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第15話 初めての戦

戦いの始まり

 村からだいぶ離れたところまで歩いてきた。そこには十人ほどのオークがたむろしていた。このオーク達がノーザという村のオークなんだろうか。僕達は歩いてオーク達に近づいていく。オーク達はとっくに僕達の存在に気付いているみたいだけど、旅行者か何かと思っているんだろうか。何か話しあっているみたいで、僕達が戦の相手とは露ほども考えていないらしい。だけど、彼らのすぐ近くまで行って歩みを止めると、さすがに怪しいと思ったんだろう、不審そうに僕達を見ながら声をかけてきた。


「なんだ?お前らは?」


 大きな棍棒を担いだオークがじろじろと僕達を見ている。オーク達はみんな鉄の甲冑とまではいかないけど、肩当てや胸当てを身に着けていて武器を帯びている。僕の偏見かもしれないけど、彼らは凶悪そうな顔をしていて、明らかにただの村人じゃない。


「お前らノーザの村の戦士だよな?」


 スコルがオーク達に聞き返した。彼らはその言葉を聞いて互いに顔を見合わせている。


「まさかタセンの村の奴らか?」


 一人のオークがようやくピンと来たようで驚いたような声を出した。それを聞いた他のオーク達が次々と口を開く。


「そんなわけあるかよ。冗談も休み休みに言え」


「こいつらただの通りすがりだろ?危ないから引っ込んでろよ」


「たったの三人、しかもオークが一人で残りは人間だと?俺達をなめてやがるのか?」


 オーク達のざわめきが静まるまで、スコルはたっぷりと待つみたいだ。その間に僕は気になった事をこっそりとスコルに聞いてみる。


「タセンってどこの事ですか?」


「俺達のいた村だよ」


 僕達はタセンの代表ってわけか。そのやり取りの間にもオーク達は口々に自分の考えを披露している。やがて話す事がなくなったのか、静かになってきた。どこにも行こうとしない僕達の様子を見て、オーク達の中の一人がおそるおそるという感じで話しかけてくる。


「まさかお前ら本当に……」


「そのまさかだよ。俺達が相手になってやるよ」


 スコルはオークに最後まで言わせずに口を挟んだ。


「嘘だろ!」


「こんな奴らが相手かよ」


「やっぱり俺達なめられてるぜ!」


 スコルの発言を聞いたオーク達がまたざわめき始めた。彼らが怒るのも無理はない気がする。オークとオークの激しい戦闘があると思っていたら、相手はたったの三人。しかも内の二人はオークじゃないんだから。自分達が虚仮にされていると憤慨するのも仕方ない。


「お前ら武器も防具も持ってないじゃねぇか」


 別のオークが僕達を指差しながら指摘した。彼はまだ僕達が戦の相手という事に納得がいっていないらしい。


「俺達には武器も防具も必要ないのさ」


 スコルは相手を馬鹿にするようにそう言った。正確には僕はズボンと腰の間に一本ナイフを隠し持っている。だけど、ノーザの戦士達が持っている大きな棍棒に剣、槍に比べたら、こんな小さなナイフは無いに等しいってものだ。


「何言ってやがんだ。これから戦をしようってのに」


 スコルの発言に理解できないという顔でオークが言った。普通に考えればそうだろう。ここで戦を始めようとしているんだから、装備を整えてやってくるのが当たり前だ。僕達みたいに丸腰の相手がやってきたんだから、相手もびっくり驚いたろう。


「いいからいいから。お前らの相手なんて軽いもんだ。エリス、軽ーくあいつらをひねってやってくれ」


 スコルはエリスの肩に手を置いて言った。てっきり自分で相手をするのかと思ったら、エリスに任せるのか。彼女が見た目以上に強いのは僕も知っている。以前オークの魔術師と対決していたけど、彼女の圧勝という感じだったから。


