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第34話 師匠と弟子

カロンを捕まえて

 カロンを放っておく事もできないので、僕とスコルはしばらく無言で待つ。倒れたまま動かないカロンを見ていて、急に心配になってきた。僕を襲ったオークを心配するっていうのも変だけど。


「まさか、あいつ死んでませんよね?」


 僕は思わず呟いた。


「そんな事あるかよ。並みの人間ならさっきので首の骨が折れたかもしれんが、あいつもオークなんだ。気絶してるだけさ」


 聞きつけたスコルがそう言った。だといいんだけど。スコルの手でカロンが死んでしまったら、関わった僕としてはなんだか寝覚めが悪くなりそうだ。


 本当にカロンが生きているのか確かめたいけど、あいつにはできれば近づきたくない。しばしの葛藤の末、僕は思い切ってカロンの呼吸を確かめる為に歩み寄った。あいつの口に耳を近づける。いきなり起きて噛みつくんじゃないかと別の心配が頭を過ぎる。でも、その心配は杞憂だったみたいで、カロンを気を失ったまま静かに呼吸していた。


 カロンの呼吸を確かめると、僕はスコルの立っている場所に戻る。


「ちゃんと生きてましたよ」


「だから、そう言っただろうが」


 スコルは微塵も心配していなかったみたいだ。僕達はまたしばらく無言になる。


 十分か十五分くらい経っただろうか。すぐ近くでボワン!と例の音がした。エリスが老いたエルフを連れて現れる。マーケットで食事をしていた時に話しかけてきたエルフだ。たしかオルクスって名前だっけ。


「よう、オルクス。あそこに倒れてるのが、例の俺の元弟子、カロンだ。魔術が使えなくなってるから、連れていくなり何なり、好きにしてくれ」


 スコルがカロンを指差しながらオルクスに話しかける。


「ふーむ、にわかには信じがたいが、本当に捕まえたのか」


 オルクスは白い髭をいじりながら、スコルとカロンを交互に見た。


「結構苦労したんだからね」


 エリスはそう言った。苦労したのは主に僕だと思うんだけど、あまり口を挟まない方がいいかな。


「ついてはカロンを捕まえたって事で、俺の封印を何とかしちゃくれないか?」


 そう言えば協会からの罰としてスコルは魔術は封印されたんだっけ。それをどうにかしたくてカロンを捕まえようとしていたんだ。結果、見事に捕まえたわけだけど、何とかしてもらえるものなんだろうか。


「捕まえたからと言って、やった事が帳消しになるわけじゃあるまい。それにお主、阻害薬を使ったな?」


 そう簡単にいくはずもなく、オルクスが眉間に皺を寄せてスコルに尋ねる。あの薬がどうかしたのかな。


「いや、それは、その……」


 どうもまずい事を指摘されたようで、スコルが口ごもる。


「どうやって手に入れたのかは知らんが、あれは一般には禁制品だとわかっとるだろう」


 と続けるオルクスの言葉にスコルは無言になってしまった。


「……」


 あれは禁止されている薬だったのか。僕はこっそりエリスに近づいて、彼女に小声で聞いてみた。


「オルクスの言ってる事は本当ですか?」


「そうね。乱用されたら魔術の発展を妨げるって事で、普通は手に入らないし、使っちゃいけないのよ」


 エリスは肩を竦めてから、僕に耳打ちしてくれた。確かにあんなものが出回ってしまったら、みんな魔術が使えなくなる。禁止されるのも致し方ない気がする。


「あぁ、使ったさ。仕方ないだろう。そうでもしなきゃ、逃げられちまうんだから」


 オルクスの非難の視線を受け止め続けていたスコルが口を開いた。彼らしい開き直りだ。


「開き直りか。カロンを捕まえた事は評価できても、これは大目に見る事はできんな」


 スコルの言葉を聞いて、オルクスは首を振った。


「へっ、頭が固いね」


 スコルが憎まれ口を叩く。それにムッとした表情になったけど、オルクスは話題を変える。


「とにかく、詳しい話は協会で聞かせてもらう。みんな来なさい」


 オルクスが手を振ると、倒れていたカロンがふわふわと彼に寄っていく。どうやらエルフの次元に行って、さらに詳しい話をしなきゃいけないみたいだ。僕も近寄って行ったけど、スコルが止めた。


「おっと、このぼうずは巻き込まれただけで、詳しい事は知らないんだ。勘弁してやってくれ」


 僕が巻き込まれただけって言われれば、そうかもしれないけど。オルクスは特に何も言わない。僕は単なるスコルの弟子で、たいして重要じゃないと思われているんだろう。


「ぼうず、ちょっとの間離れる事になるが、のんびり待っててくれ」


 とスコルは僕に人間の次元に留まるよう言った。エルフの次元で何をするのか、面倒な事なら遠慮したいけど、本当にいいんだろうか。


「僕は行かなくていいんですか?」


 念を押すように尋ねる。


「いいんだよ、じゃあな」


 とスコルはあっさりしたものだ。


「心配しないで、しばらくしたら戻ってくるわ」


 エリスがそう言って手を振る。すると、ボワン!と音がしてスコル、エリス、オルクス、それにカロンの姿が消えた。


 川原で一人っきり。なんだか僕だけ蚊帳の外って気がした。まぁいいや。戻ってくるって言っていたし、のんびりと待たせてもらう事にしよう。僕は気持を切り替えて、小屋に戻る事にした。


