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モノクロサーカス団  作者: シエラ・レイ
10/15

混沌

団長室にて。

団長とヴァレッサはテーブルの上にあるプレートを、正確にはプレートに映るルカリアとルークのやりとりを見ていた。

ヴィンとルークにかけられたヴァレッサの能力は問題なく解除され、ルカリアにかけられたルークのメモリー・ファブリケーション(記憶捏造)も解除された。


団長は嫌な予感を覚えながらヴァレッサの様子を伺った。

先程までルークの話をしていたからこそ、団長は退屈だった。

対してヴァレッサは、おでこに両手で手を当てながら頭を抱えていた。

思惑通りいかなかった事がショックで頭を抱えている訳ではない事は決してない。

むしろその逆である。


(……これ、一生聞かされそうなんだけど。)



「団長。」

ヴァレッサは喜びを隠しきれていない声で団長に声をかけた。

対照的に団長はとても面倒くさそうに答える。

「…何よ。」

「あれを見たか?」

「…ずっと私達、見ていたわよね?」

「どちらを?」

「全体見ていたけど…?」

「残念だ…。」

「…はい?」


ヴァレッサは顔を上げ、団長を視界に入れる事なく天井を仰ぎ見ている。

その顔は、蕩けそうなという表現がピタリと合うであろう恍惚な表情をしていた。


(…やばい。)


団長は少し顔を引き攣らせる。

過去に何回かこの顔は見たことあった。

最初にこの顔を見たのは昔、初めてルークが台所で双子に調理の仕方を教えられている時だった。

弟エルフィーによると、ヴァレッサがルークの首をいきなり掴んで襲い、床に叩きつけたと聞いた。

部屋にいた私は、その物音を聞いてすぐにキッチンに向かった。その時、姉の方のミルフィーは顔を隠していた。

なんで顔を隠しているのか気になり、ミルフィーの視線の先であろう場所を見るとヴァレッサはルークの上に座っていた。

ルークの顔に近づき、片手に持っていたナイフを頬に傷つけようとしていた。

ルークは私の存在に気づいた瞬間、なんとかしてくれと叫んでいた。

ヴァレッサは喋るルークの口元をすぐ塞いだ。

当時のミルフィーは、私にこう言った。

嘘も真実も見分けられる彼女は子供らしく、全てを包み隠さず話した。


“なんか…。襲うとか…。体内の全てを自分のものにしたいとか…。私、よくわからないんだけど…?”


ある意味決定的な情報に全てを察する。

それはルークに対しての異常な執着心。

無駄に長年生きして良かったとあの時本当に心から感じた。


そのあとヴァレッサに

「やるならキッチンじゃなくて各個人の部屋を与えているはずだから部屋でやりなさい。だから早く消えて。」

と言ったらルークの首を掴んだまま静かに、静かに動き、そのままルークを連れてキッチンを出て行った。


出て行った時の表情は、これからルークを使って遊べるのが楽しそうな、嬉しそうな顔をしていた。まさに今と同じ様な恍惚な表情を浮かべていた。



「団長、団長。…団長!!」


ヴァレッサに何回も繰り返し呼ばれ、記憶を思い返す途中で我に帰る。

聞きたくない…。めんどくさい…。楽しくない…。

でもこいつとは何百年一緒にいたけれど、ルークを拾ってから一番いい顔して…過去と比べたら落ち着いているんだよ…。


「何…?どうせルークのことでしょう?気持ち悪い話は聞きたくないの。楽しくないし、ヴァレッサ何回も何回も同じこと言うんだもん…。」

「そうか。なら、ルーク本人に聞かせた方が早いな。」

「…え?いや、待ちなさい!!…それはどうして?」

「本人を前にして自身の本当の気持ちを伝えるという事はこの上ない喜びだ。そして何より快楽を得られる…。」

「はい、キモい。やめなさい、こっちだって暇じゃないのよ。何回も何回も魂リセットして復活させるのはとても大変なの。あれこれ余計な真似はしないで頂戴。」

「団長こそ、ルカリアを何回も死に至らしめたではないか。なら、計画して復活をお願いしたらいいんだな。」

「……まぁ、それなら構わないけど。」

「ルークは団員の中でも圧倒的に能力が高いが戦闘能力には欠ける。しかし、ルカリアは戦闘能力だけが圧倒的に高い。」


そう。ヴァレッサの言う通り、ルークはとても頭が良い。ただ勉強が出来る、という意味での頭がいいではない。もちろん勉強もできるが、何より頭の回転が早い。

生前苦労してたのは少し聞いていたけれど、それが役立っているのかモノクロサーカス団の行事の確認もそつがない。大学だって色々と考慮してわざとA棟からB棟に落ちたらしい。

