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第10話 オークの次元で

オークの次元に到着

 僕の目に入ってきたのは、一面の平原だった。僕の膝くらいまでの草が辺りに生えている。ところどころに木が生えているけど、森や林といったものからは程遠い。大きめの岩がいくつも転がっている。光る太陽が照りつけていて、空は青い。白い雲がぽっかりと浮かんでいる。僕はもうちょっと変わった風景を想像していたから拍子抜けした。奇妙に曲がりくねった木とか緑色の空とかいった、人間の次元と違ったものは特になさそうだ。


「なんだか人間の次元とそんなに違いはありませんね」


 僕はつい思った事を口に出してしまった。


「お前さんがどんな想像をしてたか知らんが、期待に添えなかったみたいだな」


 スコルが僕の言葉を聞きつけて言った。僕の反応から少しがっかりしたのがばれちゃったかな。


「別に何か期待していたわけじゃないですよ。ただ、そんなに変わらないなと思っただけです」


 僕は慌てて言い繕った。


「確かにな。オークの次元はそれほど文明が発達しているわけじゃないし、珍奇なものがあるわけでもない。しばらく離れていたから忘れてたよ」


 辺りを見回しながらスコルが言った。彼はいつも僕の住んでいる場所を田舎だ何だと言っているけれど、オークの次元だってそう変わらないじゃないか。そう思ったけど、さすがに口には出さなかった。


「ほらほら、言い合ってないで少し歩くわよ。村は確かあっちよ」


 エリスが指を差しながら言った。確かに彼女の指差した方向に小さく建物らしき物が見える。


「わかってるよ」


 スコルはそう言いながら歩き出した。彼の後を僕とエリスが並んで付いて行く。僕はエリスに話しかける。


「見たところ殺風景な感じですね。エルフの次元のマーケットは見渡す限り店が立ち並んでましたけど、ここにはそういったものはないんですか?」


「オークの次元にはないんじゃないかしら。オークはエルフみたいに友好的じゃないし、商売もうまくないからね。根っからの戦士って奴よ」


「そういえば以前スコルがそんな事言ってましたっけ」


 オークは戦士が多いって話だった。戦いに明け暮れてばかりではマーケットのような場所はできないだろうな。僕は黙々と歩くスコルの後ろ姿を見ながら思った。


「スコル、僕に会う前はここにいたんですよね?」


「あぁ」


 僕の問いかけにスコルは短く返事をする。なんだかあまり機嫌が良くないみたい。僕は小声でエリスに尋ねてみた。


「スコルの機嫌が良くないみたいなんですけど、どうかしたんですかね?」


「さぁ。きっと父親が心配なんじゃない。身内が大怪我をしたなんて聞いたら機嫌も悪くなるわよ」


 エリスの言う事はもっともだ。僕だって家族に何かあったと知ったら、いつも通りじゃいられないだろう。家出同然の身としては変な話だけど、やっぱり家族は家族だ。


 あまり今のスコルに話しかけない方がいいかな。僕は気をきかせて彼には話題を振らないようにしてエリスと話す。


「エリスはここには来た事があるんですか?」


「そうね、今から行く村には行った事はないけど、オークの次元は何度か来た事があるわ」


 やっぱりエリスは次元移動に慣れているんだな。僕も自由に次元移動してみたいけど、まだまだ修行が足りないと以前スコルに言われた。


「へぇ、どこもこの辺りと似たようなものですか?」


「そうでもないわよ。人間の次元にもいろいろあるでしょ?オークの次元だって緑が豊かな場所もあるし、砂漠みたいな場所もあるわ」


「サバクって何です?」


 僕は聞いた事のない単語が出てきたので聞き返す。


「砂漠って人間の次元にもあるわよ。見渡す限り砂ばっかりの土地なの。結構厳しい環境なんだから」


「僕は行った事ありませんね……」


 エリスの答えを聞きながら僕は呟いた。自分の生まれた次元ですら知らない場所があるんだから、オークの次元にだって、いろんな場所があるのは当たり前じゃないか。それをこの辺りを見ただけでがっかりするなんて、ここに住んでいるオークに失礼な事をした気がする。


