か違っていた。
愛香
「先生。入ってもいいですか。」
ドアの向こう側の声に、個人プロフィール帳を机にしまいながら、瑞穂は答えた。
「あっ。瀬山さんね。美術部もう終わったの。どうぞ。」
瀬山愛香は、一目見ただけでは分かり難い今風の女生徒の中ですっと目に飛び込んでくる。特別美人という感じではない、かわいらしい子であることは確かだが、髪型にしても制服の着方にしても他の生徒と変わらない。その印象の強さは瀬山の瞳からくるものだと瑞穂は思っている。不登校の子供や心に痛みをもつ子は、やはり瞳に力がない。先人が言った「目は心の窓」は今の時代でも生きている。
「何か。相談。」
「いえ、別に。先生の趣味の話、聞きたくて。」
「あっ。あの話。写真に興味あるんだ。」
「今、美術部だけど。将来フォトグラファーとか。商業デザインしてみたいんです。だから、写真にも興味あって。」
「最初に自分で写真とったのは話したかなあ。お父さんが写真趣味で、学校無理矢理休まされて流星群を見にいったのが、はじめて、シャッターを開きっぱなしにして、なんか。写真のイメージが変わった瞬間だったなあ。」
「先生は、その後、どんな写真撮られたんですか。」
「いろいろ、風景でしょ。人物でしょ。ビルの影なんてのも撮ったなあ。」
「ビルの影。」
「同じビルでも影が入るとイメージが変わるの。朝日の影と日中の影、夕方の影も違うし、夜の影もあるんだよ。」
「みせてください。一度」
「ちょっとまって、えーと。はい。これ。」
瑞穂は、ちょっとおしゃれな和紙の表紙がついた小冊子を取り出した。
「かわいい。」
「先生作のミニ写真集。なかなかでしょ。」
スマホに入れていてもいいのだけれど、やっぱり最後はアナログだなと瑞穂は思っている。1頁1頁こっちが恥ずかしくなるぐらい見つめていた愛香は、しばらくして、ちょっといたずらっぽく言った。
「先生、サッカーも撮るんですね。素敵な写真。」
瑞穂の頭の中を、夏の日差しと背番号9がふっと駆け抜けた。
ページをめくっていた愛香の手がふいに止まった。暫く1枚の写真を見つめた後、囁くように話し始めた。
「先生。実は私、もう一つ先生にお話したいことがあるんです。笑わないでください。」
「えっ。」
瑞穂の返事は、ちょっと大きめになってしまった。
「私、見えるんです。」
「何が。」
何かがカチッと動いた。
「霊とか。」
「霊とか。」
「変なものが。」
「変なもの。」
「何か、分からないんですけど。」
「見えること、どう思うの。」
「何も思いません。」
「怖くないの。」
「怖くないんです。」
「怖くないんだ。」
不安はそこでは無いらしい。
「それが、見えなくなってきたんです。」
急にそんな話を聞かされて少しとまどったものの、少女期によくある幻想だと瑞穂は思った。自分もそんな世界に惹かれる年齢を経験してきたし、今も興味がないわけではない。
「見えなくなってきたの。」
愛香の瞳は不思議な光彩を放つ。
「私も大人になってきたからかなと思ったんですが、違う。違うんです。見えなくなってきたのではなく。いなくなってきたんです。私たちの周りに。」
「もう少し、詳しく話せる?」
愛香が初めてそれらしきものをみたのは、小学校の1年生の頃だったそうだ。お菓子屋さんの横の辻、狭い路地から真っ白い犬が顔を突き出していた。犬は、向こうを向いている顔は見えない。お菓子屋に入ろうとした瞬間、その犬がこちらを見て笑った。そして、体を真上に反転させた。長く白い尾がその後を追った。こわごわ覗いた路地の奥の奥に小さな鳥居と小さな御稲荷さんがあった。その後の話は、よくある怖い話なのだが、一つだけ違うのは愛香はそれを怖がらせようとか、怖がって話しているのでないということである。
「あのとき、あの子たちの周りに、誰も何もいなかったんです。」
「杉山君のときのこと言ってるの。」
「はい。自分でコントロールして、見えないようにもできるんです。でも、感情の高ぶっている人やそれそのものに力がある場合は、普通何らかの形や光が見えるんです。でも、あのときは誰の周りにもそれが見えなかったのです。」
