性別逆転転生令嬢と性別逆転転生魔法使いの冒険者への道
ミュゼリット王国の転生者シリーズ
バラもユリも出ません。
目を開けると赤ん坊になっていた。
あれ?確か俺は…悪友等と徹夜マージャンして、飲み過ぎてフラッフラしながら階段降りようとした所までは覚えているけど…まさか、転げ落ちて死んだのか?そんで俺は生まれ変わって赤ん坊になったって事なのか⁉つか、前世の記憶残っているんですけど⁉良いの⁉おい!神様~‼
うーん…神から返答が無いのでこのまま生きていくしかない。それよりもスゲー豪華な家だな。中世ヨーロッパ風って感じの家具が並んでるぞ?金持ちなのかな?ラッキー!遊んで暮らせるかも。今俺を抱っこしているのは母親かな?美人だ!そして上品だ!う~ん、いい匂い。
「サシェリー!ただいま!僕の天使に会いに帰って来たよ!」
えーーーーーっと?コスプレですか?お貴族様風の人が入って来たぞ。コイツが父親?イケメンだけどコスプレは止めて欲しいな~って言うより…ガイコクノカタデスカ?
「ゲードリック様。お帰りなさいませ」
「サシェリー寝てなくては駄目だよ。産後間もないんだからね?」
ガイコクノカタデシタ。よく見れば母親も日本人じゃねーわ!イコール俺もガイコクノカタだな。父母揃って美形って事は俺もイケメンになれるって事だよな!金持ちでイケメンとか~モテ要素半端ねーわ。楽勝だな今世!
「さあ、パパに顔をじっくり見せておくれ。僕の可愛いお姫様」
おーい、ちょっと待て!聞き違いか?姫って聞こえたが…?
「ゲードリック様ったら初めて生まれた娘だからって甘やかしたら駄目よ?」
「無理だよ~こんなに可愛い娘デロッデロに甘やかすさ」
なんてこった!聞き違いじゃ無かった…俺、女の子なの?
待て待て待て待て!おい神!今直ぐ俺の…前世の記憶消してくれ~!!!
■
あれから二十年…俺の前世の記憶は消される事も無く今に至る。
俺が生まれた場所はミュゼリット王国の王都シュバン。魔法が使えて、魔物が存在するファンタジーな世界。所謂、異世界転生ってやつ?
俺の名前はシュリーゼ。アティテル侯爵家の長女…深窓の令嬢ですわよ。
……んな訳あるか!
中身、成人男子っすよ?令嬢なんかになれますかいな!五歳で《暴力令嬢》の称号を頂きましたわ、オホホホホ!
だってさ~無駄に美少女に生まれた所為でわらわらと群がってくる男達!ゾッとしたね。思わずグーパンチが炸裂、暴力令嬢降臨だ!
五年前、瘴気が発生して魔物が出始めた頃、待ってましたと言わんばかりに『冒険者になって魔物を倒す!』って家を出たよ。『止めても無駄だ!』って言ったけど誰一人止める奴は居なかった…。『そう言うと思った』って笑顔で見送られたよ。
精神的に男を受け付けられないから恋愛も結婚もとうに諦めてるさ。ユリに走る事も勿論ない。一生気ままな冒険者生活を送ろうって生後十日で決めたんだ。
そして此処は東の森の洞窟。王家からの要請でこの洞窟を住処とする大蛇の魔物の討伐をすることになった。パーティーメンバーは男四人。俺、若い冒険者、騎士、宮廷魔法使いだ。
俺は冒険者になった時、長い髪を切って男装?している。うん、しっくりくる。
「洞窟に入る前に自己紹介でもしましょう」
騎士がニコニコと俺に話し掛けてきた…うぜー。
「僕はケネルと申します。王都第三騎士団の騎士です」
「私は宮廷魔法使いのミューロンです。よろしくお願いいたします」
「俺はBランク冒険者のガイだ。よろしく!」
「俺はAランク冒険者のシュリ、よろしくな」
皆が一斉に『えっ?』って顔で俺を見てきた。気持ちは分かるよ。いくら男装しているからって小柄で顔は美少女だからな。俺は胸に下げているAランクのプレートを取り出して皆に見せた。さあ、驚け!
「キャーッ!」
プレートを見せた瞬間、宮廷魔法使いのミューロンが叫んで倒れた。男がキャーッて…俺より乙女じゃね?そこまで驚くとは思わなかったぞ。
■
俺達は一旦近くの町に泊まる事にした。気を失ったミューロンはケネルが運んでくれた。メンバーの中では小柄な方だが俺よりはデカいからな。
夕方目を覚ましたミューロンが俺の顔を見て怯えている。俺何かしたか?
