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第11話 オークの村で

オークの村に入った一行

 オークの村は当たり前だけど、オークだらけだった。エリスの言った通り、いろんなオークがそこらを歩いている。がっしりした者、ほっそりした者、背の高い者、背の低い者。子供から年老いた者まで。確かに見た目は人間とは違うけど、僕のオークに対するイメージが偏ってたみたい。人間と同じようにいろんなオークがいるんだな。戦があったって聞いたから気になるだけかもしれないけど、鎧を着込んだオークが目立つような気もする。


 石をきれいに切り取ったものを重ねて作られている家が多い。この辺りは木があまり生えていないみたいだから、木は貴重なんだろうか。それとも木は脆いから石で作っているのかな。


 村の中心に向かって歩いている間、僕達はオーク達からじろじろと見られていた。人間と吸血鬼が並んで歩いているんだから、珍しいんだろう。エルフのマーケットにはいろんな種族がいたから目立たなかったけど、ここにはオークしかいない。


 なれるかどうかはともかく、僕も偉大な魔術師を目指している身だ。いつかは大観衆の前で魔術を披露する機会があるかもしれないと思っていた。でも、それはまだ僕には早過ぎるらしい。道行くオークに注目されていると思うだけで、手足がこわばりそうになる。僕じゃなくてエリスを見ているのかもしれないけど、彼女の隣を歩いているから僕も見られている事には変わりはない。


「じろじろ見られてますけど、大丈夫ですかね?」


 僕は声をひそめてエリスに話しかける。


「なぁに?そんなに気になる?別の次元に行ったら、たいていこんなものよ」


 さすがに彼女は慣れたもので、むしろ視線を浴びるのを楽しんでいるみたいだ。


 見られているのは気になるけど、僕は少し意外だった。オークは好戦的だなんてスコルが言っていたから、僕みたいなよそ者が村に入ってきたら、からまれるなり、石を投げられるなりするんじゃないかと思っていた。温かい視線ってわけじゃないけど、見られるだけなら怪我もしないからましってものだろう。


 やがて、他の家よりも大きな石造りの家が見えてきた。多分あれが村長、というか族長の家なんだろう。その家の前にも見張りが一人。僕達三人を見て言う。


「族長が中でお待ちだ。入って右の部屋だ」


 その言葉を聞いてスコルが家の戸を開けて中に入った。僕とエリスもそれに続く。中に入ると通路がL字型になっている。見張りの言う通りに右に行く。スコルはつきあたりの部屋の戸を開けた。


 部屋の真ん中に大きな長方形のテーブル。テーブルの周りに椅子が置かれている。部屋の壁には剣や盾が飾ってある。中には何かの剝製だろうか。見た事のない動物の首も飾ってある。牙をむき出していかにも凶暴な肉食動物といった感じだ。きっとそこらの店で買ったものじゃなくて、自分で仕留めた獲物を記念に剝製にしたんだろうな。


 テーブルの向こう側にはオークが二人椅子に座っている。一人は男性でもう一人は女性。男性の方は肩幅の広いがっしりとした、いかにもオークらしい体つき。ただ、頭に包帯を巻いているし、腕が折れているのか三角巾で吊ってある。頬にも切り傷らしきものがあって痛々しい限りだ。女性の方はほっそりとしているけど、貧弱ってわけじゃない。シャツから出ている腕はまさに引き締まった筋肉といった感じ。女性とは言え、かなり力が強そうだ。