愛香に言わせれば、どの人にも何かその周りにいるらしい。全てが形になっているわけではなく。ぼーとしたもやのようなものもあれば、薄い光のようなものあるらしい。
「私の周りには、どんなものがあるの。」
「先生の後ろには、先生によく似た若い女性がほほえんでいます。」
瑞穂は、なぜか自分の瞳の下が潤むのを感じた。
「私は、話をしたり、言葉を聞いたりはできないのです。だけど、半年くらい前、私の前に立ったそれがまるで画面が消えるみたいにすっと消えていくのとき、とても悲しそうな淋しそうな思いを感じたんです。」
「瀬山さんは、杉山さんのあのことが、その霊に関連していると思うの。」
「分からないんです。ただ、不安で。」
「分かったわ。先生もあのことは気になっているから先生なりに調べてみるね。」
愛香を送り出した後、瑞穂はしばらく動くことができなかった。愛香を荒唐無稽なことを妄想する、あるいは幻覚を見がちな状態にある見なすのは簡単である。しかし、あのときの無表情な暴力は、今まで学んできた心理学の分野とは異質な感じがする。何か無機質な感じがした。窓の向こうでは、ひまわりが空を目指して伸びようとしていた。
ニュース
アナウンサーがいつも以上に力を込めて、ニュースを告げた。十数人の若者が川に転落したというニュースである。目撃者によれば、誰かに追われるように次々と川に転落していったそうだ。さらに、アナウンサーは告げた。誰一人助けを求めなかったと。
雑談
「宏は、電磁波の影響について研究していたんでしょ。よく、聞かされたじゃない。結論の引き出せない研究だって。」
「結論が引き出せないのでなくて、影響を示せない研究だっていうことだよ。研究費は、企業から出ているわけだから、その企業の不利益になるような実験結果は公表できないのは、当然だろう。」
「なんか、矛盾してるなあ。」
「研究費が出されているうちは、関連研究もできるから、全く無駄ではないんだ。ただ、研究の主目的に関しては、結論は導き出してはいけないんだ。電磁波と一口に言ったって、簡単に言えば、自然界にだって存在しているし、人為的に電流をながせば、どこにだって発生するものだから、その影響がこうだとは一口には言い切れない。君のやっているカウンセリングだって、僕から言わせれば、宗教とどう違うのか分からないよ。だいたい、いつも僕にはカウンセリングマインドで接してくれたことないし。」
「当たり前でしょ。恋人間や夫婦間でもカウンセリングマインドは必要だといわれるけど、私はそれが必要な人とはつきあわないし、やっていけないわよ。」
「もう、恋人じゃないのに?」
どこからか聞こえる曲が、少しだけ心にしみた。
「分かったよ。電磁波はさておき、例えばスマホのやり過ぎで生徒がおかしくなって、感情が欠落するような可能性があるか知りたいということか。最近の変なニュースも気になると言うんだな。明日、教授に会ってくるよ。それはそれとして、もうホテルに戻るけど、飯でも食いにいかないか。」
滝川は、「我ながら、矢継ぎ早に言葉をつないでいるなあ」と思う。せっかく大学時代を過ごした町に帰ってきて、昔の彼女との単なる雑談のつもりが相談というか依頼を受ける羽目になるとは思わなかった。カフェの外に出ると、ぬれたアスファルトが様々な光を複雑に反射させ、都会の光彩を形つくっている。食事を軽く断った瑞穂の横顔を見ながら、滝川はなつかしさと少しだけの歯がゆさを感じていた。
研究室
雑然と積み重なった用途の分からない機器、箱、書類。そこに機能美を見いだせるのは研究に携わったことのある者だけの特権かもしれない。
「おう。不心得者。」
相変わらずのぶっきらぼうな声が響いた。
「先生。お元気そうで。」
「おっ。少しは、あいさつできるようになったじゃないか。でも、大学が恋しくなったか。」
「いいえ、そういうわけではなくて、今日はお聞きしたいことがあって、おじゃましました。」
