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第28話 次元移動について

村で食事をしながら雑談

 村に来たけど、どこで食事をしようか。迷った挙句、僕は以前ワインを買った酒場に向かった。あそこなら、お酒以外にも軽く食事もさせてくれるんじゃないかな。僕はスコルとエリスを先導して酒場に入る。カウンターの中には見覚えのある主人がいた。


「お客さん、久しぶりですね。お連れの方達は……」


 酒場の主人は僕の事を覚えているらしい。さすが客商売をやっているだけはある。でも、二人の事を聞かれるとは思わなかったな。無理矢理にでも誤魔化すしかない。


「えっと……、僕の叔父と従姉です。この辺りに遊びに来てましてね。何かおいしい物でも食べさせてあげようと思って来たんですよ」


 僕がそう言うと、スコルとエリスが主人に挨拶をする。


「よろしくな」


「どうも」


 うーん、どう見ても二人は似ても似つかない。叔父とその娘だなんて言ってしまったけど、怪しまれたりしないだろうか。


「それならここを選んで正解だ。サービスしますよ、空いてる席にどうぞ」


 僕の心配は杞憂だったようで、主人は愛想よく笑って言った。僕ら空いている席を見つけて座る。酒場はかなりお客が入っていて騒がしかった。普通に話したんじゃ声をかき消されそうだ。


「よう、兄ちゃん。また会ったな。今日は別嬪さんを連れてるじゃねぇか」


 と席に着いた僕に近づいてくる酔っ払いが一人。いつか僕に話しかけてきた酔っ払いじゃないか。あの時も酔っ払っていたのにちゃんと僕の事を覚えていたのか。


「あぁ、どうも。僕の従姉ですよ」


 その酔っ払いを邪険に扱うのも気が引けて、僕はそう言葉を返した。


「従姉かい。こんな別嬪さんがいてうらやましいねぇ。うちの家族なんて、ひでぇ顔をした奴らばかりなんだからな」


 言ってから酔っ払いは大笑い。いやぁ、彼の家族がどんな顔かは知らないけど、エリスに匹敵するような女性がそうそういるとは思えない。にしても、ずっと彼に絡まれるのも困る。僕は何とか機嫌を損ねないように言葉を選んだ。


「彼らには久しぶりに会ったから、積もる話があるんですよ」


「おぅ、そりゃ邪魔したな。じゃあな、兄ちゃん」


 酔っ払いは意外にもあっさりと離れていった。もしかして酔ってるように見えるだけで、正常な判断ができているんだろうか。


「本当にここでいいですか?」


 僕は念の為、スコルとエリスに確認した。こんな場所で食事をするなんて、嫌がるんじゃないかな。


「これぞ田舎の村の酒場って感じじゃないか。俺は嫌いじゃないぜ」


「あたしも」


 二人は特に機嫌を損ねたって事もないようだ。僕は食事を頼む為に立ち上がった。


「じゃあ、注文してきますよ」


 僕が注文をして席に戻ろうとすると、他のお客の視線が気になった。どうも彼らのエリスを見る目が気に入らない。彼女を見たくなる気持ちはわかるけど、じっとりとした目つきは何か良からぬ事でも考えているんじゃないかな。僕が席についた時、スコルもその視線に気が付いたんだろう。大きく咳払いをしてから彼らを睨みつけた。オーク特有の緑の肌や牙などは幻影の術で隠しているとは言っても、彼の体格は変わらぬまま。村の人達とは比較にならないほど大きい。そんな彼に睨まれて、こっちを見ていたお客は一斉に目を逸らした。


 しばらくして食事が運ばれてくる。エルフのマーケットでの食事に比べれば質素なものだけど、味は悪くない。


「こんな田舎にしちゃ悪くないよな」


「そうね」


 スコルとエリスも文句は言わずに食べている。僕は食事をしながらも、今思い付いた事をスコルに話した。これっていい考えじゃないかな。


「スコル、次は次元移動の術を教えてくださいよ」


「何言ってるんだ、お前さんにはまだ早過ぎるぜ」


 にべもなく思い付きは否定された。今の僕にこそ必要な術だと思ったんだけど。諦めきれずに僕は食い下がった。


「どうしてです?もし、襲われた時に次元移動できれば、カロンも追いかけてこれないじゃないですか。あいつが来る前に教えてくれた方がいいですよ」


「確かに次元を移動すれば簡単には見つからない。でも、お前さん次元移動の危険性をまったくわかってないじゃないか」


 スコルはそう言ったけど、次元から次元に移動するだけじゃないか。むしろ今の僕にとっては危険から身を遠ざける事のできる便利な術に思える。


「危険性ってなんです?移動するだけじゃないですか」


「ほら、やっぱりこのぼうずは何もわかってないぜ」


 スコルは僕の返した言葉を聞いて、呆れた顔をしてエリスを見て言った。実際何もわかってないんだから、そう言われたってしょうがない。


「それなら、ちゃんと教えてあげなさいよ」


 エリスは僕を庇うように言ってくれた。そう、危険性ってのをちゃんと教えてくれなきゃ。


「おーい、ビールを一杯くれ!」


 スコルは大声を出した。ビールが運ばれてくるまで、彼は口を開かないつもりのようだ。僕もしばらくは黙っている事にしよう。ビールが来ると、おいしそうに一口飲んでから彼は話し始める。


「いいか、前にも言った気がするが、次元ってのはエルフの次元みたいに安全な場所ばかりとは限らないんだ。次元の大気が余所者にとって有害な場合もあるし、その次元に凶暴な生物が住んでいるって場合もある。自分が移動する先について理解してないと命がいくつあっても足りないんだ」


「はぁ」


 初めてエルフの次元に行った時に、そういえば言ってたっけ。彼が行きたがらないような次元もあるんだって。


「お前さんみたいな半人前が知りもしない次元に行ってみろ。それこそ死にに行くようなもんだぞ」


 僕だって知らない次元にはそれほど行きたくない。でも……。


「でも、エルフの次元なら……」


「知ってるのはエルフの次元のマーケットだけだろうが。エルフの次元だって、マーケット以外は絶対安全とは言えないぞ」


 そうなのかなぁ。そう言われると次元を移動するのは危ない気もする。


「……」


 僕は口を噤んでしまった。スコルは駄目押しとばかりに続ける。


「それに、教えたとしても術がいつも成功するとは限らない、半人前なら特にな。慌てて術を使ったら失敗して危険な次元に移動しちまったら、元も子もない。ここはどこ?なんて言ってられないぜ」


「……わかりましたよ」


 今回も僕の負けらしい。彼から見たらひよっこの僕が次元移動の術を教えてもらいたいなんて百年早かったんだろう。


「別にずっと教えてやらないって言ってるわけじゃないぞ。俺だって魔術師なんだから、お前さんが次元ってものを知って、次元移動の術を使ってみたいって気持ちはよくわかる。危険な次元にも対処するのに十分な魔術を身につけた時には、ちゃんと教えてやるさ」


 落胆した僕を見て、スコルはいくぶん表情を緩めて言った。彼に続けてエリスが話す。


「いろいろ言ってるけど、要するに弟子をなるべく危険な目に遭わせたくないって事よ。囮にしてるんだから説得力ないかもしれないけど」


 囮にはするけど、次元移動で危険な目には遭わせたくない。複雑な師匠心ってことなのかな。僕はスコルの目を見たけど、彼が何を考えているのかはわからなかった。

次回に続く

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