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第25話 二回目の戦の後

戦が終わって村に戻る

「あいつら何て言ってたの?」


 戻ってきたスコルにエリスが話しかけた。僕はとりあえずスコルの傷を治す事に専念する。素手で戦っていたせいか、スコルは腕を中心に切り傷が多い。


「まだ諦めないんだとよ。俺もそんな簡単にはいかないと思ってたがよ」


 僕に傷を治してもらいながら、スコルは面倒そうに言った。今回で終わりだと良かったんだけど、そうもいかない。


「へぇ、やっぱりオークの戦士としては、そう簡単には戦の負けを認められないってわけね」


 エリスは特に意外だとは思っていないみたいだ。オークの戦士というのがどんなものなのか僕は詳しくは知らないけど、勝つまで諦めないという考えが浸透しているんだろうか。


「なにか秘策があるとか言ってたな。面倒な事にならなきゃいいが」


 スコルは独り言のように呟く。それは僕も聞いた。秘策って言うくらいだから、きっと僕の思い付かないような策があるんだろう。


「秘策があるって自分から言うなんて、どうかしてるんじゃないかい」


 イソルダは信じられないと言った顔。確かに誰にも知られないよう秘密にするから秘策って言うんだろう。言ってしまっちゃ秘密にならない。とは言えどんな秘密なのかはオークの口からは聞けなかったんだけど。


「負け惜しみか、ただのはったりかもしれませんね」


 ディドはオークが話した事がただの嘘かもしれないと言った。その可能性もあり得なくもない。


「そうなんですかね。僕はあのオークが嘘を言っているようには見えませんでしたよ。根拠はないですけど」


 ただ、僕はそう思った。僕に嘘を見抜く力なんかないから、もしかしたらあのオークが嘘を言っただけかもしれない。でも、僕はなんとなく本当の事をいったんじゃないかと思った。やられた悔しさからか、気を失っていたせいで朦朧としていたのか、とにかく口が滑ったんじゃないかな。


「まぁ、何にせよ、まだ戦は続くってわけだ。まだディド達の力を借りる事になりそうだ」


 スコルがそう言った。


「わたしは一向に構いませんよ」


「あたいも抜ける気はないね。また戦えるなんて楽しみだよ」


「……問題はない」


 ディド、イソルダ、コルガが応える。僕としても彼らとこれでお別れなんて事になったら困る。傭兵としての実力は身をもって証明してくれたから、この戦が終わるまでは一緒に戦って欲しい。


 彼らの言葉を聞いてスコルはにやりと笑ってみせた。スコルだってきっと僕と同じ気持ちに違いない。


「じゃあ、一旦村に戻るか」


「賛成」


 エリスが同意すると他のみんなも頷く。僕達はまたしても勝利を収めてタセンの村に戻る事ができる。みんなが活躍してくれたおかげだけど、今回は僕も少しは役に立ったと思う。戦場に出向いた時とは正反対に、村に戻る足取りは軽くなるってものだ。ただ、喜んでばかりもいられない。まだ、ノーザの村は諦めていないし、秘策があるかもしれないからだ。


 僕達がタセンの村に着くと、またもや入口にいた門番が駆け寄ってくる。前回もいた門番かな。


「今回はどうでしたか?」


 門番が尋ねてきた。


「今回も俺達の勝ちだよ。圧勝って奴だな」


 スコルは門番に答える。僕達は誰一人欠ける事なく五十人のオークを倒したんだから、圧勝と言っても差支えは無いだろう。


「では族長に……」


 と踵を返しかけた門番にスコルが話しかける。


「今回は俺から直接話すから、あんたはここで見張っててくれりゃいい」


 そう言うとスコルは村の中に入っていく。僕達もそれに続いた。やがて族長の家に辿り着いて、中に入る。すると僕達が戻ってきた事に気付いたのか、ガラテアとアリエルが顔を出した。