「お伺いしたいこと。」
「ありがとうございます。でも、敬語の問題でなく。」
宏は、瑞穂の話について、林谷教授に手短に話し質問を投げかけた。
「スマホと脳波に何らかの関連があるかもしれないが、その可能性は、数値で表せないほど低い。そこに関わるfactorが数値化できるかが問題で、できなければ問題外。」
何を馬鹿なこととしかられるだろうと予想していた宏にとって、思いがけない教授の回答であった。この言い回しは、可能性があるということだ。
「しかし、要因といっても、その女性のいうような人間の意識をどうにかするのは、人為的な心理的要因、例えば、効果はこれまた定かではないがサブリミナルや催眠術といったたぐいのもの、それこそ、彼女の方が専門じゃないのかな。最近の事件については、報道程度で資料が足りない。質問先は、その彼女の先生の心理学者か、あるいは犯罪の専門家にでも当たるべきでないのか。」
「ぼくもそう思います。それに首をつっこむほど暇でないし、もう3日もしたら休みも終わりです。ただ、一つ引っかかっていることがあって、先生に会って聞いておきたかっただけです。先生の手伝いをさせていただいた研究の最終結果をお聞きしたくて。」
「人体にあたえる電磁波の影響の結果か。」
「はい。」
「結果は、人体に及ぼす影響は軽微なもので、傷害等を引き起こすおそれはきわめて低い数値にある。」
「それは、知っています。いつもの報告書の最終の一文ですから、私が聞きたかったのは、電磁波が脳内パルスに影響して、ベクトルを形成するか否かという点です。」
「結果は、君の出したデーター通り、軽微な…」
「2、3年前のスマホの発生させる電磁波と高速通信が可能となった今の通信ではどの程度電磁波の発生量が異なるんですか。その影響は。」
「傷害を引き起こすおそれはきわめて低い。」
自分は何をむきになっているんだろう。刑事でも医者でもない。単なる教員だ。週末には部活も始まる。もう帰ろうと思ったとき、小谷教授が続けた。
「スマホの電磁波だけなら。」
「え。」
「高速通信を支えているのは。」
「周期の長い電波です。」
「電波の特徴は」
「周期律が一定になっていること。周波数300万MHz以下の電磁波が電波」
「それに脳内パルスが同調したら、どうなる。」
「電波の周期律がパルスの周期律に影響を及ぼす可能性がわずかだがあります。」
「可能性は公表できない。報道を支えるのは数値ではない。もちろん、企業の不利益でもなく、一般大衆の好奇とマスコミ受けする自称専門家の曖昧なコメントだけだからな。全国民が似非探偵だよ。」
自嘲きみに笑う教授の顔をみながら、宏は自分のなすべきことを探った。
「影響を受けない方法は。」
「山奥にでも住むことかな。」
通信のエリアはどんどん広がりをみせている。自分の住んでいるところでも、スマホ用のアンテナ携帯電話基地局がスキー場近くに。そうだ。あの日、あのアンテナは完成していた。もし試験的に電波が流されていたとしたら。
不安
漠然とした不安がある。カウンセラーをしていると引き込まれそうになることがある。拒食症の少女がいた。食べることを拒んだ腕は、もう骨格標本に近い。でも、素敵に笑う。挨拶もできる。「普通の子なのに」と思うと「なぜ」が大きい。原因を求めても本当なのか。
「少しふっくらしたんですよ。」
傍らで話す母親の声を聞くのを辛く感じてしまう。向いてないのかも知れない。
瑞穂は、ふと愛香のことを思った。彼女がうそを言っているとは思えない。幻覚や幻聴は統合失調症の特徴の1つである。思春期に起こりやすい。でも、その原因はさだかではない。でも、愛香が精神的に壊れかけているとは、とても思えない。
それに愛香の言ってくれた私の横にいる女性に瑞穂は、心当たりがあった。遠くで雷の音が聞こえるような気がした。
かなり前から、書き始めていて、通信が思ったより早く進歩してしまっています。通信会社には、嫌われるかも知れませんが、あくまでfictionです。