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第21話 戦の前に

みんなの様子が気になるイオ

 とりあえず僕は族長の家の二階の部屋に籠もった。タセンの村を観光がてらに見て回るというのも考えたけど、どうも戦の前にそんな事している場合じゃない気がした。それに村のオーク達の注目の的になるんじゃないかと思ったから。じろじろと見られるのはまだ慣れていない。


 明日の戦がどれくらいの規模になるかはわからない。僕達も傭兵が三人増えたけど、それだけじゃ手が回らないかもしれない。もしかしたら、僕のつたない魔術が必要になるかもしれないと考えると、今のうちに魔力をたっぷりと蓄えておいた方が良さそうだ。僕は部屋の中央にあぐらをかいて座ると、目を閉じて魔力泉を探す。それはすぐに見つかったので、僕はそこから自分の体に魔力を導いてきた。


 しばらくそうしていると、部屋の戸が開く音がして誰かが入ってきた。僕が目を開けてそちらを見ると、スコルがいた。


「魔力を蓄えているみたいだな。お前さんの事だから、そこらをほっつき歩いてると思ったが」


 スコルは僕に声をかけてきた。


「いくら僕でも戦の前に遊び歩いたりはしませんよ」


 僕はそんな事考えてもいないかのように答えた。本当は少し考えていたんだけど。


「そうか?戦じゃ何があるかわからんからな。戦の前にやりたかった事をやっちまおうと無茶する奴もいるもんだが」


 スコルは言った。確かに明日死ぬかもしれないとなったら、やり残した事がないようにしておきたい。でも、僕は不思議と明日の戦も勝てるんじゃないかと心の片隅で思っている。前回はエリスだけで勝ってしまったから、今回も何とかなるんじゃないかと思っている。もしかしたら僕の考えが甘いだけかもしれないけど。


「なんだか縁起の悪い事を言わないでくださいよ。僕は戦で死ぬ気なんてありませんよ」


 スコルに向かって僕は強気な事を言った。


「俺だってそんなに簡単にくたばっちまうような間抜けな弟子は御免だね。でも、逃げだそうなんて言わないだけでも、ちょっとは成長したってもんだ」


 おっと、スコルが僕が成長したなんて言ってくれるなんて珍しい事もあるものだ。そんな事を言われると逆に不吉な予感がしてくる。


「そうですかね。楽観的になっているというか、なにかわからないですけど、大丈夫なんじゃないかと思ってるんです」


 僕は不吉な予感がしながらも、今の自分の気持ちを話した。特に根拠はないけれど、何とかなると思ってるんだ。


「まぁ、怯えて何もできなくなるよりかは、いいかもな。ただし、あんまり気を抜くんじゃないぞ」


 スコルは僕に注意してきた。僕も楽観的にはなっていても、気を抜くつもりはない。僕は頷いた。


「ところで、他のみんなはどうしてますか?」


 僕は不意に気になった事を口にした。


「さあな、みんな部屋にいるんじゃないか。気になるならのぞいてこいよ」


 スコルは特に興味はないみたいで、ベッドに横になってしまった。


 僕はみんながどんな様子か気になったので部屋を出た。二階には僕のいた部屋の他に二つ部屋がある。それぞれ、エリスとイソルダ、ディドとコルガが使っているはずだ。


 僕はまず隣の部屋の戸をノックしてみた。


「はい、どうぞ」


 返事がしたので、僕は戸を開けてみる。部屋の中ではディドとコルガがそれぞれ武器の手入れをしているみたいだ。さっきの返事はディドだろう。恥ずかしがりのコルガが返事をしてくれるとは思えない。