 ガラテア達は僕達を応接室に通して椅子に座るよう促した。


「で、今回はどうだった?」


 みんなが椅子に腰かけると同時にガラテアが尋ねてきた。ガラテアとアリエルは微笑みを浮かべているけど、なんだか胡散臭いくらいに平然としている。僕達が負けたとは思わないんだろうか。


「見りゃわかるだろう?俺達の勝ちだよ」


 スコルは当然とばかりに言った。まぁ、もし負けていたら今頃僕達は戦場に転がっていただろう。みんな無事に戻って来たんだから褒めて欲しいものだ。


「さすがね、自慢の息子だわ」


 アリエルはにっこりと笑いながら言った。スコルだけのおかげじゃないけど、アリエルがそう言うのも仕方がない。僕達のリーダーはスコルなんだから。


「もし僕達が負けていたら、どうしたんですか?」


 僕は思った事を口にした。


「ちょっと、イオったら」


 エリスがそう言った。僕の発言は空気を読んでいない発言だったらしい。せっかく勝ったのに負けた時の事を聞くなんて、確かにあまり聞くべき事じゃないのかもしれない。


 ガラテアとアリエルは顔を見合わせる。


「こちらも簡単に負けを認めるわけにはいかないからね。その時は村の戦士を集めて再戦だ」


 ガラテアはあっさりと言った。それを聞くと、なんだか僕達が勝とうが負けようがどちらでもいいような気さえしてくる。


「ぼうずの発言は気にしないでくれ。とにかく俺達は勝ったんだから」


「わかった。ところでノーザの村はまだ続ける気か?」


 ガラテアがスコルに聞いた。


「そうらしい。また次の戦は知らせが来るだろうから、それまではゆっくりさせてもらうぜ。俺達もそれなりに疲れてるんでな」


「知らせが来たら教えるから、それまでは好きにしなさい」


 ガラテアがそう言ってアリエルと一緒に部屋を出て行った。僕達が負けるまで、この村の戦士を戦に加勢させる気は一切ないらしい。僕としてもここまで来て加勢を頼むのは癪に障る。やれるところまでやってやろうじゃないか、という気分だ。


「よし、一段落した事だから、みんなで食事でもするか」


 スコルが提案すると、断る者は誰もいなかった。


 族長の家で食事をするのかと思ったけど、そうじゃなくて村の酒場にでも繰り出すらしい。


「金はたんまりあるんだから、豪勢な食事でもしようぜ。次の戦は今日ってわけじゃないだろうしな」


 というのがスコルの言い分。僕だって豪勢な食事が嫌いなわけじゃない。それにお金はスコルが出してくれるみたいだし。


 という事でタセンの村の酒場に僕達六人はいた。他のお客はオークだけで、僕達はかなり浮いた存在だ。珍しそうにじろじろと見られるのも無理もない。僕達が戦に勝って帰って来たって、もう噂もなっているんだろうか。


 とりあえず酒場の奥の席を確保して椅子にどっかりと座りこんだスコルが言う。


「さぁ、好きなだけ食うなり飲むなりしてくれ。みんなそれだけの働きをしたんだからな。ぼうずも酒はあまり好きじゃないみたいだが、最初の一杯くらいは付き合えよ」


 店員を見つけてお酒を注文するスコル。一杯くらいなら僕も飲むとしよう。他のみんなもそれぞれ食事を注文している。


「あたいは肉。とにかく肉が食いたい」


「あたし向けのはないから何でもいいわ」


 やがて僕達のテーブルにはお酒と食事が所狭しと並べられた。お酒は泡立つ黄金色のビール。僕は苦いからあまり好きじゃないけど、スコルが言うにはその苦さとのど越しが最高なんだそうだ。食事は山盛りの何かの肉。何の肉かわからないのが怖いけど、香ばしく焼いた肉のいい匂いがする。それに湯気を立てるスープ。焼いた魚。僕は一人で小屋にいた時は結構ゲテモノも食べていたから、こんな程度なら軽いものだ。


「よーし、みんな酒は持ったな。それじゃあ今日の勝利を祝して……乾杯!」


 スコルの音頭で今日の戦の勝利を祝う宴会が始まった。

勝利の宴

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