第31話 三回目の戦4
空を飛ぶドラゴンを落とせ
イソルダをドラゴンに向けて飛ばす。彼女はかなり体重が重い方だけど、ドラゴンに比べれば軽いものだ。イソルダの体がドラゴンの頭に近づいていくと、ドラゴンは口を大きく開けて彼女に噛みつこうとする。僕はイソルダが噛みつかれないように浮遊の術を操った。そして、いよいよイソルダの金棒がドラゴンの頭に届く距離にまで近づくと、彼女は力一杯金棒を振り下ろした。
ゴーン!と僕のところまで音が聞こえてきた。したたかに頭を殴られたドラゴンはさすがに平衡感覚がおかしくなったらしく、フラフラと飛びながら地面に近づいていく。僕はイソルダの体を地面に降ろすとドラゴンの様子を窺う。ドラゴンは僕達の頭上を飛び越えて胴体着陸。盛大に砂煙が上がった。
「やったね!」
地面に降りたイソルダが僕達に駆け寄って喜びの声を上げた。
「いやぁ、見事な一撃だったな、イソルダ」
スコルが感心したように言った。
「うわぁ、やるじゃないの。びっくりしちゃった」
ドラゴンを追いかけ回していたエリスも僕達の近くに降りてきて言った。
「まだ油断しないでくださいよ」
僕もイソルダに何か賛辞を投げかけようとしたところで、ディドが口を開いた。彼は注意深く砂煙を見つめている。コルガもまだ警戒を解いていないみたい。
てっきりあれだけの攻撃を喰らったらドラゴンも起き上がってこないんじゃないかと思ったけど、僕の考えが甘かったみたいだ。砂煙が晴れるとドラゴンは頭をはっきりさせようとしているのか、首を振っているのが見えた。いやはや、ドラゴンの頭の骨はまったくもって頑丈な作りになっているらしい。地面に降ろす事はできたけど、まだ決着というわけにはいかないようだ。
オークの魔術師がドラゴンの側に寄って何かわめいている。どうやらイソルダに見事に地面に叩き落とされドラゴンに対して叱咤しているようだ。ドラゴンはようやく意識がはっきりしてきたらしく、自分に向かって大声を出す魔術師の方を見た。魔術師の声の調子だろうか、それとも言葉が理解できているんだろうか、叱りつけられているとわかっている様子だ。
魔術師が僕達の方を指差してドラゴンに攻撃させようとしているみたいだ。ただ、ドラゴンの方はなかなか腰を上げようとしない。よく見てみるとディド達にさんざん攻撃された足の辺りの鱗は何枚か剥げ落ちてしまっているみたいだし、イソルダに殴りつけられた頭が痛いのかしきりに前足で触ろうとしている。あれだけの傷を負っているのに怒鳴り散らされたんじゃ、やる気も萎えるというものだ。僕は敵ながらドラゴンに同情しそうになった。戦の相手なんだから同情なんてしてやる必要はないかもしれないけど、たった一頭で僕達と戦っているドラゴンがどやしつけられるのは、なんだか可哀そうだった。
「ねぇ、スコル。まだあいつと戦いますか?」
「おいおい、どうしたんだ?」
僕の言葉に驚いたようにスコルが言った。
「いやぁ、その……何だかちょっと、あのドラゴンが可哀そうに思えましてね……」
僕は口ごもる。それを聞いてスコルが呆れたように天を仰いだ。
「敵に同情するなんて随分余裕があるじゃないか、ぼうず。お前さんも一回ドラゴンの背に乗ってみるか?」
「いえ、遠慮しますよ。ただ……」
「ただもくそもあるか。お前さん、俺達があのドラゴンに喰われちまってもいいって言うのか?」
スコルは怒ったように僕を睨みつけながら言った。彼の怒りももっともだ。僕が変な事を言っているっていうのは自分でもわかっている。
「ちょっとちょっと、こんな時に喧嘩しないでよ」
僕とスコルの間にエリスが割って入ってきた。
「このぼうずがおかしな事を言ってるんだぜ。お前も聞いただろ?」
