宝石よりも
あの子が石を拾ってくるようになったのは八歳の頃だった。
あの子と一緒に散歩していて偶然綺麗な石を見つけて「きれいだねぇ」とあの子に話したのがきっかけだと思う。
それから、あの子はたまに色々なタイプの石を拾ってくるようになった。
綺麗なものもあるし、面白い形のものもあるし、どう見ても普通の石にしか見えない時もある。
しかし、いつも嬉しそうに澄んだ目で私を見て
「お母さんにあげるね」
と石を差し出してくれた。
私はそれらの石の贈物をとても捨てることは出来ない。
小さな器はすぐにいっぱいになってしまい、今では、赤ん坊を寝かせるようなバスケットに入れて貯めているが、それも近いうちにあふれてしまうだろう。
あの子も、もうすぐ三十歳になる。
あの子が重い病気にかかった時、心無い人達は私に聞こえないと思って
「あんな知恵遅れの子は死んでくれた方が親は楽だろうね」
と話していた。
確かにあの子は軽くない知的障害者だ。
でも、私にとって、あの子の命はこの石でいっぱいのバスケットよりずっと重く、入っている石は宝石よりも貴重で大事なものだ。