表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/69

第7話 ダイアナ

狼人間を捕まえる

 木々の間から女性が見えた。女性は辺りを見回す。僕とスコルは見つからないように草の陰で身を屈めた。彼女は上空を見上げる。今日は雲も少なく月が綺麗だ。すると、みるみる女性の腕から毛が生えてくるのが見えた。後ろ姿だったから顔はよく見えなかったけど、どうやら顔にも毛が生えてきたみたいだ。彼女がまた辺りを見回した時、見えた顔は狼そっくりで口からは牙がのぞいている。あっと言う間に狼人間の出来上がりというわけだ。本当にあの女性が狼人間だったんだ。変身の瞬間を見た僕はかなりの衝撃を受けていた。見てはいけないものを見てしまった気分。


 スコルはまったく動揺していないみたいだ。


「行くぞ。逃がすなよ」


 僕にこっそりと耳打ちすると、変身した女性に向かってズンズン歩いていく。まだ僕の心の準備が済んでないのに。


 堂々と近づいていくスコルに狼人間も気付いた。彼女(と言っても見た目では男なのか女なのか区別が付かないけど)は、スコルの方を向くと、唸り声を上げる。


「グルルゥ……」


 その唸り声を聞いてもスコルの歩みは止まらない。彼はオークだから、襲われてもそう簡単にやられはしないだろう。だけど、狼人間の牙で噛みつかれたら、さすがに無傷とはいかないんじゃないかな。僕の心配をよそにスコルは狼人間に声をかけた。


「おい!話があるんだが聞いてくれるか?」


 狼人間はスコルの言っている事が理解できているのか、いないのか。牙をむき出してこちらを睨んでいる。


「何もしやしない。ほら」


 とスコルは敵意がない事を示す為か、両手を広げてみせる。僕はいつ襲いかかられてもいいように、魔力をたっぷりと自分の体の中に導いて準備をした。今にもこちらに躍りかかってくるんじゃないかと身構えていたけど、次の瞬間狼人間はクルリと身を翻した。


「捕まえろ!ぼうず!」


 逃げようとしているのをすぐに察知したスコルが僕に声をかける。


「はい!」


 僕は待ってましたと言わんばかりに魔力を操り、狼人間の体を宙に浮かせた。狼人間は両手両足を振りまわして何とか逃れようとする。でも、そう簡単に逃げられてたまるもんか。僕は逃がしてしまわないように精神を集中させて狼人間をこちらに引き寄せる。


「チョット!ハナシナサイヨ!」


 聞こえてきたのはかすれた女性の声だった。僕はぎょっとしたけど、狼人間が喋っているんだ。彼女は尚も手足を振りまわしている。


「おい、いい加減大人しくしろよ。何もしないって言っただろうが」


 スコルが暴れる狼人間に話しかける。


「コンナコトシテルジャナイ!」


 狼人間がかすれた声で抗議する。彼女を浮かしているのは僕だから、スコルが何もしていないのは本当だ。


「そりゃお前が逃げようとするからだよ。逃げずに話を聞いてくれるなら、何もしない」


「ウソバッカリ!アタシヲコロスンデショ!」


 スコルの話を聞こうとしない狼人間。僕が彼女の立場だったら、同じ事を思っただろうな。スコルはいたって平静にまた彼女に話しかける。


「殺すつもりなら、とっくにやってるさ。わかるだろ?俺達は別にお前を殺そうとしてるわけじゃない」


「……」


 暴れ疲れたのか、スコルの話に納得したのか、彼女は急に大人しくなった。


「ぼうず、降ろしてやれ」


 もう逃げないと思ったのかスコルが僕に言った。


「いいんですか?」


 僕達を油断させて逃げるか、襲いかかってくるかするんじゃないかと心配したけど、スコルは無言で頷く。えーい、どうにでもなれ。僕は浮遊の術を解いて狼人間を地面に降ろした。


 僕の予想に反して、狼人間は大人しく僕達の前に立って尋ねてきた。


「ハナシッテ、ナニ?」


「その前に、誰かに見つかったら面倒だ。人間の姿になってくれないか?」


 スコルの提案に狼人間が頷く。彼女の体を覆っていた毛が引っ込んで、顔も変形していく。あまり見ていて気持ちのいいものじゃないな。僕は思わず顔をしかめた。やがて僕達の目の前には若い女性が一人。


