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第6話 尾行

狼人間を探すイオとスコル

 僕達はスコルの考えにもとづいて、最近この村に来た人がいるか、また村人に聞いて回る事にした。


「すみません。僕達人を探しているんですけど、最近この村に引っ越してきたとか、旅行しにきた人って知りませんか?」


 僕は早速目についた畑を耕している中年の女性に聞いてみる。いかにも人の良さそうなおばさんだ。


「引っ越してきた人は知らないねぇ。旅行者なら宿屋に若い娘さんが一人いるはずだよ」


 と女性は答えてくれた。いきなりそれらしい情報だ。僕はその娘さんについて詳しく聞く。


「どんな人ですか?」


「えーとね、茶色の髪でそばかすがあったかね。宿屋に泊ってる若い娘は、その子だけだからすぐにわかると思うよ」


「ありがとうございます」


 僕は女性にお礼を言ってスコルと顔を見合わせる。小さな村だから簡単に見つけられるかもと思っていたけど、本当にすぐに見つかった。村に来て宿屋に泊っている女性がいるらしい。他にもいないかと何人かの村人に聞いてみても、その宿屋にいるという女性以外の話は出てこなかった。この村はあまり人の出入りがないらしい。僕は狼人間はてっきり狼のような男性を想像していたから女性というのは意外な気がした。でも、これ以外に手掛かりがないんだから仕方がない。


「どうしましょう?宿屋に行ってその女の人に会ってみますか?」


 ひとまず情報収集を終えた僕はスコルに聞いた。


「直接会って『あなたは狼人間ですか?』とでも聞くつもりか?正直に答えてくれるとは思わないな」


 スコルの答えはいたってまともだった。もし本当にその女性が狼人間だったとしても、聞いたところで答えてくれる保証はない。


「じゃあ、どうするんですか?」


「しばらくその女とやらを見張るとしようぜ。狼人間なら、そのうちボロを出すはずだ」


 宿屋の方に歩きながらスコルが言った。見張りかぁ。若い女性をじっと見張るなんて、僕達の方が不審人物に思われたりしないだろうか。


 村人の話によると茶色い髪でそばかすのある若い女性という事だったよね。僕達は宿屋の出入り口が見える場所で該当する人が出てこないか見張っていた。目立つと困るので一旦人目につかないところにいって幻影の術をかけ直した。僕もスコルもどこにでもいそうな村人そっくりだ。


 宿屋を出入りする人は何人かいたけど、男性が大半だった。この分だと若い女性が出入りすれば、すぐにわかりそうだ。時刻は夕方に差しかかってきた頃、村人の言った特徴と一致する女性が宿屋から出てきた。


「茶色い髪にそばかすの若い女性。スコル、あの人じゃないですか」


「そうだな。ちょっと尾行してみるか。ぼうず、あんまり女の方を見つめ過ぎるなよ。さりげなくだ」


 僕達はその女性に見つからないように離れて歩く。後ろから見る限り、どう見ても人間にしか見えない。狼みたいに毛深いって事もない。本当にこの人が狼人間なんだろうか。見当違いの人を尾行しているのかもしれない。スコルと一緒に歩きながらそんな事を考えた。


 女性は酒場に入っていった。僕も利用した事のある店だ。酒場に入ると女性に見つかってしまうかも知れないから、僕達はまたしても酒場の出入り口が見える目立たない場所に陣取って彼女が出てくるのを待つ。それにしても、ただ待っているだけっていうのも気疲れするな。


「本当にあの女性が狼人間なんですかね。普通の人間にしか見えませんよ」


 僕は待っている間にスコルに対して疑念を口にする。


「普段は人間そっくりだから狼人間って言うんだろうが。こんな辺鄙な村に若い女一人で何しに来てるのか怪しいと思わないか?」


 スコルは怪しまない僕が馬鹿だと言わんばかり。一人で旅をしていて、たまたまこの村に来ただけだと思うんだけどな。女性の一人旅は確かに珍しいけど、ないわけじゃない。僕には彼がそんな事を怪しむ理由がわからない。


