第35話 戦の終り
ディド達とお別れ
「あたいは不完全燃焼って感じだよ。ドラゴンは急に戦わなくなっちゃうし、オーク達はあっさり戦をやめちゃうし、せっかく腕の見せ所だったのに」
酒を一気に呷ったイソルダが不満を口にする。彼女みたいに戦いを楽しんでいた者からすれば、中途半端なところで戦が終わってしまったような気分になるんだろう。
「そう言うなよ。ちょいと珍しい終わり方だったかも知れんが、全員無事に済んだんだから良かったじゃないか。それに金は約束通りちゃんと払うぜ」
コップをテーブルに置いてスコルが言った。
「まぁ、たまにはこういう戦があってもいいのかもしれませんね」
ディドもコップを置いて言った。
「僕はオークって種族がよくわかりませんよ。よくもあんなくだらない理由で戦なんて始めましたね。戦士の種族って聞いてましたけど、まるで子供の喧嘩ですよ」
と僕は心の中で思っていた事を口に出した。だって、そうだよね?何か、こう、もっと高尚な事の為に戦っているんだと思っていたら、酒代うんぬんなんて理由だったなんて。不満の一つも口にしたくなろうと言うものだ。
「おい、ぼうず。ここにもオークが一人いるってのを忘れてないか?あんまり下手な事を言うなよ」
僕を見てスコルが言ったけど、負けていられない。
「すみませんね。でも、僕の正直な感想ですよ」
「酒の飲み比べの勝ち負けなんかにこだわって戦を始めるなんて、オークらしいと言えばオークらしいと思うわよ」
エリスはお酒じゃない、何やら真っ赤な飲み物を飲みながら口を挟んできた。確かに、くだらない飲み比べの勝ち負けにこだわって戦をするっていうのがオークらしいと言えるのかもしれない。
「そうなんですかね?何にせよあの時コルガが聞いてくれて僕としては助かりましたよ」
僕はコルガの方を見ながら言った。彼は静かにお酒を飲んでいる。それにしても、あの時彼が戦の理由を聞いてくれなければ、今頃まだオーク達相手に戦っていたかもしれない。
しばらくしてみんなのコップが空になった頃に、スコルが袋から取り出した金貨をテーブルの上に置いた。ジャラジャラと結構な数の金貨だ。僕は他の客の注目を集めないかと思わず周りを見渡したけど、みんな自分達のお酒を飲むのに忙しいらしい。僕達の方を見ているお客はいなかった。
「よーし、それじゃあ、約束の報酬だ。受け取ってくれ」
金貨を並べてディド達の方に押しやるスコル。
「どうも。珍しい経験ができましたよ。もし、次の機会があればわたしを呼んでください」
自分の分を受け取るとディドが言った。コルガも受け取って頷いている。
「そうそう、面白い戦いをする時は仲間に入れてよね」
イソルダも残った金貨を受け取ると言った。
「ディド、コルガ、イソルダ。おかげで助かったよ。縁がありゃまた会う事もあるだろう」
「三人とも、ありがとうございました」
「じゃあね」
僕達はそれぞれディド達に声をかけると、彼らと握手をした。やがて彼らは席を立って酒場を出ていく。
「気の良い連中だったな。そう寂しそうにするなよ、今生の別れってわけじゃないんだ」
彼らの去った席を見つめていた僕の顔を覗き込んでスコルが言った。僕ってばそんなに寂しそうにしていたかな。自分の顔を手で撫でてから無表情を装う。
「そうですね。ところで僕達はこれからどうするんですか?」
僕は気になってスコルに聞いてみた。
「どうするって?また、あのしけた小屋に戻って、お前さんの修行の続きだろうが」
スコルが当然といった様子で答えた。また、彼にどやされる修行の日々が戻ってくるというわけだ。
「あたしが送ってあげるわよ」
エリスが僕に片目をつぶってみせる。
「はぁ……、わかりましたよ」
僕はため息をついてから返事をした。
一旦終了