「何よ、あたしがやるの?」


 意外そうにエリスが言った。スコルは声を落として彼女にお願いをする。


「お前が一番戦力になるんだから、ひとつびびらせてやってくれ。頼むよ」


 オーク達に偉そうな事を言っておいて、エリスに相手を任せるんだから、スコルも調子がいいんだから。


「仕方ないわね。まぁ、あたしも楽しみにしてたし、いいわよ。やってあげる」


 エリスはスコルを責める気もないみたいで、あっさりと承諾してしまった。彼女にしてみれば、十人のオークもたいした事はないんだろう。エリスはオーク達の前に進み出ていく。


「俺達は下がって見物といこうぜ」


 スコルはそう言って、そろりそろりと後ろに下がっていく。僕もそれに従って後ろに下がった。


「この女が戦うってのか?冗談もほどほどにしてくれよ」


 一人で前に出てきたエリスに向かってオークが吐き捨てるように言った。彼らから見れば、人間の女性が一人で十人のオークを相手にしようとしているように見えたに違いない。僕は自分が戦えと言われなかった事にほっと安心。彼女に任せておけば大丈夫かな。もし、危なそうなら僕も加勢する事を覚悟した方がいいかもしれない。


「どうしたの?あたしが怖い?」


 オークに対して挑発するような言葉を口にするエリス。これにはオークもプライドを傷つけられたと感じたのか、声を低くして唸る様に言葉を返す。


「誰が怖がってるだって?謝っても遅いぞ」


 そのオークは威嚇するように棍棒を振った。エリスは相変わらずその場を動かない。怖がらない彼女の態度が気に喰わなかったのか、オークはとうとうエリスの肩の辺りを目がけて棍棒を振り下ろした。


 が、棍棒は空振り。彼女が避けたわけじゃない。棍棒を振り下ろされた部分が霧になっているみたいだ。棍棒はそのまま地面にドカリとぶつかって土を跳ね上げる。


 それに驚いたオークは目を丸くしている。霧になったエリスがオークの後ろに回り込むと実体化して、歯を見せながら笑う。


「血を吸っちゃうわよ」


 エリスがそのオークに声をかけると、振り向いたオークは大きな声を上げた。彼女の白い肌、人間よりも鋭く長い犬歯、真っ赤な瞳を見て正体がわかったらしい。


「うわ!?こいつ人間じゃない!吸血鬼だぞ!」


 途端にオーク達は大混乱。


「この野郎!」


 とオークの背後にいるエリス目がけて別のオークが剣を振る。するとまたもや体を霧に変えたエリスを素通りして、そこにいたオークに剣が当たる。


「何しやがる!?」


 肩当てに当たったからたいした怪我はしなかったみたいだけど、仲間に攻撃されたオークは驚いて睨んだ。


「違うんだよ。その女を狙ったんだが……」


 剣を振ったオークは弁解しようとエリスの方を指差した。ところが彼女は目にも止まらぬ速さで別のオークの目の前へ。


「そっちにいったぞ!」


 オークが声を上げると、


「まかせろ!」


 エリスの前にいたオークが言って、斧を振るう。でも、彼女には当たらず空を切るばかり。エリスが腕を振ると、そのオークはまるで風に吹き飛ばされる木の葉のように宙を舞った。地面に激突したオークはうめき声を上げると失神。


 それを見た他のオーク達が槍や剣でエリスを突くけど、霧に変化した体は傷付けようがない。


「見てる分には面白いもんだろ?」


 スコルは可笑しそうに笑いながら僕に言った。


「あのオーク達は真剣なんだから、笑っちゃいけないんでしょうけどね」


 僕は必死に武器を振るう戦士を笑うのは、なんだか悪い気がして笑いをこらえた。だけど、傍から見るともう勝負はついているように見える。いくらオークの方が数が多かろうが、攻撃が当たらないんじゃどうしようもない。無駄な攻撃をさせられた挙句、エリスが腕を振るだけで吹き飛ばされる。もう半分は地面に倒れ伏して、気絶しているか、痛みの呻き声を上げているかだ。


 その時、またもやエリスの魔術によってオークが僕達目がけてすっ飛んで来た。

戦いは続く?

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