「えっと、僕は村の近くで見習い魔術師をやっているイオです。こっちは師匠のスコル。あなたの名前は?」


 僕はとりあえず自己紹介をした。いや、別に正面からじっくりと見ると彼女が可愛らしい女性だから、自己紹介したわけじゃないよ。彼女を安心させる為にしたんだ。


「あたしはダイアナよ」


 変身していた時とは似つかない彼女の声。


「よし、ダイアナ。俺達が住んでいる小屋でゆっくり話をしようじゃないか」


 スコルはそう言ってさっさと歩きだした。


「どうぞ」


 僕は彼女にスコルについていくよう促す。もう逃げる気はないかもしれないけど、念の為僕は彼女の後ろから見張る事にした。僕達三人はしばらく無言で歩く。こんな女性が狼人間というのはにわかには信じがたいけど、実際見てしまったんだから受け入れるしかない。世の中見た目で判断しちゃいけないって事なのかな。僕は彼女から目を離さないように歩きながら考えた。


 やがて僕とスコルの暮らしている小屋に到着。小屋に入って僕達は椅子に座った。


「ダイアナ、話ってのは他でもない、あんたの存在が村では歓迎されてないって事だ」


 スコルが話を切り出した。それを聞いたダイアナは眉間に皺を寄せる。こんな話をされれば、誰だって機嫌が悪くなるものだ。


「あたしにどうしろって言うの?」


 ダイアナが言った。


「俺達は村の奴に怪物を追い払ってくれって頼まれてるんだ。あんたには悪いんだが、よそに行ってもらえねぇかな?」


「嫌だって言ったら?」


 スコルの言葉を聞いて、ダイアナがますます眉間に皺を寄せる。


「うーん、どうしてもこの村にいたいんなら、二度と変身しないと誓ってもらうってとこかな」


 少し悩んだようにスコルが言う。


「それも嫌だって言ったら?」


「どっちも嫌だって言うんなら仕方ない。こっちも金をもらっちまってるからな。力ずくでも出て行ってもらうしかない」


 ダイアナの挑発するような言動に、スコルは厳しい顔をして答えた。


「僕らも手荒な事はしたくないんです。何とか穏便に済ませてもらえませんか」


 なんだか雰囲気が悪くなってきたので、僕は口を挟んだ。このままスコルに任せていたら、殴り合いにでもなるんじゃないだろうか。


「……」


 僕の言葉を聞いてダイアナは黙りこむ。どうするか悩んでいるんだろう。


「こっちの力量はわかってるだろう?変身したところで勝ち目はないぜ」


 スコルが脅すように言った。そんな言い方をしたら怒らせるだけのような気がするんだけど。


「わかったわよ。どこか他の村へ行くわ」


 ダイアナは怒っていないようだ。観念したように口を開いた。よかった、これで血を見たりせずに済む。


「よし、決まりだな。俺だって今すぐ出て行けとは言わない。準備があるだろうから、二、三日は大目に見てやるよ」


 スコルがやけに寛容な事を言う。なんだ優しいところもあるじゃないか。


「ただし、その間に狼人間を見たなんて奴が出てきたら、容赦しないからな」


 スコルは今度は厳しい表情で言った。優しいんだか、厳しんだかわからないな。


「わかってるわよ。見つかってすぐに退治されなかっただけ、ましって思わなきゃね」


 ダイアナはため息をついて言う。


「そういう事だ。血気盛んな奴に見つかっていたら、大変な事になってたぜ。俺達みたいな平和主義者が相手で、あんたは運が良かったな」


 話しあう余地があるって言い出したのはスコルだから、彼が偉そうな事を言うのを咎める事もできないな。


「ところで、ダイアナは何でこの村に来たんですか?」


 話が一段落したと見て、僕は気になっていた事を聞いてみた。


「別に。そこらを旅して回ってるだけで、特に理由はないわ。女の一人旅は珍しい?」


 ダイアナは僕を見つめて答えた。


「他意はないです。何か理由があって来たのかな、と思っただけです」


 それだけなのか。もし、深い事情があったとしても、僕達には話してくれないだろう。


「ふーん。それにしても、あんた若い割にはちゃんとした魔術が使えるのね。少し驚いたわ」


「そうですか?いやぁ……」


 ダイアナの言葉に僕は思わず嬉しくなってしまった。普段は褒められる事があまりないからね。でも、すぐにスコルが口を開く。


「おい。このぼうずをおだてたって、これ以上は大目に見たりしないからな」


「そんなつもりないわよ。じゃあ、旅の支度があるから戻るわ。さようなら」


 心外そうにダイアナは言うと、別れの言葉と共に小屋を出て行ってしまった。はぁ。別の出会い方をしていれば、彼女とは仲良くなれたかもしれない。


「お前さん、女におだてられて調子に乗るなよ」


 名残惜しそうにダイアナの出て行った戸口を見つめる僕にスコルが言った。

穏便に済んで一安心

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