「イオ、何かご用ですか?」


 ディドが手を止めて僕に尋ねてきた。コルガは一瞬僕の方を見ただけで、武器の手入れを続けている。


「いえ、用って程の事はないんですけど、どうしているのかなと思いまして」


 僕はただ様子が気になっただけなのでそう言った。


「見ての通り、戦の準備ですよ」


 ディドは手入れをしていた剣と弓を指差した。コルガの方は愛用しているであろう斧を磨いている。


「すみません、お邪魔でしたか?」


 戦の準備の邪魔をしてしまったかと思い僕は尋ねてみた。そう聞いたところでディドは邪魔だなんて言わない性格だろうというのは、なんとなくわかる。


「いえいえ、そんな事ありませんよ。雇い主が傭兵の事を気にかけてくれるなんてありがたい事です」


 ディドの返事は予想通りだったけど、彼の言葉が気になった。


「仲間なんだから気にかけるのは当たり前じゃないですか。そうじゃない人なんていますか?」


「わたしも傭兵をして長いですからね、いろいろな方に雇われてきました。中には傭兵の事をまったく気にかけない、捨て駒としか見ていないような方もいましたよ」


 うーん、ディドがそう言うんだから否定はできない。そういう人もいたんだろう。でも、僕達はそうじゃないって言っておいた方がいいような気がする。


「えっとですね、お金で雇ったとは言え、僕達は仲間だと思っています。あなた達の事を頼りにしています。戦ですから危険な事もしなきゃならないでしょうが、決してあなた達の事を捨て駒だなんて思ったりしません。スコルだってエリスだって、きっとそう思っているはずです」


 僕の言葉を聞いてディドは真面目な顔で頷く。


「そんな事を言ってくれるなんて、あなたはいい人間のようですね。ねぇ、コルガ」


「……」


 コルガも手を休めないまま頷く。


「えっと、とにかく明日はよろしくお願いしますね」


 なんだが気恥しくなった僕はそう言って部屋から出た。スコルやエリスが本当はどう思っているのかはわからないけど、僕の思いは嘘偽りのないものだ。彼らがいるおかげで僕は多少なりとも楽観的になれているんだから。


 僕はそう考えながら次の戸をノックしてみた。


「はーい、だぁれ?」


 エリスの声が聞こえてきた。


「僕です」


 僕が答えると戸が開いた。


「イオ、どうかしたの?」


 不思議そうにエリスが言った。


「どうもしてないですよ。みんながどうしてるのか気になっただけです」


「そうなの。中に入ってもいいわよ」


 エリスが招いてくれたので僕は部屋の中に入った。女性だけの部屋に入るっていうのは、ちょっと緊張するなぁ。部屋の中にはイソルダもいた。彼女は体が大きいから部屋が狭く感じる。


「何をしていたんですか?」


 僕は二人に聞いてみた。エリスとイソルダは顔を見合わせる。


「別に何も。おしゃべりしてただけよ」


「そうだね。それにしても……」


 イソルダは僕をじろじろと見た。そんなに見られるとなんだか落ち着かないな。


「あんた達魔術師なんだって?あんたは戦士にしちゃやわそうだと思ったよ。エリスもだけど」


「えぇ、まだ見習いですけどね」


 そう言えばイソルダに僕達が魔術師だって事は言ってなかったっけ。彼女の口調に少し棘があるような気がして聞いてみた。


「魔術師は嫌いですか?」


「魔術師って嘘つきではったりばかりの奴なんじゃないかって、あたいは思っていてね。雇い主を悪く言うつもりはないけど」


 イソルダは悪びれもせずにそう言った。まぁ、僕はそう言われても気にしない。まだ見習いだし、たいした魔術が使えるわけでもない。スコルは嘘つきのはったりと言われてもしょうがない。僕を騙していた前科があるんだから。


「僕はたいした事はないですけど、エリスの実力は折り紙つきですよ。前の戦も一人で十人のオークを倒しちゃったんですから」


「あたいはエリスの魔術の腕前は見てないけど、彼女が強いって事は認めるよ」


 とイソルダはあっさりと言った。


「へぇ、どうしてです?」


「彼女が吸血鬼って聞いてね。物は試しに力比べの腕相撲をしてみたのさ」


 イソルダが説明する。吸血鬼とオーガーの力比べか、見られなかったのが少し残念。

力比べの結果は?

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