「聞いたわよ。まぁ、落ち着いて。イオはあんたより優しいってだけなのよ」
エリスは僕を庇ってくれる。
「優しいだって?まったく呆れるぜ」
スコルはそう言ってそっぽを向いてしまった。
「イオ、あんたがドラゴンに同情する気持ちはわからないでもないけど、そんな事でこっちが負けを認めるわけにはいかないんだから」
スコルに代わってエリスが僕に話しかけてきた。彼女の言う通り、負けを認めるわけにはいかない。僕のせいでみんなを困らせちゃったかな。
「えぇと、すみません。変な事を言って」
僕はみんなに頭を下げた。
「僕だってドラゴンにやられたいと思っているわけじゃありません。ただ、怒鳴られているドラゴンを見たら少しだけ可哀そうに思えたってだけです。みなさんのやる気を削ぐような事を言って申し訳ありません」
「いや、いいんですよ。そんなに気にしてませんから」
謝る僕にディドがそう言ってくれた。スコルはまだ不機嫌そうだけど許してくれただろうか。
「ほら、また来るみたいだよ」
イソルダの言葉にドラゴンの方を見てみると、オークの魔術師が杖を掲げて命令しているところだった。その命令に渋々といった感じでドラゴンが腰を上げてこちらに向かってくる。
「気を抜くなよ、ぼうず」
スコルが僕に話しかけてきた。
「わかりましたよ」
僕が答えるとスコル達はドラゴンに向かっていった。
またもや僕達とドラゴンの戦いが始まった。
前足の辺りを集中して攻撃するスコル達。イソルダは噛みつこうとしてくるドラゴンの頭を金棒で叩いて追い払う。ドラゴンは何度か口から炎を吐きだしたけど、スコル達に当たる前に僕が魔術で防ぐ。エリスは蝙蝠に姿を変えてドラゴンの目の前を飛んで視界を遮る。致命的なダメージは与えられないけれど、スコル達の攻撃は少しずつドラゴンの体力を奪っていっているみたいだ。最初に比べるとドラゴンの動きが鈍っている。
少し余裕のできた僕がふと視線をずらすと、杖を掲げたオークの魔術師が見える。彼の持っている杖が僕は気になりだした。杖の先に付いた宝石が赤く輝いている。そう言えば、あの魔術師がドラゴンに何か命令する時、いつもあの宝石が輝いていた。あれってもしかして……。
その時、ドラゴンの振り回した尾を避け損ねてスコルが僕の方に飛ばされてきた。僕は浮遊の術を使って彼を受け止めると話しかけてみた。
「スコル、あの魔術師が持っている杖って気になりませんか?」
「いたたた……、こんな時になんだ?あの杖がどうかしたか?」
尾の当たった腕をさすりながらスコルが言った。
「あいつがドラゴンに命令する度に、あの宝石が光っている気がするんですよ」
僕の言葉でスコルはすぐにピンと来たようだ。
「するってぇと何か?あの杖でドラゴンを操っているって事か?」
「そうなんじゃないかなぁと思ったんです」
少し考え込んでからスコルが言う。
「あり得なくもないな。よーし、ぼうず。あの杖をぶん取っちまえ」
「了解です!」
スコルの言葉を聞いて、僕は浮遊の術を使ってオークの魔術師が持っている杖を取り上げようとした。魔術師の方は杖が動いた途端に何をされているのか察したらしく、素早く両手で杖と掴むと離すまいと必死に引っ張り始めた。
魔術師と言えどもさすがにオーク。力が強くてなかなか離してくれない。でも、これだけ必死に抵抗するって事は、この杖が重要なものだと言っているようなものだ。僕は魔術師の手から杖を引っこ抜こうと魔力を込めた。魔術師ごと宙に浮き上がりそうになるけど、まだ離してくれない。えーい、いい加減に諦めろ!僕は魔力をふりしぼって杖をこちらに引き寄せようとする。すると、とうとう力を使い果たしたのか、それとも汗で滑ったのか、魔術師の手から杖が離れて僕の方にすっ飛んで来た。
杖を奪う