そして何より、何回か私達の大嫌いな警察官がモノクロサーカス団に立ち入った時の事だ。

本来私が出てもいいのに、その場にいたルークが対応したのだ。私が何回か対応した時はあまり効果が無かったが、ルークが対応してからというもの、警官の立ち入りが少なくなってきた。


「それは、間違いないわね。ルークは全体的な能力がとても高い。それこそリーダーにしてもおかしくないほどに…。ねぇ、ヴァレッサ、どうしてルークを副リーダーに留めたのよ。私には能力無効化があるのに、死神の加護を使ってまで私に能力かけて副リーダーにしようとするなんて…。あの時は、貴方の強い意志を感じたわ。だからルカリアをリーダーに、ルークを副リーダーにしたのだけれどね…。それで、みんなの前では“男が連続でリーダーは嫌だ”と言っていたけれど、本当の所は何が理由だったのよ。」

「団長。貴女は大の悪魔族嫌いだ。そして。貴女自身が死神と悪魔族のハーフ。だけど死神族に助けられて生き延びた。だから、生粋の悪魔族であるルカリアを私は抜擢した。」


団長は目を細めた。

確かに団長は大の悪魔族嫌い。

だから、悪魔族がリーダーであれば、嫌悪感からペナルティも大きくなり、また全責任も負わせられる事が自然と多くなるはず。

リーダーというのはチームをいかにまとめられるか。チーム内のルール、モノクロサーカス団のルールを、どう言い聞かせて団員達を規律良く生活させるか。

それは全てリーダーがやるべき立場。


「そういうこと?悪魔族であるルカリアがリーダーなら罰する時に悪魔族だからって全責任をリーダーが負うことになるから?そうすれば私がルークに罰を与えないから?…馬鹿にするな、若造が。」


ヴァレッサは、団長の口調が変わった事で黙ってしまった。

返事しようと団長の顔を見たが、その顔は表で愛想良く、明るく、笑顔豊富に出す団長ではなく私達に見せる“本来の団長の顔”があった。


「ヴァレッサ・エーナス。私の意見を述べようか。私は、ルカリアをリーダーにするつもりはなかった。副リーダーにも任命するつもりはなかった。当時、君の無駄な能力、死神の加護を使ってまでメモリー・ファブリケーション(記憶捏造)をして私に能力をかけようとした。能力無効化があるから何の意味もなかったが…。無駄な足掻きをしてまで私に望みを叶えさせようとした。滑稽滑稽…!」


そして団長は立ち上がり机の横に立て掛けてある杖を取り、ヴァレッサの元へと近づく。

団長は先程取った杖を左手で持ち、右手で真ん中部分を掴み刀のように抜き出した。

団長の杖は仕込み刀だったのだ。

持ち手は黒色の杖のままだが、抜いたところは刄になっており銀色に輝いていた。

ヴァレッサは、この団長の行為がどういう意味か分かっていた。

団長は“不快感”と“怒り”を感じている。


「…何を今更怖がっている?この光景を君は何回も見てきただろう。最初は面白そうに、興味を持っていたではないか?なぁ、ヴァレッサ・エーナス。」


ヴァレッサはまだ黙っている。

何回か確かに見ていたが、あくまでも第三者の立場での事だ。まさか自分が当事者になるとは考えられなかった。

何を間違えたのか、何をそんなに不快に思い怒りを感じたのか、ヴァレッサは考えていたが答えが見つからない。何がいけなかったのか分からない。頭の中は酷く混乱していた。


「ヴァレッサ・エーナス」

「…はい、団長。」


ヴァレッサは団長の顔を見て、小さく返事した。

表面上では動揺をしていないが、内心はとても焦っている。

何がそうさせた、何を間違えた、何が何が…。

声を出さなければいけない。

出ないと、あの刃に刺されたら終わりだ…。


「…なんでしょうか?」

「私は聞いているんだよ?無視なんて失礼じゃないか?何回も君はこの光景を見ていただろ?貴様、ついに私までもを侮辱するような器になったのか?素晴らしいね、今度君を“団長”にさせようかな?」

