第14話 戦の話2
ガラテアとアリエルと話す
「それじゃあ、戦について話しておこう」
昨日と同じように椅子に座った僕達の向かいにはガラテアとアリエル。ガラテアが話し出した時にスコルが口を挟んだ。
「その前に親父にお袋、一つ話してなかった事があるんだけどな……」
「何だ?」
言葉を切ったスコルの先を促すガラテア。
「実は俺は魔術を封印されてるんだよ。俺自身は魔術を発揮できないってわけだ」
それを聞いたスコルの両親は驚いて目を丸くしていた。こんな大事な事を今まで言わなかったんだから、渡したお金を返せと言われるんじゃないだろうか。僕は彼らの反応が気になって、黙ってじっと見つめていた。
「本当か?」
ガラテアがスコルに確認した。
「あぁ」
スコルは堂々と頷いてみせる。
「そうか」
そう言ってガラテアはアリエルの方を見る。
「そんな事を黙ってるなんてね、この子は」
アリエルは首を横に振ってため息をついている。二人ともスコルに魔術師としての活躍を期待していたんだろうな。これじゃ、騙したみたいなものだ。でも、スコルは悪びれもせずに言う。
「魔術は使えないが、知っての通り俺は戦士としても役に立つぜ。もらった金の分はきっちり働いてみせるさ。それに俺が魔術を教えてやっている弟子もいる。エリスだって吸血鬼なんだから戦じゃ百人力だぜ」
彼の代わりになるくらいに僕の事を評価してくれているなんて驚いたな。なんて思っちゃいけないんだろう。きっと魔術を使えないならお金を返せと言われると思って適当な事を言っているに違いない。
「そこまで言うなら、文句は言わないでおこうか。ちゃんと役に立ってくれる気があるみたいだからな」
実の息子の言い分を信じたのか、それとも何を言っても仕方がないと思ったのか、ガラテアはあっさりとスコルの事を許してくれたみたい。
「で、戦はどことやっているんだ?」
スコルがガラテアに尋ねた。
「ここから北にあるノーザという村と戦になっているんだ。村の規模はこことたいして変わりないから、戦力は五分というところだな」
ガラテアが答える。
「もう総力戦ってところか?」
またスコルが尋ねた。
「まだ前哨戦だ。戦になったのは十人程度だな」
総力戦とか前哨戦って何だろうか。僕は気が引けたけど口を挟む。僕だって戦に参加するんだから知る権利はあるよね。
「総力戦とか前哨戦ってどういう事ですか?」
「言葉通りの意味だよ。戦には段階があるんだ。最初は様子見ってところで小規模の戦闘が起こる。だんだん人数やらが増えていって、最終的には全戦力を投入する事になるんだ。総力戦までいく事はあまりないんだがな。たいていはそこにいくまでにどちらかが折れて決着ってのが多いんだ」
スコルが教えてくれた。彼の言っている通りなら、まだ戦が本格的には始まっていないって事か。彼は続けて言う。
「早いうちに相手を叩きのめしてやりゃ、諦めてくれてそこで俺達の勝ちにできるかもな」
「そんなにうまくいくかしら?」
エリスが疑問を口にする。確かに都合が良すぎる気もするけど、僕としては大規模な戦闘になる前に収まってくれた方がいい。
「こっちには奴らよりも戦力があるんだぞって見せつけてやればいいんだよ」
スコルは得意げに言った。
「その通り。だから今度の戦ではお前達だけで追い返してもらえるか?」
ガラテアがスコルの言葉を聞いて頷いてから言った。
「え?」
僕は耳を疑ってしまった。僕達だけで戦をしろって言ったのかな。まさかね、さすがに三人だけで戦えなんて言わないよ。僕は今のガラテアの言葉が言い間違いか聞き間違いだと期待したけど、そうじゃなかった。
「こちらの戦力はなるべく温存しておきたいんだよ。それにお前達だけで相手をしてやれば、向こうも敵わないと怖気づくかもしれん」
