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第5話 狼人間

村に来たイオとスコル

 スコルには幻影の術を施したまま、僕達は歩いて村までやってきた。村人が見たという怪物を殺してしまうのか、追い払うだけでいいのか、とにかくその怪物を見つけない事には始まらないので、村で情報を集めるんだ。


「すみません。この辺りで狼に似た怪物を見たって人を探しているんですけど、何かご存じありませんか?」


 僕は野菜を運んでいる村人に聞いてみた。


「怪物?うーん、知らないね」


 村人は首を捻って答える。他にも何人か同じような質問をしてみたけど、みんな同じような反応ばかり。怪物の事に興味がないのか、それともあまり噂が広まっていないだけなのか、あまり収穫がなかった。


「酒場に行ってみたらどうだい?あそこなら見たって奴がいるかもな」


 何人目かに聞いてみた時、やっと別の答えを聞かせてくれた村人がいた。


「わかりました、ありがとうざいます。酒場に行ってみます」


 僕は村人にお礼を言ってから酒場に向かった。スコルは無言でついてくる。


「いらっしゃい、お客さん。今日は叔父さんと一緒かい」


 酒場に入ると顔見知りの酒場の主人が声をかけてくる。そういえば、以前に来た時にスコルを叔父だと言って紹介したんだっけ。


「えぇ、まぁ、そうです」


 僕は曖昧に返事をしておいた。スコルについて何か聞かれたら叔父兼魔術の師匠という事にしておこう。別に変な事はないよね。


「ところで、この辺りで怪物を見たって人知りませんか?狼に似ているそうなんですけど」


 僕は気を取り直して主人に聞いてみた。お客との交流が多そうだし、この人なら何か知っているかも。


「あぁ、そんな話をしているお客さんもいたね。ほら、そこに座っているのがそうですよ」


 主人がお客の一人を指差す。なんだ、あっさりと目的の人が見つかったじゃないか。酒場に行くように言ってくれた村人に感謝しなきゃ。


「ありがとうございます」


 僕は酒場の主人にお礼を言って、指差されたお客に近づいていく。彼はビールをチビチビと飲んでいた。


「あの、すみません。あなた狼に似た怪物を見たって話していたそうですね」


「そうだけど。なんか用か?」


 僕が話しかけるとそのお客はビールを飲むのを止めて、不審そうにこちらを見た。いきなりこんな事を聞かれたら不審がるのも仕方がない。僕は慌てて事情を説明する。


「僕達、村の人にその怪物を追い払ってほしいって頼まれてるんですよ。だから、怪物についての情報が欲しいんです」


「そういう事か。一杯おごってくれたら、おいらに話せる事は全部話してやるよ」


 お客が僕の説明に納得してくれたのはいいけど、おごらないと話してくれないみたい。


「どうします?」


 僕は小声でスコルに聞いてみる。


「仕方ないな。俺が話すからお前さんはビールでも持ってこい」


 スコルは肩を竦めて言った。それを聞いて僕は酒場の主人のところへビールを注文しに行った。コップを持って戻ると、怪物を見たというお客は嬉しそうに僕の持ってきたビールに口をつけた。


「それじゃあ、どこで怪物を見た?」


 お客の前の椅子に座ったスコルが質問をする。


「村のはずれの辺りだな」


 コップから口を離してお客が答える。


「いつ頃だ?」


 またスコルの質問。


「前の満月の時だったかな。月が綺麗だったよ。おいらちょっと酒を飲み過ぎてね。良い覚ましにフラフラとはずれの辺りに行ったんだ。そしたら、遠吠えみたいのが聞こえてきた。気になってそっと見に行ったら、そいつがいたんだ」


