第5話 邂逅
暗い。
暗い。
真っ暗な空間に、俺だけが漂っている。
全身の感覚はなく、息が詰まりそうで、ただひたすらに息苦しさだけが募っていく。
苦しい。
なにも見えない。
死んだのか。
何処ともしれない森の中で。人知れず。
あぁ…自分が終わると思うと、少し楽になった気がする。先を考えずに済む。どうせ、辛いことしかない。
一人で消えていく。
独りで。
「----」
暗闇に一筋の光が差し込んだ。
暗闇を晴らせるだけの眩い明かりではなく、とても弱々しい、微かな光。
その光はゆっくりと俺に降りかかり、優しく包み込んだ。
その瞬間から、僅かに痛みや息苦しさが和らいでいくのが分かった。
--暖かい。
なぜか、泣いてしまいそうになる。
優しさが流れ込んでくる、そんな気がした。
深い暗闇の底に沈んでいた意識が、次第に上へ上へと引き戻されていき--
そして
眼が覚める。
俺はどこかの、布団のような物の上にいた。布団というには中身が少し違っている。綿が詰まっているというよりも、なにか他のものを緩衝材にしているのだろうか。とても丁寧に作り上げられているようだった。
仰向けになった状態で重い瞼を少し持ち上げる。視界が悪い。熱でもあるのだろうか。
目に移ったのは薄暗い中にぼんやりと照らされるオレンジ色の暖かな光だけ。
すると、まだ朦朧とする意識の中でなにか聞こえてくる。
「-------」
傍からとても綺麗な、鼻歌が聴こえてきた。どこか懐かしいような、哀愁を漂わせている。
子守唄だろうか。気持ちが落ち着く。
鼻歌の聞こえる方向に顔を傾けると、そこには人らしき輪郭をかたどった影が見えたが、視界がぼやけてほとんどよく見えない。椅子に座っているようで、手を伸ばせば届きそうな距離だった。
俺が起きたのに気が付いたのか、歌うのをやめ、少し近づいてくる。
「-------、----」
何か話しかけているようだが、上手く聞き取れない。日本語じゃないのは確かだ。別の国の言語だろうか。
「---?」
やっぱり聞き取れない。だが、悪意とか、敵意のようなものが向けられているわけではない。と思う。
とりあえず、なにか、話せないだろうか。
「こ…ここ…は…?」
「……---、------」
だめだ。
返事をしてくれているのは分かるが、全く意味を理解できない。
言語が通じない。意思疎通ができない。
これはかなり、まずいかもしれない。ジェスチャーをすれば多少は通じることもあるだろうが。いままでのこと、これからのこと、諸々詳しく話をするには限界がある。
--どうしたら…
すると突然、背中に熱を感じた。
あれに襲われた時と同じ。
「が…っ!!っづ!!」
激痛が全身を駆け巡る。
「-----!?」
何か言っているようだが、反応を返せない。
痛みは徐々に背中から上へと登っていき、頭部へと達する。
その瞬間。
大きな耳鳴り。
最初は僅かに。そこから少しずつ大きくなっていき、それに伴いじわじわと体に異変が起き始める。
頭が、割れるように痛い。
想像を絶する痛みだ。まるで頭を硬い物で殴られたかのような。酷い痛み。
「いっ…!!なん、だよ…これ…!!」
頭を抱え、悶える。
一向に痛みが引く気配がない。
耐えられない。
影が近づき。
話しかけてくる。
「-------」
「----ですか!?」
「---が痛いんですか!?」
聞こえた。
少しづつ靄が晴れていくように、次第にはっきりと聞こえてくる。
声が聞こえるようになるにつれて、嘘みたいに頭痛が治まっていく。
先程までの激しい痛みのせいか、はっきりと目が覚めて目に見える光景の焦点が合い始める。
「大丈夫、ですか…?」
とても心配そうな表情で俺を見つめている、女の子の姿が、そこにはあった。