「いえ、別に。それよりも人間の姿の時に見分ける方法はないんですか?」


 僕は見張り続ける事に飽きてきたのでスコルに聞いてみる。


「そんなものがあったらこんな事してないだろ。黙って見張ってろよ」


 スコルは苛立たしそうに言った。彼はあの女性が狼人間だと決めてかかっているみたいだけど、僕には今一つピンとこない。でも、これ以上何か言ってもスコルを怒らせるだけだ。僕は黙って見張る事にした。それにしても魔術で相手の真の姿を見破る事はできないんだろうか。まぁ、あればとっくに教えてくれていると思うけど。それに狼人間の真の姿が狼とは限らないのか。狼に変身するんだから、人間が真の姿かもしれない。僕は取りとめのない事をつらつらと考える。


 しばらくすると女性が酒場から出てきた。また後をつけると彼女は宿屋に戻っていっただけだった。


「お酒が飲みたかっただけなんじゃないですかね。別に不審な点はありませんでしたけど」


 僕は尾行と見張りが徒労に終わった気がして思わず嫌味を言ってしまった。


「狼人間だって酒ぐらい飲むだろうよ。俺が思うにあの女が怪しいのは間違いないんだからな」


 嫌味を言ってもスコルの考えは変わらない。僕を睨みつけながら彼は言った。一方、僕はまだ信じきれないのでもう小屋に戻りたい気分だ。


「いつまで見張りを続けるんですか?」


 うんざりした気持ちでスコルに尋ねる。


「あの女の正体を暴くか、狼人間じゃないとわかるまでだ」


 スコルはすぐに応えた。変身したところを押さえれば正体を暴いた事になるだろう。狼人間じゃないとわかるのはどうすればいいんだ?


「どうすれば狼人間じゃないとわかるんです?」


 また僕は尋ねる。


「あいつが宿屋から一歩も出ないのに別の場所で狼人間が目撃されたら、俺だって違うと思うさ」


 スコルの返事に納得。そういう事か。でも……。


「それまでは見張りを続けるんですね」


「そういう事だ」


 スコルはきっぱりと言った。結構時間がかかりそうだな。


 夜も更けてきて、辺りに人の姿も見えなくなった。みんな家に帰っているんだろうな。僕とスコルは交代で休憩を取ったけど、相変わらず宿屋の見張りを続けている。女性は外には出ず、僕は退屈で仕方がない。それにこの時間帯になってくると油断をすると睡魔が襲ってくる。僕はあくびを噛み殺しながら体を伸ばした。スコルは文句一つ言わないので、僕があまり愚痴るのは気が引ける。無言で見張りを続けながら、今日はもう何も起きないんじゃないかと思っていた。


 ところが、なんとその時女性が宿屋から出てきたのだ。夕方に外に出てきた時とは明らかに挙動が違う。こっそりと身を潜めるようにして辺りを窺っている。僕は思わず声を出してスコルを呼ぶ。


 「ス……」


 と言いかけたところでスコルに手で口を塞がれた。僕が声を出すってわかっていたのか、早い反応だった。彼は口の前で人差し指を立てて、僕を睨みつける。おっと危ない、気を付けないと。僕が頷いてみせるとスコルは手を離す。幸い少し距離があるから、女性は僕達には気付いていない。


 宿屋を出た女性は森の方へと歩いていく。僕達はスコルを先頭にその後をこっそりと追いかけた。こんな夜更けにこそこそと宿屋を出て森に向かうなんて。狼人間だなんて思っていなかった僕も彼女の行動は怪しいと感じた。ひょっとするとひょっとするかも。内心ドキドキしながらも、音を立てないように気を配る。


 女性はどんどん村のはずれの方に向かっていく。僕達は彼女を見失わないように追いかける。村のはずれに来た時、とうとう僕達はその瞬間を目撃した。

狼人間の捕獲なるか

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