第23話 二回目の戦2
矢を射られたイオ達
ノーザのオーク達が放った矢が迫ってくる。僕はまず浮遊の術で矢の動きを止めようかと思ったけど、さすがに矢の数が多過ぎる。二、三本ならともかく十本を超える矢を一度に止めるのは難しい。という事で僕達の前に防壁を張る事にした。魔力を壁のように広げていくと目には見えない防壁の出来上がり。結構ぎりぎりだったけどうまくいった。こちらに向かってきた矢は防壁に当たって跳ね返り、地面にポトポトと落ちていく。
「防壁の術ですか」
ディドが自分達の目の前で落ちていく矢を見て感心したように呟いた。
「やるじゃない」
イソルダが僕の背中をポンと叩いて言ってくれた。こうやって感心してくれたり褒めてくれたりしたら、魔術を覚えた甲斐があるってものだ。僕は少し得意な気分になってスコルの方を見た。
「これくらい出来て当たり前だろ。みんなあんまりぼうずを甘やかすなよ」
あいにくスコルは褒めてくれなかった。まぁ、僕がこれくらい出来て当たり前の魔術を身につけていると思ってくれているという事にしておこう。
一方、矢を放ったノーザのオーク達はみんな何が起こったのかと顔を見合わせていた。オークの次元では魔術で矢を防がれるって経験はなかなか出来ないものなのかもしれない。しばらくして気を取り直したようにまたリーダーの号令で矢を射ってきた。でも、こんな程度の矢では僕の防壁はびくともしない。いつだったか、大きな石を物凄い勢いでぶつけられても耐えたんだから。続けて三回目の矢が放たれたけど、僕の防壁に阻まれて僕達まで届かない。
それで矢の無駄遣いだとわかったらしい。ノーザのオーク達は弓をしまって、剣や槍を構えだした。
「よーし、防壁はもう十分だ。ここからは接近戦ってとこだな。その前にディド。お前さんの弓の腕前をちょいと見せてくれ」
スコルはディドに向かって言った。
「いいですとも」
ディドは目にも止まらぬ速さで弓に矢をつがえる。僕は慌てて防壁の術を解いた。と同時にディドの弓から矢が放たれる。向こうに並んで立っていたオーク達の中の二人が倒れ込んだ。これから突撃しようとしていたところを射られて驚いたらしい。自分達の矢が効かないから、僕達の方からも矢は飛んでこないとでも思っていたんだろうか。仲間が矢に射られたとわかり、盾を持っていたオークが慌てて前に出てくる。そこにディドの二射目が飛んでいく。盾を持ったオークの足に正確に矢が刺さった。足を押さえこんで倒れるオーク。一射目は二本の矢を同時に射って、二射目は盾で隠されていない足に。僕は弓矢を扱った事はほどんどないから、どれほど難しいのかはわからないけど、一朝一夕で身に着くような技じゃないだろう。
「ほっほーう、なかなかの腕前じゃないか。あいつら驚いてるぜ」
矢に射られたオーク達を眺めながらスコルが楽しそうに言った。
「ちょっと、スコル。ディドの弓はもういいでしょ。あたし達の出番がなくなっちゃうじゃない」
「そうだよ。まだあたい達何にもしてないんだから」
エリスとイソルダが口々に不満を言った。彼女達はどうも暴れたくて仕方がないらしい。一人無言のコルガは何を考えているのかわからないけど、合図すればいつでも敵陣に切り込む準備は万端と言った感じ。
「悪い悪い。じゃあ、ここからはみんな好きにやってくれ。ぼうずは後ろで援護だ、いいな?」
スコルの言葉に僕は頷く。僕も役に立ちたい気はあるけど、わざわざ戦場の真っただ中にいるより、一歩引いた方が全体が見えていいかもしれない。
