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5 ゆたかとくららちゃん


 学校からの帰り道。

 ゆたかと別れた後、くららちゃんにばったりと出くわした。

 私はあえて無言で、少し離れた位置からにこやかに手を振ってみた。

 くららちゃんはというと、一度足を止めると、湿っぽい目で私をひと睨みしてから再び歩き始めた。


 か、悲しくなんてないもん! 全然、これっぽっちも!


 私を気にも留めずにスタスタと歩いて行く彼女の背中を追いかけ、後ろから声をかける。


「くららちゃん、学校はどうだった?」


 すると、くららちゃんは一瞬私を振り返り、そして歩くスピードを速めた。


「あっ、く、くららちゃんは歩くのが速いんだね、すごいね!」


 私も負けじと追いかける。

 なんか私、はたから見たら中学生をつけ回す変質者みたいじゃない? 大丈夫?


 私、この子のお姉ちゃんですから! 変質者じゃないですから!

 

 不意にくららちゃんが足を止めた。

 すぐに彼女に追いついて、横から顔を覗き込む。


「どうしたの? 気分悪い? はッ、まさか足をくじいたの? よし、病院に行こう、おんぶするよ!」


 私がまくし立てると、くららちゃんは斜め下に視線を落とした。

 

「うるさい」

「そんな……昨日はあんなに仲よかったのに、一緒に寝たのにい……」

「はあ?」

「……くららちゃんの制服とだけど」


 ボソリとこぼすと、くららちゃんは「ううっ」と声を漏らし、気まずそうに顔を背けた。


「か、関係ないし」

「えー、くららちゃんが頼んできたのに。意味がわからなくてもお願いを聞く、素敵なお姉ちゃんです」

「自分で言わないで」

「もー、くららちゃんはアレなの? ツンデレさんなの?」

「うるさい。あとウザい」


 そう言って、くららちゃんはまた私を置いてスタスタと歩き出してしまった。


 あ、そうだった、ウザキャラは没にするんだった。気をつけよう。

 

 小走りでくららちゃんを追いかけようとした。その時、

 

「くーらーらー」


 という声と共に、先程別れたはずのゆたかが私の横を全速力で走り過ぎて行った。

 ゆたかはすぐにくららちゃんに追いつき、彼女の前に飛び出た。


「……ちゃん!」


 ゆたかは両手を大きく広げ、通せんぼをした。

 くららちゃんが足を止め、突然のことに狼狽する。


「はじめまして、ゆたかです!」

「は、はじめまして」

「くるるの親友です、幼なじみです」

「くるる?」

「あなたのお姉さんをそう呼んでます」

「そ、そうなんですか……」


 動揺を隠せない様子のくららちゃんを、ゆたかがジロジロと舐め回すように観察し始めた。

 すると突然、くららちゃんの両肩に手を乗せた。にこやかな、それでいて威圧的なスマイルを浮かべて。

 

「どうしてくるるの制服着てるの?」

「えっ……」


 どうして一瞬でわかったの? そのことはゆたかに話してなかったよね?


 くららちゃんが困惑の表情で、私を振り返った。

 すぐにゆたかに向き直り、そっとゆたかの両手を掴んで下ろした。


「おさがりだからです」

「ふーん……ちょー羨ましいんだけど」

「仕方ないじゃないですか」


 くららちゃんの口調が一転して、得意げに言い返した。


 な、なんだか会話がおかしな雰囲気になってきたぞ。

 険悪か? 険悪なのか?


「で、くるるの制服、どんな感じなの?」

「姉さんに包まれてるって感じがします」


 くららちゃんが澄ました声で言う。いや、どんな感想だよ。

 その瞬間、ゆたかは膝を折り、地面に両手をついた。


「昨日は一晩中姉さんのそばに置いてもらいましたし」

「羨ましすぎて吐きそう……」


 四つん這いのまま、本当に吐きそうなくぐもった声でゆたかが言う。

 申し訳ない、どうやら私の頭ではこの子たちの会話についていけないようだ。

 

 頭を垂れていたのも束の間、ゆたかがすっくと立ち上がり、腰に手を当てて胸を張る。

 切り替えが早いこと。


「ま、私はいつもくるるとぎゅーってしてるもんね! くるる自身に包んでもらってるもんね! いいでしょ! くるるのおっぱいはちょー柔らかいんだぞ! 顔を埋れさせると幸せなんだぞ!」

「むっ……私昨日、姉さんのベッドで寝ました。頭も撫でてもらって、いつでもおいでって言ってもらいました」


 ゆたかが私に不服そうな視線を寄越す。

 な、なんだかわからないけど、ごめんよゆたか。あともう少し発言を慎みたまえ。


「……ま、私はくるるのパ・ン・ツ! 持ってるけどね! 羨ましかろう!」


 おいおいおいおい、なんの話だ! 仮に本当のことだとしてもお外で堂々と言うんじゃないよ!

 ……え、冗談だよね、ゆたかさん?


「べ、別に、私は同じ家に住んでますし。下着だけじゃなくて他にもぜーんぶ揃ってますし」

「なッ……ひ、卑怯なんだけど、それは反則なんだけど!」

「ふふん、妹の特権ですけど」

「“けど”はゆたかのなんですけど!」


 私を置いてふたりだけで仲良くならないでよう……。疎外感、悲しい、悲しいよ。


 なんてことを思っていると、今度はふたりでヒソヒソと内緒話を始めてしまった。

 

 なんかよく分からないけど打ち解けて楽しそうだなあ。

 くららちゃんも心なしかいきいきしている気がする。

 ゆたかの方が先に仲良くなるなんて……ここ数日の私の頑張りって一体……。


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