第22話 二回目の戦1
イオは仲間と話をして……
「どっちが勝ったんですか?」
僕は興味津々に尋ねてみた。
「決着はついてないんだよ。途中であんたが来たからね」
イソルダが答えた。さっきはおしゃべりしてたなんて言ってたけど、実は僕が来る直前まで腕相撲で力比べをしていたのか。
「なんだ、僕はお邪魔でしたか?」
僕が勝負に水を差してしまったかと思い聞いてみた。
「いや、いいんだよ。あのまま続けていたらテーブルでも壊してたかもしれないしね」
イソルダは僕に気にするなという風に言った。テーブルを壊してしまうほどの腕相撲ってどんなだろうか。まぁ、この二人ならやりかねない気もする。
「そうそう、引き分けって事にしておきましょうよ」
エリスが言った。二人とも力比べをしていたにしては息を切らす事もなく平然としている。戦の前だから体力を消耗しないように力を抑えていたって事なんだろうか。
「あたいも腕力には自信を持ってたんだけどね。見た目は細くてもさすが吸血鬼って事を思い知ったよ。そのエリスはスコルとイオの事を信頼しているみたいだから、あたいもあんた達を魔術師だからって邪険に扱う気はないよ」
イソルダの言葉から察するに、エリスとの力比べをしたおかげで、魔術師に対する考えが少し修正されたみたいだ。
「そりゃよかった。僕だってあなたが売り出し中の傭兵だからって軽く見るつもりはありません、重要な戦力です」
僕はイソルダの目を見て言った。売り出し中だろうがもう仲間だ。僕は彼女の事も頼りにしている。
「そうかい。なら、明日は存分に暴れ回ってやろうじゃないか。腕が鳴るよ」
イソルダは右手で作った拳と左の手の平を打ち合わせた。打ち合わせた音の力強い事、間にりんごでもあったら粉々になっていただろう。
「えぇ、頼みましたよ、イソルダ。エリスも」
僕は二人を見て言った。
「任せておいて」
エリスは片目をつぶって答えた。
「そろそろ、僕はお暇しますよ」
そう言って僕は部屋から出る、部屋の戸を閉める直前に、
「じゃあね、また明日」
とエリスの声が聞こえてきた。よーし、いよいよ明日だ。誰一人欠ける事なく終えてみせるぞ。決意を胸に自分の部屋に戻った。部屋に入るとスコルは相変わらず横になっている。ぼくはそっともう一つのベッドに入って目をつぶった。
「おい!起きろ、ぼうず!いつまで寝る気だ」
僕はスコルのどなり声で目が覚めた。おかしいな、ついさっきベッドに入ったと思ったのに、もう朝になっているみたいだ。
「今日は戦だっていうのに、ぐっすり眠りやがって。いい度胸してるぜ、お前さん」
スコルにそう言われるのも無理はない。戦の前に緊張して眠れないなんて事もなく、僕は熟睡していた。いろいろあったから案外僕は図太い神経になっているのかもしれない。
「さっさと下にいくぞ」
急かされて僕はまだ寝ぼけたままスコルについていった。下に降りていつもの応接室に入ると、みんな揃っていた。僕みたいに眠りこけていたなんて事はないのはさすがと言うべきか、当たり前と言うべきか。
みんないつもより引き締まった顔をしているように見えるのは僕の気のせいだろうか。僕はあくびが出そうになるのをこらえて椅子に座った。
「よし、みんな準備はいいな?」
スコルも椅子に座って僕達を順番に見ながら言った。みんな黙って頷いていたけど、僕は起きたばかりでお腹が減っていた。
「あの~、何か食べてからじゃいけませんか?」
僕は空気も読まずにそう言った。こんなにお腹が減っていたんじゃ、魔術もうまく扱えないかもしれない。僕の発言で緊張感の漂っていた部屋の空気は一変。みんなクスクス笑い出した。あのコルガでさえ頬が緩んでいるじゃないか。
「まったく緊張感のない奴だな。みんな食事は済ませてるんだよ。寝坊したお前さんが悪いんだぜ」