 それから数日、僕は久しぶりに一人きりの時間を過ごした。思えばスコルが来てからは、ずっと誰かと一緒にいたな。僕は誰に気兼ねする事もなく、魔術の修行もせずに寝て過ごしたりしてみた。でも、最初の内はのんびりとしていたけど、次第にスコル達が戻ってこないんじゃないかと思い始めた。カロンを捕まえて、僕は用無しになったのかも。だから、置いていったんじゃないのかな。


 そんな不安が僕の心の中で大きくなっていた時だった。小屋の中で一人食事をしていると、ボワン!と音がした。スコルとエリスが現れる。


「スコル!エリス!」


 僕は椅子から立ち上がって、彼らに近づいた。


「ちゃんと待ってたな」


 スコルは僕を見て言った。僕がどこかに行ってしまうと思っていたんだろうか。


「あれからどうなったんですか?あなたの封印は解いてもらえたんですか?カロンはどうなったんです?」


 僕は気になって矢継ぎ早にスコルに尋ねた。


「カロンは牢の中だよ。俺の魔術は駄目だった。期間は短くなったが、解いてはもらえなかった」


「あたしからもお願いしたんだけどね。さすがに無理みたい」


 スコルが答えて、エリスが付け足す。駄目だったのか。それにしては気落ちしたようにも見えない。


「どれくらい使えないんです?」


 短くなったってどれくらいかな。人間より寿命の長いオークの言う短いがわからない。


「十年ってとこだな」


「十年ですか……」


 十年って結構な期間だと思うのは、僕が人間だからだろうか。


「俺としちゃ解いてもらえるなんて思ってなかったからな。短くなっただけでも万々歳だ」


 魔術師が魔術が使えないというのはつらいと思う。けれど、スコルはたいして気にしてないみたいだ。


「はぁ」


 僕が曖昧な返事をすると、スコルが突然質問してきた。


「ところで、お前さん、これからどうしたい?」


「どうって?」


 何がどう、なんだろう。僕はそのまま聞き返す


「魔術が使えない俺の弟子を続けるか?俺はお前さんさえ良ければ師匠を続けてやれるが、嫌だって言うなら別の奴を紹介してやってもいいぞ。エリスが師匠になってくれるかもな」


「うーん」


 僕はスコルの話を聞いて、首を捻り唸った。それはあまり考えてなかったな。弟子を続けるかどうかか。弟子を続けると言えば、弟子を辞めさせられたカロンについて聞いていない事があったな。


「そうだ、あなたがカロンを破門にした理由を教えてもらえませんか?言いたくないなら無理にとは言いませんけど」


 僕はあまり期待せずに聞いてみた。なにか個人的な事情があって教えてくれないかも。


「その事か。よくある話だよ。生け贄を捧げるとか、死者を使役するとか、その方面の魔術に手をつけるべきだって聞かなくてな」


 思ったよりあっさりとスコルは教えてくれた。いわゆる黒魔術というやつだろうか。僕も興味がないわけじゃない。


「そういう魔術は使った事がないんですか?」


「俺だって魔術師の端くれだからな。そういった事をまったくやらなかったといったら嘘になる。でもな、経験から言って、ああいうのは周りを不幸にするんだよ」


 スコルはどこか遠い目をして言った。


「へぇ」


 さすがに誰か生け贄にしたんですか、とは聞けない。僕は適当に相槌を打つ。


「こんな事言っても信じないかもしれないが、俺は魔術を人の役に立てるものだと思ってるんだ。人を不幸にする為に使うものじゃない」


「そうなんですね」


 僕だって興味はあるけど、誰かを犠牲にしてまで魔術を使いたいとは思っていない。スコルの考えには賛同できる。その話を聞いて僕の心は決まった。でも、素直に言うのもなんだか気恥しいな。


「えっと、あなたは今回の件で僕に借りができましたよね?」


「そうかぁ?お前さんたいした事はしてないだろ」


 僕の問いかけに眉をひそめてスコルが答える。


「カロンを捕まえられたのは、僕が囮になったおかげですよね?」


「そう言えなくもないな」


 次の問いかけには渋々といった感じで頷く。


「だったら、僕が一人前の魔術師になるまで、ちゃんと面倒見てくださいよ。それで貸し借りなしです」


 僕の言葉にしばらく無言だったけど、スコルはニヤリと笑って言葉を返してきた。


「……そうか。一つ言っておくが、俺も今回の件では反省していてな」


「何をです?」


 彼が反省だなんて珍しいな。


「カロンはちょっとばかし優秀だったから、甘やかし過ぎたんじゃないかと思っていてな。だから、これからは弟子には厳しく接するぞ」


 なんだ、そんな事か。今までだって甘やかされた記憶はない。


「望むところですよ」


「そうかい。じゃあ、改めてよろしく頼むぜ」


 スコルが手を差し出す。僕達は初めて会った時のように握手を交わした。


「問題は解決した事だし、何かごちそうでも食べに行かない?エルフのマーケットに連れてってあげるわよ?」


 僕達を見守っていたエリスが提案した。それはいい考えだ。でも、厳しくするって言っていたからスコルは反対するかも。


「いいですか?」


 僕が尋ねると、スコルは頷いて言ってくれた。


「今日ぐらいはハメをはずしてもいいかもな。ただし、戻ってきたら修行に励むんだぞ、弟子よ」


「わかってますよ、お師匠さま」


 というわけで、僕達はエルフのマーケットに出かける事にした。

これにて一旦終了

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