表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/69

第32話 間一髪

カロンの攻撃に耐えるイオ

 そこからのカロンの攻撃は激しいものだった。浮遊の術で浮かせた石をぶつける、炎で僕の周囲をあぶり続ける、水が防壁をぴったりと包み込んで少しでも隙間ができようなものなら入り込もうとする。雷だろうか、あいつの腕から光がほとばしって防壁を揺るがす。僕を防壁ごと浮かせて地面に叩きつける。


 僕は何とか防壁の術で守りながら浮遊の術や発火の術で小さな抵抗をしたけど、カロンに蚊が刺したほどの傷を負わせる事もできない。石も火も全部あいつの防壁で止められてしまった。僕に魔術で攻撃をしかけるカロンは楽しそうに笑っている。


 ここまで何とか耐えてきたけど、もうそろそろ僕の防壁にも限界が来ているみたいだ。やっぱり防御に徹するより、逃げ回った方がよかっただろうか。でも、逃げても捕まるのは時間の問題だったろう。どちらにしても、僕の魔術ではカロンにやられるのがオチだ。


 防壁にひびが入り始めたみたいだ。もう間もなく破られて、僕はカロンの攻撃に晒されるだろう。ひびの隙間から入ってきたのか、水が少しずつ僕の足元に溜まりつつある。こんな事になるのなら、スコルの弟子になるんじゃなかったかな。魔術は教えてもらえたのはよかったけど、死んでしまっては意味がない。今さら後悔しても遅いか。こうなる覚悟は決めていたつもりだけど、いざとなるとやっぱり怖いや。短い人生だったな。父さんと母さんは元気にしているだろうか。


 そんな事を考えていたら、ついに耐えきれなくなって防壁が壊れてしまった。迫ってくる炎に僕は思わず目をつぶる。せめて痛みは一瞬で済ませてほしいな。それともカロンは僕をゆっくりといたぶるだろうか。そう思った瞬間、僕の体はものすごい勢いで横にすっ飛んでいった。カロンにやられたのかと思って恐怖に身をすくめていたけど、そうじゃないらしい。


 おそるおそる目を開けると目の前にエリスが立っていた。彼女は僕をじろじろと見ている。怪我が無いかどうか確認しているんだろう。間一髪、ギリギリのタイミングで僕は助けられたみたい。


「ちょっと遅かったかしら?」


 エリスが口を開く。僕は彼女が来てくれた嬉しさのあまり、我を忘れて抱きつきそうになった。彼女に近づこうとすると、ゴツンと何かに頭をぶつける。エリスの張ってくれた防壁だ。僕は痛む頭をさすりながら、やっと言葉を返した。


「いや、間に合いましたよ。今ぶつけた頭以外は、僕はなんとか無事です。助かりました」


 僕はエリスに抱きつこうとした自分が恥ずかしかったけど、彼女はにっこりと笑ってくれた。五体満足で彼女の笑顔を再び見る事ができてよかった。


「それならいいんだけど、少し待っててね」


 エリスはそう言いながらカロンの方に向く。あいつは突然の闖入者に驚いていたけど、すぐに見覚えがある顔だとわかったみたいだ。


「お前、あの時もいた吸血鬼だな。スコルの知り合いのエリスって言ったか。邪魔する気か?」


 カロンは以前僕を追いかけた時の事を言っているんだろう。あの時はエリスに助けてもらって次元移動したんだっけ。今回も助けてもらって、もう彼女に足を向けて寝る事はできない気分だ。


「そうよ。この子にちょっかいかけるならあたしが相手になってあげるけど、どうする?」


 僕を攻撃しようとするカロンに立ちはだかって、エリスが言い放つ。


「今日は逃げなくていいのか?吸血鬼ごときが俺に勝てるとでも?」


 口を歪めてカロンが嘲るように言った。


「今日は生憎逃げないのよ。破門にされた弟子ごときがあたしに勝てると思ってるの?」


 エリスも負けちゃいない。それを聞いたカロンは怒りの為か、顔色が変わった気がする。あんなに怒らせちゃって大丈夫だろうか。


「よし、わかった。あくまでその小僧を痛めつけるのを邪魔するなら、お前を先に片づけてやる!」


 エリスを睨みつけながら、カロンが腕を振り上げると、彼女に一陣の炎が襲いかかる。エリスはそれを避けようともせず、カロンに腕を差し伸ばす。すると、襲いかかる炎に負けず劣らずの炎が彼女の手の平から凄まじい勢いで噴き出した。