「…確かにこの光景は何回か拝見させて頂いております。ですが団長。私は“団長”ほど、まだまだ良い器を持っておりません。私は侮辱もしたつもりもございません。もし、不快に思いましたら謝罪申し上げます。」

「……フフッ。ヴァレッサ・エーナスここまでにしておきましょうか?よかった、額に刃向けられる所まで行ったら…分かっているわね?」


分かっている。

もしも額まで刃が向けられたら本当の死を味わう。

団長に復活をしてもらえれば良いと思ってしまうが、それは自分で決めるのではなく、団長判断。


(…記憶を消されたら困るしな。)


団長は仕込み刀を納め、杖に戻して元にあった場所に立てかけた。

そしていつも上っ面で見せる団長の顔があった。


「そろそろあの子達帰ってくるんじゃない?なーんか、三人の気配がするわね…。一部放心状態だけどー!」


ヴァレッサはため息をついた。

一部放心状態は、ヴィンの事だろう。

だがその話ではなくヴァレッサは違う意味でため息と安心感を感じた。


(この女…、切り替えが早いんだよ…。まったく、危うく殺される所だった…。どうにか無効化をなくす事はできないのか…。)


ヴァレッサは考えた。

過去に杖を奪おうとしたら何か能力をかけられたのか見えない力ではじかれてしまった。

団長が持っている杖は厄介で、相手の特徴までも感知するらしい。

ただの杖と思ってはいけなかった。

その後特定されルークも呼ばれていたが、事が起きた証言と合わず即バレてしまった。


“ヴァレッサ、バイバイ。”


(……まて。私は、一度殺されてる?)


「どうしたの?ヴァレッサ。急にあっけらかんな顔して…、何か気づいたの????」


団長は皮肉めいた口調でヴァレッサに聞いた。

何か気づいた…?