ガラテアはにこやかに笑いながら言った。さすがにスコルも無茶苦茶だと思ったんだろう。ガラテアに反論しようとする。
「だからって……」
「払ったお金の分は働いてくれるって言ったわよね?今こそ腕の見せ所よ」
今度はアリエルが言った。確かにもらったお金の分は働いてみせるとスコルは言ったけど、こんな事を言われるなんて思ってなかっただろう。
「大丈夫、まだたいした戦力は投入されないさ。弟子と吸血鬼の魔術を使えば対処できる。それにもし敵わないと思ったなら、すぐに知らせてくれれば増援を送ってやるさ」
ガラテアがスコルの神経を逆なでするような事を言った。スコルは魔術に対して自信を持っているんだから、増援を送ってくれなんて情けない事言わないんじゃないかな。どうも僕達がかなりの金額をせしめた事や、スコルが魔術を使えない事を黙っていた事に対する嫌がらせのような気もする。
「わかった。今度は俺達だけでやってやるよ。増援なんか必要ない」
案の定スコルは意地になったみたいで、きっぱりとそう言った。なんとなくそう言うんじゃないかと思っていた。
「スコル……」
「黙ってろよ、ぼうず」
口を開いた僕の言葉はスコルの厳しい声で遮られた。僕はお金を少しでも返せばガラテア達の態度も変わるかもしれないとスコルに言いたかったけど、聞く耳を持ってくれないみたいだ。
助けを求めてエリスの方を見る。椅子に深く腰掛けていた彼女は僕の視線に気付いたけど、肩を竦めるだけて口を開く気はなさそうだ。
「よし、話は終わりだ。すぐに北へ向かってくれ。ノーザの奴らがそこにいるはずだ」
ガラテア達はそう言うと席を立ってしまった。自分の息子にこんな無理難題を押し付けていくなんて、ひどい話だ。でも、莫大な金額を要求したスコルにも非はあるのかもしれない。そもそも戦への加勢を断ろうとあんな事を言ったんだ。最初から素直に話を受けていれば無難に後方支援でも頼まれていたかもしれないな。今さら言っても遅いか。
しばらく僕達は無言で椅子に座っていた。
「行くぞ」
スコルはそう言うと立ち上がって部屋を出ていく。なんとか戦を先延ばしにしようと座り続ける僕にエリスが声をかけてくる。
「ほら、イオ。行くわよ」
彼女に腕を掴まれて僕はようやく立ち上がった。はぁ、後は戦場に向かうだけだ。
家を出たところでスコルが待っていた。僕は彼に話しかける。
「僕達だけで相手をするなんて予想してましたか?」
「ちょいと予想外だが、まだ前哨戦って言ってただろう?たいした人数は出てこないはずだ」
「そんなに心配しないで。あたしがついてるんだから」
スコルとエリスが僕を安心させようとしてくる。でも、戦なんてした事のない僕はどうしていいかわからず、途方に暮れた。
村の中を歩いている僕らに村人達が声をかけてくる。
「がんばれよ!」
「さすが魔術師様だ!」
どうも僕達だけで戦に行く事が噂になっているらしい。口々に応援の言葉や賞賛の言葉をかけてくる。三人だけで戦に向かうという勇気を褒め称えてくれているんだろう。負けて帰ってきたら、きっと罵りに変わっているに違いない。そもそも生きて帰ってこれるかわからないけど。
「ぼうず、今のうちに魔力をたっぷりと導いておけよ。ここらは人間の次元ほど魔力泉が豊富じゃないと言っただろう」
スコルが僕に言った。そう言えば来る前にそんな事を言ってたっけ。僕は慌てて目を閉じて魔力泉を探ってみた。すぐに見つかったけど、確かに僕の住んでいる小屋の付近に比べれば流れは弱い。でも、これくらいなら魔術を使えないって事はない。僕は歩きながら魔力を自分の体に導いてくる。
やがて僕達は村を村から出た。そして一面の平原を北に向けて歩いて行く。
戦に出向く