スコル、エリス、ディド、コルガ、イソルダの五人が一歩前へ出る。ディドは剣を持っている。コルガは斧を持っている。イソルダは大きな金棒。スコルとエリスは素手だ。エリスは、まぁ彼女は魔術も使えるからいいとして、スコルは大丈夫だろうか。彼は魔術を封印されているから本当に自分の体のみだ。素手の戦いが古き良きオークの戦なのかもしれないけど、心配だなぁ。
僕の心配を余所に僕達とノーザのオーク達との距離は少しずつ近づいていく。矢でやられた仲間の分も痛めつけてやろうとしているのか、向こうもやる気に満ちているみたい。距離が十メートル程になったところで、ノーザのリーダーと思しきオークが声を上げると、他のオークも一斉に鬨の声を上げる。
というわけで、ここから本格的に開戦になった。五十人近いオーク達がスコル達に向けて駆ける。
僕は自分の身の安全を一番に考えていた。飛行の術で空に飛んで敵を避けようかとも思ったけど、ノーザのオーク達は少し後ろにいる僕なんか眼中にないみたいだ。これなら思う存分魔術を使う事ができそうだ。
まず初めの一撃を加えたのはイソルダだった。彼女が力任せに振りまわした金棒がオークに当たる。当たったオークは数メートルは吹き飛ばされていく。飛んでいくオークは仮にもオークの戦士だからかなりいい体格をしていたけど、まるで放り投げられた木の枝みたいに回転して地面にぶつかる。あんな風に飛んでいったんじゃ、無事には済まないだろうな。それを見た他のオークは怖気づいたように動きが止まった。
「さぁ!来な!」
イソルダが声を上げる。オーク達も戦士のプライドがあるんだろう。いつまでも止まったままじゃなかった。五人のオークが一斉にイソルダに飛びかかる。でも、そのオーク達は一人はスコルに腕を取られて投げ飛ばされ、一人はエリスの拳で殴られ、一人はディドの剣で切られ、一人はコルガの斧で切られ、一人はイソルダの振り下ろした金棒で殴られる。みんな一緒に戦うのは初めてなのに息が合ってるじゃないか。僕は思わず感心してしまった。こりゃ僕の出る幕はないかもしれない。
オーク達はスコル達に襲いかかるけど、その度に返り討ちにされている。
スコルは素手でオークを殴りつけたり、投げ飛ばしたり。自分に向かって振り下ろされた剣を両手で挟んで受け止めたりもしていた。彼が一流の戦士でもあったと言うのを僕も認めざるを得ない。魔術がなくったって戦士として十分やっていけそうだ。
エリスは体を霧に変えてしまう術なのか吸血鬼特有の能力なのか、オーク達はそのせいで彼女に傷一つつける事はできない。無駄な攻撃をさせられたオークはエリスの拳をくらって昏倒していく。
ディドの剣術も見事なものだ。切りかかってくるオークの剣を鮮やかに避けては切りつけ、受け流しては切りつけ、次々とオーク達を倒していく。
コルガは無口で恥ずかしがりというだけではないらしい。雄たけびをあげなから斧を振りまわしてオークを倒していく。斧を振りまわす彼はちょっとした竜巻のようなものだ。ドワーフは背が小さいけど、やっぱり甘く見ちゃいけない。ノーザのオーク達は一番小さい彼を最初に倒してしまおうと狙いをつけたみたいだけど、そう簡単にはいかない。飛びかかったオークはあえなく竜巻に巻き込まれて地面に倒れ伏すばかり。
イソルダは相変わらず大きな金棒を振りまわしてオークを吹き飛ばしている。実に楽しそうだ。ただ、武器が大きいだけに振った後に隙ができるらしい。その隙をついて攻撃しようとするオークの武器を僕は浮遊の術で浮かせて取り上げてしまった。突然自分の剣が宙に飛んでいってしまったオークはあっけにとられてしまい、イソルダの振る金棒の餌食に。
僕だってのんびり見物していただけじゃない。スコル達の背後に回って攻撃しようとするオークの武器を取り上げたり、防壁を張って防いだりしていた。
戦は続く