スコルはため息を一つついてから言った。
「いいじゃないの、スコル。イオもお腹が空いてちゃ実力を発揮できないでしょ。あたしが持ってきてあげるわ」
そう言ってエリスが部屋から出ていった。しばらくして戻ってくると温かそうなスープとパンを僕の前に置いてくれた。
「ありがとうございます」
僕はお礼を言って、パンにがっつく。腹が減っては戦が出来ぬって言葉を聞いた事がある気がする。まさにそんな状態だったから、僕の言動を大目に見てくれてもいいんじゃないかな。
「ぼうずはともかく、他のみんなは準備はいいな?」
朝食をむさぼる僕を横目で見つつスコルが言った。みんな頷いている。
「じゃあ、ぼうずの飯が終わったら出発だ」
スコルがそう言ったので、僕は食べるスピードを速めた。僕の食事でみんなを待たせるのは悪い気がしたけど、お腹が減ってたんだから仕方ないじゃないか。
僕が食事を済ませたところで族長の家を出た。前回と同じ場所でって話しだったから、場所は大体わかっている。また村の中を歩いて北に向かっていく。村のオーク達はみんな好奇の視線を浴びせてくる。オークに吸血鬼に人間ってだけでも珍しかったのに、そこにエルフにドワーフにオーガーが加わったんだから、余計に珍しいんだろう。僕だって何も知らずにそんな一団を見かけたら思わず見てしまう。
村のオーク達の視線に晒されながらも村を抜けて戦場へ。平原を歩いて行くと、見覚えのある場所に着いた。前回はオークが十人だったけど、今回は五十人近くいるように見える。こりゃ僕が思っていたより数が多いや。せいぜい倍の二十人くらいだと思ってたんだけどな。半数のオークは弓を持っている。
「あれがあたい達の相手かい?」
イソルダが口を開く。
「そうらしいな」
スコルがそれに答える。すると僕達に気付いたノーザの村の一団から一人のオークがこちらに駆けてくる。
「お前らタセンの村の奴らだな?」
「あぁ、そうだ」
オークにスコルが答える。
「噂に聞いていた通りだな。よし、始めるか」
スコルの答えを聞いたオークが戻っていった。どんな噂を聞いたのか知らないけど、きっと魔術師が相手だって事で数を集めたに違いない。
「作戦って程のものは特に考えてないんだ。エリス、ディド、コルガ、イソルダはそれぞれ好きなように戦ってくれ」
スコルが僕達の方に向き直って言った。
「僕はどうするんです?」
名前を呼ばれなかった僕はスコルに聞いてみた。
「お前さんは後方支援ってところだ。一番やわなんだから前に出ると危ないからな」
スコルは僕にそう告げた。僕だけ後ろに下がっていていいんだろうか。みんなの顔を見回してみたけど、特に不満を言う者はいなかった。
「後ろからの援護も重要な役割です。任せましたよ」
ディドが僕を見て言った。一瞬なんだか僕だけ除け者にされた気分だったから、そう言ってくれて助かった。
「あんまり後ろでぼーっとしてるとあたい達だけでやっつけちゃうぜ」
イソルダも僕に声をかけてくる。
「おい、そろそろ始まるぜ」
僕はイソルダに何か言おうとしたけど、その前にスコルの声が聞こえた。彼の言う通り、向こうにいたノーザの村の戦士達がこちらを向いて並んでいる。僕達に向けて弓を射るつもりらしい。あんなにたくさんの弓を一斉に射られたら、霧になれるエリスはともかく他のみんなはひとたまりもないじゃないか。僕はそう考えて体が固まってしまった。
「ぼうず、後方支援だなんて言ったが、さっそく出番だぞ。俺達に矢が当たらないように防いでくれ」
スコルの言葉に僕は我に返る。そうか、僕が魔術で防げばいいだけだ。
「わかりました!」
僕が返事をすると、ノーザの村のオーク達のリーダーと思しきオークが何か号令をかける。どうやら始まりの合図だったようで、僕達に向けて矢が放たれた。
また戦の始まり