「シュリさんと二人きりで話をさせてください」
怖がってるくせに二人きりとか、訳分らんわ!二人を追い出しミューロンと顔を突き合わせる。真っ青だな。
「此処での話は誰にも内緒でお願いします」
「おう、いいぞ」
ミューロンは深い溜息を吐いた後、恐る恐るといった感じで俺に問い掛けてきた。
「私の推測が正しければ…貴方は生前の記憶を持つ転生者ですね?」
ギクッ‼あんたエスパーですか?
「お…おう。と言う事は…もしかしてあんたも?」
「ええ、そうです。それから…貴方、女の子でしょう?」
「スゲー!何で分かった?」
「いやいや、何処からどう見ても女の子じゃないですか。プレートの名前もシュリーゼだし、他の皆さんも気付いていますよ」
俺の男装は意味が無かったらしい。プレートには本名しか刻めないんだよ!
「貴女には会いたくなかった…」
「ん?俺の事、知ってる口振りだな?あ~もしかして暴力令嬢の噂聞いた?」
「違います!私は前世で…」
「ん?」
「貴女も分かっていてそんな恰好をしているのでしょう?」
「んーーー?」
コイツの言葉にポカンとして首を傾げる。俺の態度が気に入らなかったのかギッと睨んで言葉を続けた。
「此処が乙女ゲームの世界って事ですよ!」
「………はぁ?」
コイツの話によると…此処は《王宮の薔薇を君に》って言う乙女ゲームの世界らしい。ヒロインはこの俺、シュリーゼ・アティテル。花嫁修業の一貫で王女の侍女になり王子やら騎士やら魔法使いやらと恋に落ちるらしい。知らねーよ。
「そして私は…貴女の幼馴染の侯爵子息で、貴女と婚約した攻略対象を漏れなく暗殺する悪役です」
「えーーと………初対面だよな?」
「ええ!貴女に会わないようにフラグ折りまくったのに!どうして此処に居るんですか⁉」
「えー?俺に言われても」
「そうでしょうとも!これはきっとゲーム補正!どんなにへし折ってもシナリオには逆らえないのよーー!」
おいおい、興奮してオネエ言葉になってんぞ。
「何の問題も無いんじゃねーの?俺、結婚とかする気無いし」
「だーかーらー!ゲーム補正されるんだってば!」
「あのな、さっき言ってた攻略対象?子供の頃に漏れなくブッ飛ばしてるぞ?」
「えっ?」
「俺、前世男だから。男に触られたら条件反射でグーパンチ出るもん」
「おおお男⁉」
「そっ!だから間違っても恋に落ちねーよ」
「じゃあ私…断罪される事無いのね?」
「ああ、安心しろ」
涙を流しながら抱きついて来たミューロンを「よしよし」と宥めて落ち着かせた。この時、俺は気付かなかった…男に抱きつかれてグーパンチが出なかった事に…。
「安心したか?」
「うん。心置きなく討伐出来るわ」
「ぷっ!お前さっきからオネエ言葉連発してるぞ」
「あっ!言い忘れてたけど…私の前世、女の子です!」
「えっ?」
ニッコリ笑うミューロンの顏に何故か心がドキュンとした。
■
夜が明け俺達は大蛇討伐に出発した。歩き出して直ぐ冒険者のガイが肩を組んできた…軽くブッ飛ばした。騎士のケネルは頭ポンポンしてきた…腹パンくらわせた。
「この辺りで休憩を取りましょう」
「もう休憩ですか?ミューロン様」
「弱っちい魔法使い様だな」
二時間後…。
「皆さん魔物です!気を付けてください」
「ミューロンちゃん、前に出たら駄目だよ」
「ミューロン!俺の後ろに居ろ!」
更に二時間後…。
「無事、討伐出来ましたね、良かったです」
「ミューの活躍のお蔭だよ」
「ミューは俺達の勝利の女神だ」
コイツ等の変貌っぷりに驚愕だわ。見た目美少女より可愛い系男子がモテてるよ!お前等二人、キュートな俺にコロッといってたじゃないか!ミューロンお前、魅了の魔法でも掛けたのか?何か気に食わねーな!取り敢えずこの二人殴っとくか。
日が暮れたので一旦宿に泊まる事にした。
「シュリさん、お話しがあります。私の部屋に来てくださいませんか?」
「ミュー!危険だよ、二人きりなんて!」
「この肉食系暴力女に食われちまうぞ!」
「よし!お前等、歯食いしばれ!」
二人を廊下に転がしミューロンの部屋に入る。
「いよいよ明日です。心の準備は出来ましたか?」
「へっ?何の?」
「バカなの?王宮には攻略対象勢揃いよ?」
「大丈夫って言ってんだろう!」
「ゲーム補正が怖いんだってば」
「ゲーム補正が何だってんだ!俺がお前を守ってやるよ!」
「……可愛い顔して、男前。惚れたわ」
「なっ何言ってんだバカ!押し倒すぞ」
「逆じゃね?」
その夜、転生して初めて悶々とした夜を過ごす事となる。
■
「この度の討伐ご苦労であった。今宵は宴の用意がしてある」
国王の計らいで今夜、王宮で慰労会が開催される。パーティーメンバーと攻略対象揃い踏み。俺の運命は如何に……ブッ飛ばすの一択だろ!