 炎同士がぶつかりあう。カロンとエリスの間に炎の渦ができて押し合っている。こりゃすごいや。僕の修行に付き合ってくれた時にもエリスは同じような事をしたけど、火力が段違いだ。ちゃんと手加減してくれていたんだ。そんな事を考えている内に炎は消えてしまった。両者一歩も引かず、引き分けってところなんだろうか。何か加勢した方がいい気もしたけど、僕なんかじゃ猫の手程の助けにもならない。黙って見守るとしよう。


 炎が消えさると、今度はエリスが放たれた矢のような勢いでカロンに突っ込んでいく。それに驚いたのかカロンが一瞬慌てたけど、すぐに防壁を張ったみたいだ。エリスは勢いもそのままに、防壁に対して自分の拳を振るった。これって魔術を使っているんだろうか、それとも吸血鬼としての身体能力なんだろうか。エリスが二度、三度と拳を打ちつけると、見る見るカロンの顔色が変わる。たったそれだけで防壁に穴が空いてしまった。あんな勢いで殴られたら、普通の人間なら死んでしまうかもしれない。いやぁ、彼女が味方でよかった。僕は念の為自分の周りに防壁を張って、エリスを心の中で応援する。


 エリスは防壁に空いた穴に手を突っ込む。すると彼女の手が指先からどんどん霧に変わっていく。あっと言う間に全身が霧になると穴をするすると通ってカロンの背後に集まっていく。


「ばぁ!」


 霧からエリスの姿に戻ると、彼女はおどけたように両手を広げてカロンに笑いかける。


「このやろう!」


 カロンは振り向いて手の平から雷を迸らせる。雷がエリスに当たったかと思ったけど、当たる直前に彼女は無数の蝙蝠になっていた。雷は空振り。蝙蝠はカロンを弄ぶようにあいつの周りを飛び回っている。吸血鬼っていろんなものに変身できるとは聞いていたけど、本当だったんだ。魔術を使っているんだとしたら、いつか僕にも教えてくれないかな。


 怒りの声を上げながらカロンは炎や雷を飛ばしているけど、飛び回る無数の蝙蝠はひらりと身をかわして一つも当たらない。僕は茫然とその光景を眺めていた。


「……イオ」


 と突然すぐ側でエリスの声が聞こえてびっくり。思わず声を上げそうになった。


「しーっ、こっちよ」


 そう言われて口を噤んだ僕の側には一匹の蝙蝠が飛んでいた。どうやら変身したエリスのようだ。彼女は僕に話しかけてくる。蝙蝠に話しかけられるって経験はなかなかできないだろうな。


「スコルを呼んできて」


「え?どうしてですか?エリスだけで勝てそうじゃないですか。スコルを呼んだって……」


 彼女がスコルを呼ぶ意味がわからない。今までの展開を見るとエリスの方がカロンよりも一枚上手に思える。スコルを呼ぶまでもない気がした。


「カロンを追い詰め過ぎると次元移動しちゃうかもしれないでしょ。そうなる前に呼んできて」


 エリスは僕の言葉を遮った。せっかく現れたのに、逃げられるのは困る。スコルとカロンを会わせたいって事なんだろうか。


「よくわかりませんけど、連れてきますよ」


 僕がエリスに従って動き出しても、カロンは気付いていないみたい。でも、一応幻影の術でその場に僕がいるように見せかける事にした。エリスとカロンの戦いを見守る幻影の僕。それを確認してから、一目散に小屋に向かって駆け出した。


 あの様子ならエリスがカロンにやられる心配はないだろう。とにかく言いつけ通りにスコルを連れて来なくちゃ。僕は走りながら、そう考えていたけど、ふと気付いた。別に自分で走らなくても飛行の術を使えばいいじゃないか。思い付いた僕はさっそく飛行の術で移動する。これなら石に足を取られる事もなく、無駄に体力を消耗する事もない。木や枝にぶつからないように注意する必要はあるけど、こっちの方が断然楽だ。


 あまり高く飛ぶ必要もないので、僕は地面から50センチ程浮いて飛行を続ける。やがて見慣れた小屋が見えてきた。僕は地面に降りてから、小屋の戸を開ける。


「スコル!カロンが現れましたよ!」


 前回と同じくスコルは椅子に座っていたけど、のんびりとはしていなかった。それを聞いたは彼はすぐに椅子から立ち上がる。


「わかった。どこにいるんだ?」


「えっと、以前現れたのと同じ場所です。川原にいます。エリスが引きつけてくれてますよ」


僕の言葉に頷きながら、ごそごそと何かをズボンのポケットにしまいこんでいる。


「よーし、案内してくれ」


「はい、行きましょう」


 僕とスコルは小屋を出た。早く戻らないと。

次回三人が揃う

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