第四話 今まで選択してこなかった選択を
そして――――
そこには緑があった。
木々は芽吹き、地面は草が生い茂り、花が咲き乱れていた。
呆けているパルス三世にウェダは告げる。
「精霊は五十年間。この剣を貸し与えてくださるそうです。それまでに今以上の成果を上げ国を豊かにしなさいと仰っておられました」
パルス三世はおぼつかない足取りでウェダに歩みより、彼の手を握り涙ながらに言う。
「わかった! 私はここに誓おう、これまで以上の素晴らしき国を作る。ウェダ、お前の望みは何だ? 私にはお前に報いなけれなならない」
ウェダはやや悩み、そして、今まで一度として選択してこなっかった望みを口にした。
「では……僕を王様にしてください」
パルス三世は最初、何を言われたのか分からなかった。いや、理解するまでに時間がかかっってしまった。
「お前は王になることを望むか?」
「はい」
「そうか、お前の望みは理解した。私も自分が言った言葉に二言はない。だが、この国を救った功績だけで、王女と結婚して王になれるのは物語の英雄だけだ」
「では、私の願いは聞き届けられないと?」
「そうではない」
パルス三世は服装を直し、神妙な顔でウェダを見て口を開いた。
「今回の功績を称えるために、アルベン国王・パルス三世の名のもとに、兵士・ウェダに男爵位を授け、国王候補の一人として認める」
「は! 謹んでお受けいたします」
ん? 国王候補の一人?
「うむ。それから、ウェダには国王候補である四人の王子達と競ってもらう。内容は五年間の領地経営。税収の上がり具合、人口の増加具合、そして住民の満足度。それらを総合し最も勝っていた者を次期国王とする。グヌバ、領地経営する地の選定を行い二日後にウェダに通達せよ。ウェダはそれまでに自分の家名と紋章を決めグヌバに伝えよ。六日後に大々的に、この国難を救った英雄の誕生を国内に伝える式典を開く、その場で四人の国王候補との面会と国民に対して意気込み等の宣言してもらう」
「承りましてございます」
「承知しました」
「うむ。ウェダよ。大儀であった。余はこの日の事を生涯忘れぬぞ」
「はっ。ありがたき幸せ」
そう言い残し、パルス三世は家臣らを引き連れて、中庭から王城の中へと姿を消した。
中庭には宰相・グヌバとウェダが残される。
グヌバ・ド・グエンブルグ侯爵
王家に建国時から仕える、十二貴族家の一つグエンブルグ家の当主。
パルス三世とは次期国王候補を競い合った仲で、好敵手といった関係であり、そうした関係から友人関係に発展していった。
前王・パルス二世は、彼の事を主でいるよりも主を支える才に長けている。として、彼に宰相の役職を与えている。
一〇〇回やり直しているが、この宰相はよくパルス三世に仕えていた。
彼の最後は、戦場でパルス三世をかばって死んでしまうんだよな。
「ウェダ殿」
「はい。宰相様」
「うん。ウェダ殿、今回の件本当にありがとう。君はこの国の英雄だ」
「ありがとうございます」
「これからの手続きもあるからね。私の執務室でその作業を行おう。ついてきたまえ」
歩き出したグヌバより、二歩程遅れて後を付いていくウェダ。
何度も通っている道なので、味気ない気もしてくるウェダだが、ガウゼンの時代に比べたら王宮内はとても質素で煌びやかさなどほぼなかった。というのも、歴史上類を見ない飢饉で国も人も疲弊した状態の国内を少しでも支えるためにパルス三世は最低限の物を残して全て売却し国民を救済するためにその財を投じている為であった。
「ここだ。少し片づけるので少し待っていていてくれ」
「わかりました」
そう言い残し、宰相は部屋へと入っていった。
さて、国王候補となった事で一〇〇回分の経験を生かす場がかなり増えた。
まずはこの記憶をもとに商売、戦争、内政、果たせなかった約束……やれることが多すぎる。
何より戦闘能力に関しては従来の比ではない事は明らかだ。
戦闘か。うずうずしやがる。
ウェダは沸き起こってくる喜びに口元を手で押さえ、笑いをこらえていた。
考えても見ていただきたい。この世界でウェダは唯一、人生を一〇〇回やり直しているのだ。
何がいつどこで起こり、どうなるのか。
何がいつ発明され、爆発的に普及するのか。
誰が犯人か。
誰が事件の発端となったのか。
誰がどう出世するのか。
才能あふれた士官や武将・武人を名を上げる前から自陣営に引き込める。
など、うれしいことばかりであった。
そうだ。アスティアがくれた、セーブ&ロードってのを使ってみるか。
【セーブ&ロード】
どこをセーブポイントに設定しますか?
