第23話 イオの決断
目が覚めたイオは……
コンコン、と戸をノックする音で僕は目を覚ました。起きてみると部屋の中は薄暗く、かなり時間が経ったみたいだ。また、ノックする音が聞こえる。僕のいる部屋の戸がノックされているみたいだ。
「はい」
僕が返事をして戸を開けてみると、そこにはエリスが立っていた。
「寝てた?ごめんね、イオ。お腹空いてない?」
もうそんな時間か。エリスの言葉で、僕は思い出したように空腹を訴えるお腹を手でさする。ただ眠っているだけでもお腹は空くもんなんだな。
「えぇ、空いてます」
「じゃあ、三人でご飯でも食べに行きましょ」
僕の返事を聞いたエリスはそう言ってから向かいの部屋の戸をノックする。僕のように眠ったりはしていなかったんだろう。すぐに戸が開いてスコルが顔を出した。
「ぼうずも一緒か。どうした?」
「食事に行かない?もういい時間よ」
「それもそうだな」
エリスの提案にあっさりと乗るスコル。彼は部屋から出て通路に立つ僕とエリスを見た後、聞いてきた。
「どこに行く?あまり変な物を食って腹を痛めても困るから、同じ店で良いか?」
「えぇ。イオもいいわね?」
「いいですよ」
エリスに問われて僕は短く返事をする。一人で小屋に住んでいた時は結構なゲテモノを口にした事があったけど、今は別に変った物を食べたい気分じゃない。昼間と同じ様な食事なら満足だ。
「じゃ、行くか」
スコルの言葉を合図にしたかのように僕達は昼間も行った店に歩き出した。
店に着いて同じようなやり取りの後、今回は店内の席に通される。料理はまたもやスコル任せ。料理に不満はなかったけど、僕達は食事が終わるまで何とはなしに無言だった。たぶん僕がどうするか決めるまで無駄話をしないように気を使っているんだろう。そんなスコルとエリスの様子を窺ってから腹を決めた。よし、僕から話を切り出すか。
「スコル、話を聞いてくれますか?」
僕は思い切って彼に話しかける。
「あぁ」
スコルは短く返事をする。僕が何を言おうとしているのかわかっているんだろうか。
「僕、これからどうするかもう決めましたよ」
それを聞いたスコルはわざとらしいくらい意外そうな顔をして言った。
「へぇ、ずいぶん早いんだな。数日やるって言ったんだから、もっとじっくり考えなくていいのか?」
スコルがそう言ってくれたのはありがたいけど、さっき宿屋で眠る前に辿り着いた答えは、いくら考えても変わらない気がする。
「いいんですよ。あなた達をあんまり待たせても仕方がないですし、僕の中ではもう答えがでちゃったんですから」
「なら聞かせてくれ」
スコルは腕を組んで僕の話を聞く態勢になった。エリスは何も言わないけど、僕の次の言葉をじっと待っている。さて、無い知恵を絞って出した答えを披露するか。僕は一つ咳払いをしてから話し出した。
「僕はスコルの弟子を辞めたりしませんし、カロンを捕まえる為にあなた達に協力しますよ。あいつを捕まえない限り、僕を狙ってくる可能性がありますからね。だったらあなた達と一緒にいた方がいいと思います。自分で考えた結果、それが一番ましな選択だと思いました」
「ましな選択か。まぁ、あいつを何とかしないと、お前さんびびっちまって安心して夜も眠れないもんな」
スコルはわかっていたと言わんばかり。おまけにまた僕を馬鹿にしている。
「協力してくれるって言ってるんだから、そんな事言わないの」
エリスがスコルに注意する。まったくその通りだ。彼は僕が怒って席を立つとは考えないんだろうか。そんな事できないとわかって馬鹿にしているんだろうな、たぶん。
「また、囮にされても承知の上って事でいいんだな?」
スコルは身を乗り出して聞いてくる。なんとなく思っていたけど、協力するって事はそういう事になるんだろう。またしても僕は囮として危険に晒されるわけだ。でも、それ以外に方法がないのなら仕方がない。
「僕も腹をくくりましたよ。囮でも何でも、とにかくあいつを捕まえましょう」
そう言いながらも僕は心の中で起きてきそうな弱気の虫を必死に抑えつける。誰だってできればそんな事やらずに済ませたいに決まっている。
「覚悟を決めた男の子っていいわねぇ」
エリスがそう言った。その瞬間の彼女と言ったら、カロンなんかよりよっぽど危険な香りがした。にっこりと笑っているものの、真っ赤な瞳は妖しく光る。おまけに舌舐めずりまでしているじゃないか。彼女の事は好きだけど、こんな目で見られたんじゃたまったもんじゃない。背筋がぞっとして思わず距離を取る為に身を引いてしまった。
「こらこら、そんな目でぼうずを見るな」
慌ててスコルがエリスの眼前で手を振る。彼女はそれを見て表情を取り繕う。スコルがいてくれてよかった。二人きりだったら彼女は僕の首にかじりついていたかもしれない。ほっとした僕に向かってスコルが提案してくる。
「景気づけに酒でも一杯やるか」
「お酒はあまり好きじゃないんですよ」
飲めなくはないけど、好きじゃないんだよね。苦いという印象しかない。
「そう言うなよ、景気づけなんだから。お前さんも飲める甘口のを頼んでやる。それに……」
遠慮する僕に言いながらスコルは言葉を切った。何かあるんだろうか。
「それに?」
「事が済んだ時に、お前さんが五体満足で酒を飲めるかわからんからな。今の内に飲んでおけ」
うーん、縁起でもない事を言うな。確かに僕が無事に済むかどうかなんてわからないけど。
「……」
無言の僕に構わず、彼は大声で店員を呼んでいた。
「おぉい、注文だ!」
エルフの店員がその大声にすっ飛んで来る。スコルが注文をして、間もなく飲み物が運ばれてきた。スコルは泡立つ黄金色のビール、僕は透明に近い白ワイン、エリスは真っ赤なブラッディメアリーとかいうお酒。ブラッディとは言っても血じゃなくて本当にお酒らしい。
僕らはそれぞれグラスを持った。
「じゃ、無事に奴をとっ捕まえられる事を願って、乾杯!」
スコルの言葉を聞いてグラスを軽く合わせる。無事に済めばいいけど。僕はグラスの中の液体を一気に呷った。思っていたほど苦くはないや。
「で、これからどうするんですか?」
僕が一緒にいる事は決まったけど、この後どうするか聞いてないや。
「人間の次元に戻って、またカロンが来るのを待つ。ただ、あいつを捕まえる準備が整うまで、もうしばらくかかりそうなんだ。それまではここに留まってた方が安全だろうな。お前さん、マーケットを見て回りたいだろうが、宿から出る時は念の為俺かエリスに声をかけてくれ」
「わかりました」
そういう事なら準備が整うまでは、エルフのマーケットを観光させてもらうとしよう。
次回はマーケット観光