「よく来たな、スコル。久しぶりだ」


 男性のオークが立ち上がって微笑んだ。


「急に来るなんて。前もって言ってくれればいいのに」


 女性のオークもぶつぶつと言いながら立ち上がる。


「親父にお袋、久しぶり」


 スコルが言った。どうやらこのオーク達がスコルの両親らしい。師匠の両親に会うなんて、なんだか変な気分だ。


「後ろの二人は?」


 男性のオークが尋ねる。


「俺の友人、吸血鬼のエリスに、新しい弟子の人間のイオ。二人とも、親父のガラテアとお袋のアリエルだ」


 スコルが紹介してくた。


「どうも、スコルには魔術を教えてもらっています」


 僕はぺこりと頭を下げた。


「どうもぉ」


 エリスはにっこりと笑っている。


「吸血鬼に人間か。さすが魔術師といったところだな」


 ガラテアは感心したように言った。吸血鬼と人間を従えたオークなんて普通はお目にかかれないだろうな。


「息子がお世話になってるみたいね。よろしくね」


 アリエルがテーブル越しに片手を差し出してきた。


「よろしくぅ」


 エリスがそう言ってアリエルと握手をする。次は僕の番か。僕はおそるおそるアリエルの手を握る。彼女は軽く握ったつもりかもしれないけど、僕の手の骨は悲鳴を上げんばかり。思わず顔をしかめそうになるけど、なんとか我慢した。


「世話だなんて、エリスはともかく、このぼうずは俺が面倒見てやってるんだぜ」


 僕達の挨拶が終わったところでスコルが口を挟んできた。


「そんな事言って。お前の弟子を止めたがらない人間なんて、そういないんじゃないの?」


 アリエルの言葉にスコルが短く答える。


「知らないね」


「まぁまぁ、まずは座ってくれ。それにしても今日はどうした?」


 ガラテアが割って入って話題を変えた。僕達はすすめられた椅子に座る。


「親父が戦で大怪我をしたって話を聞いてな。もしかしたら、今生の別れになるんじゃないかと思って戻って来たんだ」


「それはわざわざすまないな。でも……」


 ガラテアが続けようとしたけど、スコルが口を挟む。


「あぁ、怪我はしてるみたいだが、思ったよりも元気そうだ」


 スコルはエリスを見ている。彼女が噂を聞いたって言ったから来たのに、実際は思ってた程たいした怪我じゃなかったみたい。


「噂なんだから、誇張されてたってしょうがないでしょ」


 エリスは肩をすくめながら言う。直接確かめたわけじゃないって言ってたから、僕は彼女をあまり責める気にはなれないや。僕としてはかねてから別の次元に行きたいと思っていたし、それが叶った上に実際はスコルの父親も無事という事で、ちょっとした旅行に来たみたいでお得な気分。


「で、親父のその怪我は戦でやられたのか?」


 スコルがテーブルの向いに座っているガラテアに尋ねる。


「いや、実はな……」


 ガラテアは口をつぐむ。何やら深刻な顔をしているみたいだけど、何があったんだろう。


「アリエルにやられたんだ」


「……」


 僕はガラテアの言っている事が一瞬理解できなかった。アリエルって今彼の隣に座っているスコルの母親だよね。そのアリエルにやられたって事は、単なる夫婦喧嘩?


「そんな事だろうと思ったよ」


 スコルはため息をついてから言った。オークの夫婦間でこんな事ってよくある事なんだろうか。僕の両親も四六時中仲がいいってわけじゃなかったけど、相手にこんな怪我を負わせるような事はなかった。村の人達の様子からオークは好戦的だって話を疑っていたけど、こんな実例を見せられたんじゃ認めざるを得ないみたい。


「ガラテアが情けない事を言うもんで、ついカッとなっちゃってね。ちゃんと反省してるわ」


 アリエルが申し訳なさそうに頭を下げている。スコルは身内の恥を知られてバツが悪いみたいで、無言で首を横に振っていた。


「戦があったって話も単なる噂ですか?」


 僕は気になる事を尋ねてみた。戦でガラテアが大怪我を負ったって噂だったけど、実際は夫婦喧嘩で怪我をしたらしい。だったら戦も実際はなかったんだろうか。


「いや、戦は本当にあったんだよ。そんなに大きなものじゃなくて小競り合い程度だけどね」


 ガラテアが答える。


「スコル達が来てくれたのは、いいタイミングだったかもしれないわね」


 アリエルがにんまりと笑いながら言った。どういう事だろう。

ガラテア達の考えとは

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