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令和ちゃん

先輩と後輩

作者: 湯西川川治

「後輩の調子はどうだい?」

 聴かなくてもわかることをわざわざ聴いてくるあたり、この先輩は意地悪だと思った。

「絶好調すぎて逆に苦笑いですよ」

「呑み込みが早くていいってことだ」

 先輩はその返答に満足したのか、笑みを浮かべて踵を返していった。何しに来たのか、と首をかしげていると、入れ替わりに入ってきたのは件の後輩だった。

「先輩、ただいま帰りました!」

「おかえり、令和ちゃん。首尾は?」

「上々です! 聴いてくださいよ、先輩よりも大きいやつ連れてくること出来たんですから」

 自信満々に語る後輩の姿を見て成長を感じて安心しつつ、これは絶好調といっていいのだろうかと自問する。確かに、自分が30年間やってきたことの引継ぎは上手く行っている。

意欲もあるし、覚えも早い。10月の式典も特に問題なくこなせるであろう。

 しかしだ。自分がやってきた30年で起こりえなかったことが引き継いだ後の半年間で幾度も起きていることが少し気がかりだったのだ。いや、正しくは「起こりえたことのほとんどが自分のそれを超えていること」とでも言えるだろうか。 

 基本的に自分のしてきた仕事というものは、四季をベースにしたルーティンワークで事足りるはずだった。事実、毎年やるべきことは決まっていて、それは必ず後輩もやることになる。だから、年度途中の引継ぎなので駆け足ではあるが教えてきたつもりだった。もちろん、後輩は忠実にそれをこなしている。しかし、今回のような前代未聞の事態を引き起こすことも多々あるのだ。

 それが後輩自身の意思なのか特性なのかはよくわからない。しかし、起きている事実を見る限りでは、何かが影響していることだけは確かだった。自分も決して人のことは言えないのだが、短い期間でこれだけ濃いものを見せつけられると、成長という安心感だけで済ますことはできない。

 後輩はそんな自分の思案を知りもせず「一仕事終えました、褒めてください!」といった感じで人懐っこい笑顔を振りまいてくる。この笑顔には罪はないし、素直に褒めてあげたい気もするのだけれども。

「はい、コンビニでコロッケ大特価だから買ってきました。先輩コロッケ好きですもんね」

 後輩が差し出してきた袋の中には、大量のコロッケが入って。揚げたてですよ~、と付け加えられて思わず喉が鳴った。言う通り、コロッケは大好物だ。特に今日みたいな天気の日は食べたくなる。

「ご飯にしましょう、わたしちゃっちゃと用意してきますから」

 後輩は身体を翻して、キッチンへと去っていく。その姿を見ながら、やれやれ、と呟いて煙草に火をつける。

 とはいえ、頑張りは認めるし、もっと頑張ってほしい。それが空回りにならないことを祈るだけだ。そして、みんなに愛される存在になってほしい。自分がこの30年間でそうなれたのかと言えば、疑問ではあるけれど。だからこそそう願う。

「あっ、先輩! ここ禁煙ですよ!」

 目ざとい後輩に注意されて、やれやれ、ともう一度呟いて、灰を携帯灰皿に落とした。言霊が現実になる時代がやってくるのはもうすぐか。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  話のテンポがとても良いですね。回りくどく描写されていたり、長々と自分語りする主人公だと辟易するのでポンポンと移り変わる場面に良い印象を受けました。  文書も読んでいて違和感等を感じたり…
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