 遠吠えが聞こえて見に行くなんて相当酔っ払ってたんだな。普通なら狼なんかには近寄らないはずだ。


「どんな見た目だった?」


「顔は狼に似てた。でも、二本脚で人間みたいに立ってるんだ。体は毛むくじゃらだったけど、服を着てたな」


 依頼に来た人も同じような事を言ってたな。服を着てたのなら、後ろ足で立ち上がる狼と見間違えた可能性は低いだろう。


「そいつは何をしてた?」


 スコルは答えを聞くと次々と質問していく。


「さぁな。しばらく周りを気にするようにキョロキョロしてた。そのうちどっかに行っちまったよ。おいらも酔っ払ってたとはいえ、さすがに後は追わなかったね」


 このお客は運が良かったんだろうか。怪物に見つかっていたら、今頃こんな呑気にお酒を飲んでいられたかわからない。


「他に怪物を見かけたって奴はいるか?」


「何人かいるよ。おいらの見間違えじゃねえさ」


 スコルの質問に心外そうに答えるお客。見たのがこの人だけだったら、酔っ払いの幻覚とでも思われていたかもしれない。


「その怪物を見かけるようになったのは最近か?」


「そうだな。前はオークを見たって噂があったけど」


 お客の答えに僕は思わずドキリとする。幻影の術を覚える前にスコルが村人に目撃された時の話だろう。今は術のおかげで人間そっくりだけど、そのオークが目の前にいるなんて夢にも思わないだろうな。


「そうか、もう十分だ。どうもありがとよ」


 スコルはそう言って椅子から立ち上がった。僕の方をチラリと見て出口の方に顎をしゃくると酒場から出ていく。


「あれだけで何かわかったんですか?」


 酒場を出たところで僕はスコルに尋ねてみた。


「多分な。狼男だと思うぜ」


「狼男?」


 送り狼って言葉を聞いた事がある。でも、この場合はそんな比喩的な意味じゃないだろう。


「おっと、男とは限らないか。狼人間か人狼と言えばいいかな。そういう種族だ」


 確かに怪物を見たというお客の話では、怪物の性別はわからない。男女と言うべきか雌雄と言うべきか、狼人間にその区別があればの話だけど。


「狼人間……」


 僕は口にした言葉を頭の中で想像する。人間大の二本脚で歩く狼には、できれば会いたくないなぁ。


「普段は普通の人間の姿をしているが、変身できるんだ。狼に似た姿にな」


 スコルが説明してくれる。そういえば、吸血鬼のエリスも蝙蝠や霧に変身したりしていた。魔術の一種なのか種族特有のものなのか。


「おそらく最近この村に来た奴が狼人間なんだな。たまたま変身した姿を見られちまったってわけだ。どこかに行っちまったんじゃなけりゃ、まだここにいるはずだ」


 昔から村に住んでいるんだったら、もっと前から噂になっていたって事か。


「そうですか。じゃあ、最近村に来た人を見張ってればいいわけですね」


 それほど大きな村じゃないから、新しく人が来ればすぐにわかるだろう。案外簡単に見つけられるかも。


「そうだな」


「その狼人間を見つけたら殺しちゃうんですか?」


 僕は気になった事を聞いてみた。見つけるのはそう難しくないかもしれない。でも、見つけたら殺さなくちゃいけないんだろうか。


「いや、殺したりはせずに済むと思うぜ」


 スコルは言った。


「どうするんですか?」


「変身すると凶暴になって見境なく人を襲ったりする奴も中にはいるが。こいつは今のところ何もしていない。ちゃんと自分を制御できている狼人間だな。話し合いの余地があるはずだ」


「話し合いですか」


 狼人間と話し合うなんてできるんだろうか。実際に会ってみないとわからないや。


「お前さんだって狼人間だというだけで特に害を為してない奴を無闇に殺したくはないだろう?」


「まぁ、そうですね。穏便に済ませられるならそうしたいです」


 僕はそう答えた。スコルの言う通りだ。狼人間だとしてもまだ何もしていない。殺してしまうなんて考えた事を反省。


「ただし、向こうが問答無用で襲ってきたら反撃はしなきゃならんぞ。そこは覚悟するんだな」


 スコルが指摘する。


「わかってますよ」


 と僕は返事をした。そんな事にならなきゃいいけど。

狼人間を捕まえられるか

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