その言葉に疑問を感じた。

先程刃を向けられた時、ヴァレッサは恐怖を感じてしまった。

過去に一度やられている。

間違いない。


「団長。貴様まさー」

「ただいま戻りました。団長。」


ルカリアに言葉を遮られた。

ヴァレッサは久しぶりに憎悪を感じていた。

団長の部屋の入り口には任務を終えた三人が立っていた。

ルークはヴィンを抱え、ルカリアは大統領邸で集めた証拠品を抱えていた。


「おっ帰り〜〜!!!!ごめんね〜???ヴァレッサ!!何か話したかったかもしれないけどまた今度ね〜!!」

「ヴァレッサ兄さんと話でも?」

「ないなーい!どうせ大した話じゃないから!それより、ヴィン放心状態でしょ?ルーク、奥の寝室に寝かせて、状態見てから回復させてあげる。」

「…あの、団長。」

「何よ?早くしないと!ほらほら〜!いってらっしゃい、いってらっしゃい!」


ヴァレッサのただならぬ様子を感じるものの、ルークは団長に後ろから肩を押され仕方なく、団長の寝室へ強引に案内される。


「ルカリア…貴様…。」


ヴァレッサの声に反応したルカリアは彼の方を見た。


「…なんだ。私は何もしてないぞ?今回に関して何がいけなかったんだ…?」

「邪魔を…。」

「は?」

「貴様は私の邪魔をした。もう少し遅れて来ればいいものの…。」

「待ってくれ。遅かったら遅かったらでお前達は文句言うじゃないか、理不尽にも程があるだろう。」

「団長に聞きたいことがあった。貴様は話を遮った。」

「なら、今から団長のところ行って聞けば良いじゃないか。邪魔したのは謝る。タイミングが悪かった。」


一方寝室に移動したルークは、団長に先ほど言われた通りベッドの上にヴィンを寝かせ、団長は容態を確認していた。

額に片方だけ手を当て目を光らせていた。

しばらくして、目の色が元に戻った団長はルークに話しかけた。


「…ご苦労様、ルーク。私から見てまず任務は成功。証拠も取ってきたし…まずヴィンを回復させないとね。」

「ヴィンの容態は?オーバーメモリーして一週間は休ませないといけないかもしれない。」

「大丈夫よ、私の方で治療したから。少なくとも一日休ませないといけないけど普通に生活はできるわ。」

「そうか、よかった…。」

「私の寝室に置いたままでいいから寝かせておいて。行くわよ。証拠についても聞きたいことあるでしょ?」

「あぁ、元大統領エドワード・アズの事。そして悪魔族の事。」

「もちろんよ、忙しくなると思うわ…。」


団長とルークは寝室から去り、ルカリアとヴァレッサの元へ戻った。

ヴァレッサは険しい顔をし、ルカリアは呆然と団長とルークを見た。


「どうした?ルカリア?」

「……いや。私もわからないんだが。」


ルークは様子がおかしいルカリアに声をかけた。

団長はその会話自体気にせず、自分の席に座り、大統領邸から持ってきた証拠品を確認していた。


「…団長。貴様、私を一度殺したな?」


ヴァレッサは突然任務とは関係ないことを話し、ルカリアとルークは彼を見た。

二人がどんな話をしていたか見えておらず何事かと思っている。


「…何〜?これから任務の話もしないとでしょ?」

「私を殺したか、答えろ。記憶は?私の記憶は誰が消した。」


団長は先程見ていた証拠品をテーブルの上に戻してヴァレッサを見た。

対してルカリア、ルークの二人は、部屋の角の方で団長、ヴァレッサを眺めていた。


「……やったわよ?一回だけ。」

「ルークが記憶を消したのか。」

「違う。」


ルークは内心驚いた。

今回の任務について追及したかったが、ヴァレッサが過去に一度、団長の手によって殺されたという事実を知らなかった。


「…団長、どういうことですか?僕はヴァレッサ兄さんの記憶を消した記憶がないんですが…?」

「あら動揺してるの?だから違うって言ったじゃない!フフッ、かわいい〜!理由を知らないのね。それはそうか!だって貴方その前に何度か死んでしまったからね!ルカリアは……あぁ、今日一度やってしまったから記憶にないか…残念。」

「では!!僕は………ヴァレッサ兄さんが一度死んでいる事を知っていた…?」

「そうよ?ルーク、貴方はその前に私に頼み込んでまで殺してくれと言ったのよ?」

「はい…?」


団長はルカリアを放置して、ヴァレッサ、ルークの二人に向けて話した。


「任務の話したかったけど、大喧嘩になりかねないから話しておきましょうか。ルーク、ヴァレッサの近くへ来なさい。」


団長が発言するとルークは困惑した様子でヴァレッサの近くへ向かう。ヴァレッサは団長を睨みつけている。

ルークは何が何だか分からず、表情に動揺が浮かび上がっていた。


「ヴァレッサ、貴方は一度殺したわ。それは貴方が勝手に私の杖を奪おうとした時。復活させる時一週間分の記憶を消さないと起きた時に困るのは本人だし混乱するから。別に決して記憶を消さないといけないってわけじゃないんだよね〜?」

「記憶を消したのは誰だ。」

「黙れヴァレッサ・エーナス。人が話している時に図に乗って話を急かすな。」


団長の片目は黒く輝き、もう片方は白くあった部分が黒く染まっていた。


(やばい、団長の能力…!!これは…!!)


無効化能力。


「話をお願いします!続きを!申し訳ありません!」


ルークはヴァレッサの前に出て団長にすぐ謝罪をした。

殺される。

今無効化能力されている以上、我々は団長から見たらクズの様な者だ。

団長はじっくり前にいる男二人を見て発言をした。


「お前達は側から見て仲が良い様に演じているが…。ルーク・トゥリス、お前は先程帰ってくる時にヴァレッサ・エーナスを倒して記憶を消滅させると言ったな。勝手な考えを巡らせるな。その話を聞いて私が納得すると思ったか?自ら行動するわけでもなく、団長である私に面倒事を押し付けるような考え方。自らの望みを叶えるためには他力本願かぁ?ルーク・トゥリス、答えろ。」


ルークは汗をかき震えながら団長に答えた。


(どうするっ!?今団長は全てわかっている!!まず、言った言葉に答えないとダメだっ!!!)