【宰相の部屋の扉】
【宰相部屋の廊下・タイル】
【宰相部屋の前の城の柱】
ああ、こういうシステムね。なら、一番替えの利かない【宰相部屋前の城の柱】で。
【宰相部屋の前の城の柱】に設定しました。
セーブ領域・空き領域は九。
上書きは何度でも行えます。
なるほどね。
「ウェダ殿。準備ができた。入りたまえ」
「失礼します」
「これが陞爵に伴う書類、こっちが紋章用の書類だ。明後日までに決め、登城してくれ」
「わかりました。その様にいたします」
「うん。私の方も君が領地経営する地の選定を行っておく、楽しみにしているといい」
「はい」
「それから――」
上質な布で作られた袋がテーブルの上に置かれる。
「金貨十枚入っている。これで式典に必要なものをそろえるように」
「はい。ありがとうございます」
「うん。話は以上だ。さがりたまえ」
「失礼しました」
ウェダは宰相の執務室を後にするのだった。
執務室を退室したウェダは下城するために城門を目指して王城内を歩いていた。
ちょうど曲がり角に差し掛かったころに、足音が聞こえてきたのでウェダは歩を緩める。城内の場合務めている者の大半が貴族やそれに連なるものたちなので、身分的に下の者が廊下の左右どちらかにより道を開けて、頭を下げ相手が歩き去ってから歩き出す。という礼法を取る必要があるためだ。
立ち止まり左により一礼しているウェダの前に現れたのは、まだ十代と若いガウゼンだった。
「この騒ぎの原因はお前か? ウェダ」
一礼しているウェダに近づくとそう声をかけた。
「ああ、そうだが? それがどうかしたのかガウゼン?」
声をかけられれば、返答また顔を上げていい決まりなので、無礼には当たらないが、ウェダの反応はいささか無礼だ。
「よくもまあぬけぬけと! ウェダ、お前正気か!? 褒美に国王になりたいだと? ふざけるなよ! お前のような――」
怒りの感情を隠すことなくぶつけてくるガウゼンに、ウェダは暴れ狂う殺意を押し殺す。
ここで手を出して、コイツを殺しても……そうだ、セーブ&ロードを使ってみるか。
「なあ、ガウゼン。いい加減にその口を閉じろ」
「―――っ」
ウェダはわめき散らすガウゼンの顔面を掴み、勢いよく壁に叩きつけた。
「う、うがぁあぁぁーーー」
頭を押さえても耐えるガウゼンを問答無用で踏みつけ、殴り、蹴り飛ばして腕の骨をへし折る。
「ギ――――」
「こんなもんじゃない。あいつらが受けた苦しみや屈辱はこんなもんじゃないんだよ。わかるか? いいや、わからないよなぁ? だからさあ、お前は俺がこの手で葬り去ってやる」
もがくガウゼンの背中を足で踏みつけた。
バチバチとウェダの周りを青紫の稲妻がほとばしる。
「貴様は俺が責任もってあと一〇〇回殺すからよ。楽しみにしていろ。”サンダーボルト”」
「うぎゃぁぁぁぁぁあああぁ!!!」
ウェダの足から青紫の雷がガウゼンへと叩き込まれ、ガウゼンはもがき苦しみ、ウェダの狂おしいほどの殺意に焼かれながら絶命した。
「なんだ! 賊か!」
「急いでとらえよ!」
ガウゼンの断末魔を聞いて城の兵士やらが集まり始めたようだ。
ウェダはセーブ&ロード画面を開き、ロードを開始した。
「ウェダ殿。準備ができた。入りたまえ」
おお、本当に戻ってこれたぞ。
これなら本当にあと一〇〇回くらいガウゼンをぶち殺せるな。
ひくつく口元の笑みを押さえながらウェダは宰相の執務室の扉をくぐったのだった。
「お、オレが何をしたっていうんだ! ぎゃあぁぁっぁっぁ!!!!!」
「もうやめ――gobogobogobo」
「も、もう、もう殺してくれ」
「いぎゃぁぁぁぁ!!!!!」
あの後本当に一〇〇回ガウゼンを殺したウェダは、一〇一回のガウゼンとの遭遇していた。
「この騒ぎの原因はお前か? ウェダ」
一礼しているウェダに近づくとそう声をかけた。
「ああ、そうだが? それがどうかしたのかガウゼン?」
声をかけられれば、返答また顔を上げていい決まりなので、無礼には当たらないが、ウェダの反応はいささか無礼だ。
「よくもまあぬけぬけと! ウェダ、お前正気か!? 褒美に国王になりたいだと? ふざけるなよ! お前のような――」
ウェダはポンとガウゼンの肩に右手をのせ、ポンポンと軽くたたきながら、晴れ晴れとした表情のウェダ。
「俺も忙しいからよ。また遊ぼうや(一方的にお前が俺に殺される遊びだけどな)」
ニタリと笑うと同時に殺意をぶち当てるウェダ。
「――――っ」
ウェダのどぎつい殺意に当てられひるむガウゼン。
それを尻目にウェダは意気揚々と下城した。
「な、なぜ。このオレ様があんな平民ごときに気圧されるだと! あってはならん。ふざけるなよ平民ごときが!!」
廊下に一人残されたガウゼンは怒り狂っていた。
しかし、彼の足元には彼が作り出した水たまりができていた。