 僕は反省しながらも、エリスと他愛無い事を話しながら歩く。スコルは相変わらず無言で僕達の先を歩いている。


「オークってみんな、その、スコルみたいにいかつい体格なんですか?」


「ああいうのが多いのは確かね。でも、もっとほっそりしたオークだっているわ」


「オークの女性ってどんな姿をしてるんです?」


「人間の女性と比べたら、たいていはがっしりしてるわね。まぁ、さっきも言ったけど、オークにもいろいろなのがいるわ」


 僕とエリスが話している間に、だいぶ村に近づいてきた。どうやら村は二メートル程の石壁で囲まれて四方に見張り用の高台のようなものがあるみたいだ。石壁の向こうに見えるのは、同じように石を使った家だろうか。石壁の途切れている場所が出入り口なんだろう。そこに見張りと思しきオークが二人立っている。僕達から向こうが見えるって事は向こうも僕達を見る事ができるって事だ。二人の見張りはこちらを睨んでいる。そういえば、スコルはオークだからいいとしても、僕は人間でエリスは吸血鬼。幻影の術で姿も変えずに見張りの前に来たのは、まずかったかもしれない。


 でも、今さら幻影の術を使っても遅すぎる。スコルはそんな事は気にしていないかのように、どんどん歩いて行く。仕方ないので僕も腹をくくって彼に続く事にした。


「止まれ!」


 槍を持った見張りの一人が村に入ろうとする僕達の前に立ちはだかって、鋭い声で制止する。


「お前達何の用だ?」


 槍を突きつけこそしないものの、今にもそうしそうな口調だ。僕は身を固くしたけど、スコルは平然としている。エリスも見張りの口調なんて気にならないみたい。


「俺達は怪しい者じゃないぜ」


 スコルが口を開いた。


「後ろの二人はオークじゃないだろう」


 見張りはそう言いながら、僕とエリスを怪しげにじろじろと見た。見た目でオークじゃないとわかっていても何もしてこないなんて、案外冷静じゃないか。僕はてっきり追い返されるかと思っていた


「オークじゃないが、俺の友人と弟子だよ。族長にスコルが訪ねてきたって伝えてくれ」


 スコルがそう言うと、立ちはだかった見張りはうさんくさそうに眉をひそめた。


「ここで待ってろ。おい」


 見張りの一人がもう一人に目配せをする。そのオークは頷いて村の中に駆けて行った。しばらく、僕達は入口の前で待機。残った見張りは怪しい者は一歩も通すまいと、僕達を注視していた。僕はそのオークの視線が気に喰わなかったけど、オークじゃないからっていきなり暴力沙汰にならなかっただけましか。


 無言で待ち続けて十分程経っただろうか、僕がしびれを切らして何か言いそうになった時、駆けて行った見張りのオークが戻ってくる。僕達の前に立っている見張りに何か耳打ちすると、耳打ちされたオークは脇にどいて道を開けて言う。


「お前達、中に入っていいぞ」


 どういう話が伝わったのかはわからないけど、随分あっさり通してくれた。まぁ、ここで入るなと言われたら面倒な事になりそうだったからよかった。


「スコル、幻影の術を使わなくてもいいんですか?」


 村に入る前にスコルに一応聞いておかなくちゃ。


「あぁ。オークは好戦的かもしれないが、臆病じゃないんでな。姿形が違うからって無闇に襲ってきたりはしないさ」


 僕の住んでいる小屋の近くの村では、オークが一人見かけられただけで狩人に仕留めてもらうとかって話になった。でも、オークにとっては僕みたいな人間一人くらい何でもないんだろう。エリスがどう思われているのかはわからないけど。


「そうですか」


 僕は返事をした。それを聞いたスコルが歩き出す。僕達はスコルを先頭にオークの村に足を踏み入れた。

いよいよ村へ

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