「安易な考え、安易な頼み事、安易な相談事、大変申し訳ございませんっ!!二度と、二度と…!!自分から率先して行動致します!!!そして団長にご負担かける様な考えと発言しようとしたことをお詫び申し上げますっ!!!!」

「よろしい。次、ヴァレッサ・エーナス。」


ヴァレッサは団長の顔を無表情に見た。

ルークはヴァレッサの顔を見て狂っていると思っていた。

こんな状況でも飄々としてるなんて考えられなかった。


(俺は…こんな状況を見たことない…。ヴァレッサ兄さんは追い詰められている?いや、何か考えているのか?)


「はい、団長。」

「記憶を消したのは、死神の加護を与えた者、エテルだよ。だけどどこまで消したか分からない。エテル本人、楽しんでどこまで消そうか考えていたよ。」

「…そうでしたか。」

「これで記憶の心配はないな、聞くならエテル本人に尋ねろ。後、“無効化能力をなくす方法ないか?”お前の考えていることは全部見えてるんだよ!!!!」


ヴァレッサは急に立ち上がった。

何か警戒したか、側にいたルークは突然の行動に驚いていた。


「…心を読んだのか。」

「愚か者。古株とはいえ一団員である貴様が団長である私に勝とうなど図々しい。貴様はこのモノクロサーカス団を乱す愚の骨頂。」

「それで、団長は私を殺しますか?」

「いいや?そんなつまらない事を簡単に実行するわけがない。……ルーク・トゥリス、いい機会だ。メモリー・ホワイト(記憶消滅)をヴァレッサ・エーナスにかけろ。」


ヴァレッサは黙り、また席に座った。

ここまでかという態度で全てを諦めていた。


「…に、兄さんに、メモリー・ホワイト(記憶消滅)するのですか?」

「お前の願いを叶えてやる。丁度いい。ヴィン・エークシに対して彼本人の意思を反し大幅に超える能力を個人の都合で身勝手にかけ、さらには一団員を利用してルーク・トゥリスにまで害を与えようとした。そしてルークを殺してみないと分からないだと?戯言抜かすな。さらには任務の話をしようとしていた所を、貴様は自らの都合で邪魔をした。ヴァレッサ・エーナス、お前のペナルティはメモリー・ホワイト(記憶消滅)で償ってもらおうか。ルーク・トゥリスにしてもらえるだけありがたいと思え。」

「ありがたき代償。」


ペナルティの内容を聞いたヴァレッサは無表情で団長を見た。

団長は真剣にヴァレッサを見つめていた。


「ルーク・トゥリス。今すぐにメモリー・ホワイト(記憶消滅)をしたまえ。お前はこの男を倒して恐怖を与えたいのだろう。残念ながら、お前の望みは永遠に叶えられそうにないよ。倒すことは叶えられるが、ヴァレッサ・エーナスに恐怖を与えることは永遠にできない。この男は、お前に対して異常ともいえる執着心を持ってしまったからな。知らないだろうが、君を何度も犯そうとするほどだよ。」


ルークは顔を青ざめ、ヴァレッサをみる。

ヴァレッサはルークを見ておらず団長だけ見続けている。


「お…おかす…?は???ヴァレッサ兄さん??」

「さて、とっとと消滅してもらおうか?ルーク、団長のご命令だよ。」


ヴァレッサは立ち上がり、ルークの前に立った。

そのタイミングで、先程まで部屋の隅で黙っていたルカリアがルークの後ろから声をかけた。


「ルーク、お前の望み叶うな。よかったじゃないか。ちなみにだが、私は一度も団長を倒そうと考えていないよ。」


ルカリアの言った言葉の意味が理解できない様子で、ルークは声の聞こえた方向へ顔を向ける。


「ルカリア…?」

「お前達、生前人間風情の者が安易に団長逆らうことなんかできるわけないんだよ。ヴァレッサですら団長の本名を知らないだろう?私達の世界ではとても有名なんだよ。そして私は本名をしている者の一人らしい。だから悪魔族には慣れている。」