「お姉さま~お久しぶりです」
会場に向かっていると妹のエメラルダが駆け寄って来た。俺の妹マジ天使。
「エメラルダ!元気そうだな」
「はい。妄そ…お仕事が楽しいです」
キラキラ笑顔が眩しいぜ!楽しそうでなにより。それよりも…後ろに隠れている連中は何だ?エメラルダに手を出して生きていられると思うなよ!
妹と別れるとミューロンがコソコソと話し掛けてきた。
「ゲームではエメラルダ様は悪役令嬢よ。見た感じ良い子に育ってるみたいね」
「おうよ!兄弟全員でデロッデロに甘やかして育ててやったさ」
「私、ゲームでは彼女の婚約者だったな」
「今直ぐ婚約解消しろ!」
「ゲームでは、って言ってるでしょうが!」
俺はミューロンの腕を取り会場に入った。
国王の労いの言葉を皮切りに宴が始まった。
「ミューロン!ご苦労様。怪我は無いかい?」
「ありがとうございます、ステファン殿下。無傷で帰って来れました」
「ミューロン様、この甘いお菓子お好きでしたよね?」
「ロンダー様、一度にこんなに食べれませんよ」
「ミューロン!後で討伐の報告書を私の部屋まで持って来なさい」
「畏まりましたフェルノーダ様、後でお持ちします」
「ミューロン、この後討伐の話を個人的に聞きたいのだが」
「ドレオン様、時間が有れば是非」
攻略対象がミューロンを取り囲んでいる。子羊を狙う狼の図に見えるのは目の錯覚なんだろうか?何だろうムカつく。蹴散らせたい!
「お久しぶりです、皆様。シュリーゼ・アティテルです」
「「ゲッ!暴力令嬢!!」」
よしよし、一目散に逃げて行った。
「あらまあ…本当にゲーム補正起きないわ」
「だから言っただろう?安心しなって」
「うん。ホッとした」
穏やかに微笑むミューロン。その笑顔を一生守りたいと思った。どうやら俺は諦めていた恋にあっさり落ちたしい。
今日が終われば俺は冒険者に戻り、ミューロンは宮廷魔法使いに戻る。ミューロンの笑顔が何時か誰かに向けられると思うと、嫉妬にも似た感情が俺の心で燻ぶり始める。
「なあ、ミューロン。相談があるんだけど…良いか?」
「どうしたの?神妙な顔して、似合わないわよ?」
「うるせーよ!俺は真剣なんだ」
「分かった。なあに、相談って?」
俺は深呼吸をしてミューロンの手を取る。
「冒険者になって俺とパーティー組んでくれ!」
目を見開くミューロン。だが次の瞬間、破顔して…。
「私で良ければ喜んで!」
乙女ゲームが冒険RPGに変わった瞬間だった。
■
俺達は今、東の森の魔物討伐に来ている。
あの後すぐ宮廷魔法使いから冒険者にジョブチェンジしたミューロンはBランクまで称号を上げた。優秀で頼もしい魔法使いだ。
「シュリさんとミューさんって仲の良い姉妹みたいっすね」
「どちらかと言うと兄妹だろ?シュリさんが兄でミューさんが妹」
ある意味間違いじゃない。だがそこは仲の良い夫婦って言えよ!
コイツ等はパーティーのメンバーでCランク。名前は…覚える気ねーわ!
《サクリファイス・インフェルノ・ジャッジメント》
ミューロンの詠唱魔法で虎の魔物が切り刻まれる。俺は双剣でとどめを刺す。
「ミューさん、容赦無いっすね~」
「ミューさん、麗しい!」
「ありがとう」
「お前等、働けよ!」
風の噂で俺の愚弟が冒険者になったって聞いた。何処かの森でバッタリ会うかもしれないな。俺が男連れだと驚くかな?その時はミューロンにギュッと抱きついて紹介でもするか。俺の嫁(予定)だ!ってな。
野営の火の番をしているミューロンにそっと近付く。俺に気付いたミューロンが隣をポンポンと叩き「座れば?」と誘ってきた。俺は言われるままに隣に座りそのまま寝転んだ。メンバーの二人は既に夢の中だ。
「そんなに無防備だと襲われても文句言えないよ?」
「そのまんま返すわ」
満点の星空の下、俺達はそっとキスをした。
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