「ルカリア姉さん??何言っているんだ…?お前はいつもいつも団長に酷いことされているんだぞ!?それをわかっていっているのか!?」

「私を道具の様に殺しているんだろう?知っているよ。」

「じゃあ何故なんだ!!」

「ルーク、私は“悪魔族”なんだぞ?例え殺されたとしても団長が飽きない限りは復活してもらえるさ。」

「はぁ!?」

「フハハハハハハハハッ!!!!!ルカリア・ミデン!!!!貴女は最高ね!!!!他の悪魔族と違ってそういうところが良いから拾ったのよ!!!!」


ルークは、ルカリアと団長を見た。

ルカリアの発言で裏切られたと感じてしまった。

今まで、団長に遊ばれ、団長に何度も殺されている奴がどうしてそう言い切れるのか理解ができない。


(わからない…。わからない!!!!)


「私は“生粋の悪魔族”。だから—————、」

「だから…?」

「長年お前達といるけど、悪いが一欠片も興味がないんだよ。モノクロサーカス団が滅んだとしても私と団長は嫌でも生き残る。ルーク、お前の話を何度も聞くたびに私は思うよ。古株三人を倒す、団長を負かす、ヴァレッサを恐怖に落とすとか、夢物語みたいに喋るなと。まあ今は堕とされるのはお前の方だが。」

「はぁ…??ルカ……。う、うそ…だろ…??」

「お前はあの時、任務の時。撃たれまくって倒れた私に手を差し伸べたな?私は頼んではいない…お前が勝手に手を差し伸べたんだ。正直必要のない事だったよ。」


ルークはルカリアの言葉を聞くたびに後ろ側に少しずつ引いてしまう。

そして団長は立ち上がり、ルカリアの横に立つ。


ルカリアと団長。

ルークとヴァレッサ。


相対してお互い見つめている。

団長はルカリアの肩を借りて腕を置いて二人を見た。


「団長、ヴァレッサ兄さんをどうこうする前にルークが壊れそうだよ。」

「そうね〜?でも、私は今“無効化能力”を発動してるからぁ〜〜???なぁああんにもできないよね〜!?」

「このさえ、二人を団長の力で終わらせた方が早いと思うが。このやりとり退屈なんだ。団長もそうだろ?」

「確かに。」


大いに団長は顔を歪み前へ出る。


ルークは荒く呼吸を起こし団長の目を逸らさない。

ヴァレッサは無表情。

ルークの後ろから後の女性二人を見続ける。


(やめろ…、やめてくれ。嘘だと誰が言ってくれ…!!ルカリア…!!!ルカリア!!!!)


ルークは泣きそうになりながら心で吐露し、目を逸らす。

するとルークの後ろから肩を掴まれた。

ヴァレッサは団長とルカリアを背を向けルークの目を見た。


メモリー・ファブリケーショ(記憶捏造)


〈お前は記憶を消されることは絶対にない。私が記憶を消されたら復活後必ず報告しろ。もしもお前の記憶を消そうとしたら…。〉


《死神の加護よ》


アルティメット・ファブリケーショ(究極捏造)


〈死神のエルフィンが団長を死神裁判にかけ、ブラックホールを使って追放するだろう。〉


団長は唖然とし、二人を鬼の形相の様に睨んだ。


「ヴァレッサっ!!!貴様ふざけるなぁあああ!!」

「…またな、ルーク。」


ヴァレッサは団長に捕まり、団長の手で殺された。

見えない力で目は潰され、左胸が爆発した様に弾け、辺り一面は一瞬に血の海になった。


「…この、若造が。私をここまで追い込むなんて。」

「に…にい…にいさん??」

「団長、ルークが壊れたよ。」

「また、やり直せばいい。なあに!!心配いらない!!…なぁ、ルーク・トゥリス???」


ルークは肉破片を残したヴァレッサの残骸を見て泣いていた。

団長に声をかけられているのに顔を見ることができなかった。頭の中はそれどころでは無く、理解しきれない状況を把握しようとする事で精一杯だった。

気がつくと、いつの間にか団長が目の前に立っている。


「バイバイ、ルーク。」


ルークも同じくヴァレッサの様に目を潰され、左胸から爆発する様に弾け飛んで亡くなった。

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